たった4分でできる、子供の学力を上げる脳育のコツ
パラサポWEB / 2021年5月18日 11時38分
脳の働きを活性化するためのトレーニング“脳トレ”がブームになって久しい。本やコンシューマーゲームなどを使いクイズやパズルを解くことで脳は鍛えられると思っている人は少なくないが、それよりもはるかに効果的で、しかも1日に数十分、最低でも4分でできる方法があることをご存じだろうか。それは、ひと言で言うと「戦略的に運動をする」こと。脳を鍛えるには、これが早ければ早いほどいい。ここでは子どもの学力を飛躍的に伸ばす方法を中心にご紹介しよう。
生活習慣は激変したが、1万2000年前と変わらない私たちの脳驚異的な「脳のアップグレード」を可能にする、科学が実証した世界最新のノウハウを『一流の頭脳』(御舩由美子訳/サンマーク出版)という著書にまとめたのは精神科医のアンダース・ハンセン氏。ノーベル生理学・医学賞の選定機関、スウェーデンのカロリンス研究所で研究を重ね、2000件以上の医学記事を発表した世界的研究者だ。ハンセン氏は、なぜ運動が脳の力を引き出すのに効果的なのかを説明するカギとして、1万2000年前に生きていた私たちの祖先、原始人と現代人の脳を比較する。
もちろん、話す言葉や経験してきたことはまったく違う。
それでも、身体の機能は頭からつま先まで何一つ変わらない。認知機能や感情も、そっくり同じものが備わっている。
じつは、私たち人類は1万2000年前からほとんど変わっていないのである。
いっぽう生活習慣は、ここ100年だけ見ても激変した。
(アンダース・ハンセン著『一流の頭脳』から抜粋。以下同)現代に生きる私たちは、家の中では雨風をしのぎ、快適な気温の中で過ごすことができる。また、ITの発展によりさまざまな利便性を手に入れた。1万2000年前に生きた原始人には想像も出来ないような技術を手にして便利な生活をしている。そして、
あなたの生活習慣と原始時代の人々の生活習慣にはもうひとつ根本的な違いがある。原始時代の人々は、あなたよりはるかによく動くという点である。(中略)
理由は簡単だ。人類の歴史において、ほとんどの時代、身体を動かさなければ食料を手に入れることも、生き延びることもできなかったからだ。そのため、私たちの身体は動くのに適したつくりになっている。
そして、脳も例外ではない。
つまり脳は、食糧を調達するために狩りに出かけるなど、活発に動いていた時代と同じということ。そんな祖先と同じように身体を動かせば、脳は今よりずっと効率よく働いてくれるとハンセン氏は結論づけたのだ。それはマウスや人間を使った実験で証明されている。ケージで飼育されているマウスのうち、回し車をこいだマウスは、こがないマウスより脳の老化が遅く、週に数回の頻度でウォーキングを1年間行った60歳の被験者たちは、軽い運動しかしなかった被験者より脳の働きが改善していたというのである。
要するに、身体を活発に動かした人の脳は機能が向上し、加齢による悪影響が抑制され、むしろ脳が若返ると判明したのだ。
基本的な脳の働きや老化は運動(ウォーキングなど)で改善されることがわかったが、学力に関してはどうだろうか。よく勉強ができる子・できない子は、生まれつきの脳の重さや脳細胞の数によるなどと言われるが、それは間違いなのだという。実際、天才的物理学者・アインシュタインの脳は平均的な脳より大きくも重くもなかったそうだし、2歳児の脳細胞のつながりの数は大人のそれよりもはるかに多いが、成長するにつれ青年期までは1日に200億近くのつながりが消えるのだそうだ。
たとえば脳を、すべての部品がきちんとつながったコンピュータだと考えてみよう。部品同士の接続が悪いと、内蔵された部品のひとつひとつが正常に機能していてもコンピュータは作動しない。
つまり機能的に優れた脳とは、細胞がたくさんある脳でも、細胞同士がたくさんつながっている脳でもなく、各領域(たとえば前頭葉や頭頂葉)がしっかりと連携している脳なのだ。
この脳の連携を強め、学力を高めるのも身体活動(運動)なのだという。それはスウェーデンのある小学校で行われた試みにより実証されている。
調査の対象となった2つの小学校では、時間割に体育が毎日組み入れられた。また比較のため、通常通り体育を週に2回行うクラスも設けられた。
体育の授業の回数以外、条件はすべて同じだった。居住区も学校も授業内容も、みな同じだ。結果はどうだっただろうか。
まず、毎日体育の授業を受けた生徒は、週に2回の生徒よりも体育の成績がよかった。これは当たり前の結果だ。予想外だったのは、この生徒たちが特別な指導を受けたわけでもないのに、算数や国語、英語でもよい成績を取ったことである。しかも、その効果は何年も続いた。
