サッカー試合後のユニフォーム交換が実は予約制って知ってた?
パラサポWEB / 2021年5月10日 16時2分
スポーツはプレーをしたり、見たりするだけでなく、知ることによっても楽しめるという、スポーツのもうひとつの魅力に光を当てた書籍『大人も知らない!? スポーツの実は…』(文響社)。監修者の日本体育大学教授・白旗和也氏が、これまでのスポーツのイメージを覆す面白いエピソードを、全35種類のスポーツ&パラスポーツから厳選して教えてくれている。ここでは、その中から思わず誰かに話したくなる特にインパクトの強い話題を一部抜粋して紹介したい。
【その1】サッカーの試合後に行われる感動のユニフォーム交換は、なんと予約制だった!写真は2012年サッカー日本代表国際親善試合(対ベネズエラ戦) ©︎Getty Images Sports
サッカーの試合後にお馴染みとなっているユニフォーム交換は、お互いの健闘を称え合い、相手選手に尊敬の意を示す名場面のひとつだ。ファンであれば、誰と誰がユニフォームを交換するのだろうかと、興味津津と見守っていることだろう。ところが、そんな感動のユニフォーム交換には、とんでもないウラ話が存在していた!
実は試合前から、誰と誰のユニフォームを交換するか、というのは予約制で決まっていることが多いのです。というのも、スター選手ほど「ユニフォームを交換したい」とせがまれるもの。試合後の疲れた状態で「俺と交換を!」「いや、僕とお願いします」と迫られて困らないよう、事前に相手を決めているのです。 (白旗和也監修『大人も知らない!?スポーツの実は…』から抜粋。以下同)
あのサッカーだけに存在していた神聖な瞬間がある意味出来レースだったなんて……。ショックを受けてしまった人もご心配なく。実はこの話には続きがあって、試合中に本当にスゴいプレーで会場を沸かせた選手には、スター選手の方から予定を変更してユニフォーム交換を申し出ることもあるそうだ。こうして生まれる名場面もあるということでひと安心。
【その2】マラソンには54年もかけてゴールにたどり着いた、とんでもない選手がいた!陸上・長距離走の人気種目であるマラソン。その世界記録は、ケニアのエリウド・キプチョゲ選手の持つ2時間1分39秒が最速タイムとして知られているが、反対に、最長タイムの世界記録は日本人が持っていることをご存知だろうか? その人物とは、箱根駅伝の生みの親で、「日本マラソンの父」として知られる金栗四三選手だ。
1912年に開催されたストックホルムオリンピックのマラソンに出場した金栗選手は、大会当日が猛暑だったこともあり、レースの途中で日射病により意識を失い、倒れてしまう。幸い、付近の農家に助けられるが、金栗選手が目を覚ましたのは、なんと翌日のことだった。
ところがそのことが主催者に伝わらず、彼は「行方不明」となってしまったのです。それから約55年後、76歳の金栗選手はオリンピック記念式典に招待されゴールテープを切らせてもらいます。すると「日本の金栗、ただいまゴールイン。タイム54年と8か月6日5時間32分20秒3」とアナウンスが流れました。
完走後に金栗選手は「長い道のりでした」と振り返り、「この間に孫が5人できました」とのコメントで会場の笑いを誘ったという。この半世紀にも及ぶ奇跡の物語は、世界最長タイムとしてはもちろん、心温まるエピソードとしても多くの人々の心に記録されていくことだろう。
【その3】20年に一度しか採石されない! カーリングのストーンは激レアアイテムだった!写真は平昌2018冬季オリンピック ©︎Getty Images Sports
ストーンを氷上に描いた円に向けて滑らせ、その数や位置によって得点を競うカーリング。この独特の形をしたストーンは、ただの石ではなく、実はとんでもない高級品だった。そのお値段は、なんと1個あたり10万円ほど!