これは驚くべきことだ。運動、しかも特別なスポーツなどではなく、体育の授業程度のものが学力向上に効果があるというのだから。それは、脳の記憶を司る部分・海馬が運動によって成長するからだという。つまり、運動し身体のコンディションが良好になると海馬が生長し、子どもの記憶力をはじめとする学力が向上するのだ。
運動の効果のポイントは集中力体育の授業だけでは少々曖昧なので、具体的にはどの程度の運動が学力に効果的なのか探ってみよう。実際に9歳児が20分運動すると、1回の活動で読解力が格段にあがったというデータがあるそうだ。そのメカニズムはまだ詳しくは解明されていないが、子どもは運動後集中できる時間が長くなることが実験で証明されており、「集中力」が鍵を握るのだという。
では、子供の集中力を維持するには、最低どのぐらい運動すればいいのだろうか。それを探る調査が実際に行われている。結果は、まさに驚くべきものだった。10代の子供たちが12分ジョギングをしただけで、「読解力」と「視覚的注意力」がどちらも向上したのである。そして、その効果は1時間近くも続いた。
それだけではなく、たった4分(これは目の錯覚ではないので、ご安心を)の運動をするだけでも集中力と注意力が改善され、10歳の子どもが気を散らすことなく物事に取り組めることも立証された。
4分の運動で良いとは、まさに驚きだがポイントは心拍数なのだそうだ。子どもによっては運動するよりじっと座って本を読むのが好きだったり、パソコンから片時も離れたくないと思う子だったりするケースもあるだろう。そんな子どもには、なんでもできそうなこと、好きな活動を選ばせれば良い。どんな運動を選ぶかは重要ではないのだ。
ランニング、遊び、テニスやサッカーの試合――どんなものでも同じような効果があると考えられている。ポイントは「心拍数を上げること」。だが、何より大切なのは、何をして身体を動かすかではなく、とにかく身体を動かすことだ。
多くの研究データによると、この効果は小学校に通う学童期が最も恩恵を受けるのだという。今これを読んでいる読者の周囲に小学生がいるなら、今すぐ運動をさせた方が良さそうだ。
立って作業することで思考力は高まるそしてもうひとつ、成績を良くする手、「もっと早く」点数があがる方法をハンセン氏は教えてくれている。それは立って作業をすることだ。少し前に日本でもデスクワークで座りすぎなのが健康に悪影響を及ぼすということで、高さを自由に変えることのできる「スタンディング・デスク」が話題になった。立つことが、脳の働きにも関係するということか。
スウェーデンではいまや、オフィスで立ち机を使うことが流行のようになっている。立って仕事をする人のほとんどは、仕事をしながらでもカロリーを消費できるという理由で立ち机を使っているのだろう。実際に、座っているときよりも立っているときのほうが、エネルギーの消費量は2倍近く(!)に増える。だがじつは、カロリーの消費など比べものにならないほど、すばらしい効果が脳にもたらされるのである。
学校でも職場でも、立って作業をすると脳が効率よく働くのだ。
実験によると、学校で立ち机を使って学習するようになった子どもたちは、それ以前より集中力やワーキングメモリー、認知制御(高次の思考によって衝動を抑え込む働き)の能力が増したのだという。
結論は言うまでもないだろう。立ったほうが思考力は高くなる。立って授業を受けた子どもたちは集中力が増し、勉強の内容も頭に入りやすくなるのだ。家庭学習などで早速取り入れて見てはいかがだろう。
この記事では、主に子どもの脳と運動の関係について述べた。しかし、子どもの時期をとうの昔に過ぎた大人はもう手遅れなのか? いや、そんなことはない。運動は加齢による悪影響を抑制し、脳を若返らせるというのだから。今すぐ立ちあがり、ウォーキングなど心拍数を上げる運動をしよう。
<参考図書>『一流の頭脳』
アンダース・ハンセン著/御舩由美子訳(サンマーク出版)
秘められた脳の力を最大限に引き出し、あらゆる能力を最大化する究極の英知。医学研究機関しか知り得ない最新のデータ満載で、科学的なエビデンスに基づきIQ、集中力、記憶力、創造性、認知力、長寿、抗疲労などすべてのパフォーマンスを強化する方法を解説する。
Text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock
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