しかし、一体なぜそんなにまで高価なのか? 理由はやはり、その材料にあります。公式大会で使用されるストーンは、世界でたった1か所でしか採石できない非常に貴重な石材から作られています。その石材とは特別な強さと均一さをもつ花崗岩で、カーリング発祥の地・スコットランドの西の沖に浮かぶ無人島・アルサグレイグ島でしか産出されません。
カーリングには氷上での動きを正確に予測できるよう、ダメージに強く、水を吸収しないストーンが求められる。この条件に最も適した石が、マグマが急速に冷えて誕生したアルサグレイグ島で採れる特別な石というわけなのだ。加えて、このストーンには、その希少性をさらにアピールするエピソードがある。
しかも、資源保護のため、20年に一度しか採石できない決まり。いつでも簡単に作れるわけではないのです。
採掘にまで制限があったとは、恐れ入りました! そんな背景に思いを馳せてカーリングを観戦すると、これまでとは違う視点で楽しめるかもしれない。
【その4】ガッツポーズで一本が取り消しに!? 礼節を重んじる剣道には厳しいルールがあった!試合での勝敗が決定する瞬間、感極まって出てしまうガッツポーズはさまざまなスポーツで目にする光景だ。ところが、このガッツポーズをしたことで反則になり、結果が覆ってしまう競技がある。それが日本の古武道剣術をルーツにもつ剣道だ。
もし、面や胴、小手がキレイに決まって一本を取ったあとにガッツポーズをしてしまったら、その一本は取り消しとなってしまいます。
その理由は大きく2つある。ひとつは、礼節を重んじる剣道において、敗者の前で喜びを表現するガッツポーズは相手への敬意が感じられない無礼な行為とみなされるから。もうひとつは、相手のどんな反撃にもすぐに対応できる身構えと心構えをもつ、剣道の「残心」という教えに反しているからだ。もし真剣の勝負であれば、ガッツポーズで油断した隙に相手の反撃を受ける可能性があることは否めない。
少々重すぎの罰則のように感じてしまうが、剣道が人間形成を目的とするスポーツである以上、当然のルールなのかもしれない。
【その5】オリンピックのメダリストがノーベル賞も受賞!? 世界には凄まじい超人がいた!世の中には、「超人」と呼ばれる人間が本当にいる。多くのアスリートが血のにじむような努力をして挑む、オリンピックというスポーツの最高峰と、同じく多くの天才たちが研究に研究を重ねてたどり着く、ノーベル賞という学問の最高峰。この2つの頂(いただき)に到達した人物が、世界にたった一人だけいるのだ。
イギリス人のフィリップ・ノエル=ベーカーさんです。陸上・1500m走の選手だったベーカー選手は、オリンピック3大会に出場。1920年のアントワープ大会では、見事銀メダルを獲得します。そして、現役引退後は政治家として活躍。とくに平和軍縮活動が評価されて、1959年にノーベル平和賞を受賞します。
「オリンピックは20世紀最大の平和運動。国際政治もオリンピックから学ぶべきである」と訴え続けたベーカー氏。「平和の祭典」であるオリンピックのメダリストが、後に世界平和に貢献してノーベル平和賞を受賞するとは、なんとも物語的な運命を感じずにはいられない。
【その6】パワーリフティングの世界記録は、パラアスリートが持っていたのです!写真は、リオ2016パラリンピック ©︎Getty Images Sports
重りのついたバーベルを押し上げて重量を競う「パワーリフティング」の人気種目である「ベンチプレス」。ベンチに横たわった状態から両手で握ったバーベルを胸まで下ろし、再び腕が伸びるまで押し上げるという競技だ。
実はこのベンチプレスの人類最高記録は、パラアスリートが持っている。世界最強のパラリンピアンとして名高いシアマンド・ラーマン選手だ。
イランのラーマン選手は足に生まれつき障がいがありながら、2010年の世界選手権の男子最重量階級(100kg超級)で当時の世界記録となる285kgを樹立。さらに、2016年リオパラリンピックでは自身の記録を更新する310kgを持ち上げました。
ラーマン選手が2010年に世界記録を樹立したのは、トレーニングをはじめてからわずか2年後の出来事というから驚きだ。しかも、2016年に記録した310kgは史上初となる300kg超えの快挙で、健常者の世界記録をも凌駕する結果となった。
東京パラリンピックでは320kg以上を上げたいとの抱負を語っていたラーマン選手だが、残念ながら昨年3月に心臓発作によりこの世を去っている。享年31歳。しかし、彼の偉業はその素晴らしい人柄とともに、これからも語り継がれていくだろう。
【その7】世界で通じるスポーツ造語! パラリンピックの名付け親は、実は日本人だった!写真はロンドン2012パラリンピック ©︎Getty Images Sports
パラリンピックのトピックでは、もうひとつ興味深いエピソードがある。それは、パラリンピックという名前の由来だ。
実はこの「パラリンピック」という名称は日本人がつけたもの。ローマ大会から4年後の1964年東京オリンピックにあわせて行われた障がい者のためのスポーツ大会を「パラリンピック」と呼んだのがきっかけです。「下半身まひ」のことを英語で「パラプレジア」と呼ぶことから、「オリンピック」とかけあわせて生まれた“造語”でした。
1964年の大会には車いすユーザーだけが参加したことから、この「パラプレジア」という単語が採用されたという。日本人が当時愛称として命名したのは間違いないのだが、いまだ誰が発案したのかがわからないことも、ややミステリー感があって面白い。
その後、1988年のソウルオリンピックで、正式にその名が採用されることになったパラリンピック。いまでは「もうひとつの、並行する」という意味をもつ「パラレル」の解釈を加えるようになり、全世界で40億人以上が観戦するビッグイベントへと成長した。その名付け親が日本人であるかと思うと、ちょっぴり得意げになってしまう。
これまで知らなかったスポーツの意外な一面を知ると、これまで以上に親しみがわいてくるから不思議なものだ。皆さんもこの驚きを誰かと共有して、歴史や秘話からもスポーツを楽しんでみてはいかがだろうか。
<参考図書>『大人も知らない!? スポーツの実は…』
白旗和也(監修)/文響社
日本体育大学教授の白旗和也氏が教える、スポーツ・オリンピックが100倍楽しくなる事典。あらゆる切り口からスポーツの「びっくり」に触れながら それぞれのスポーツの多様な魅力を知ることができる一冊。
text by Jun Takayanagi(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock、Getty Images Sports
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