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アスリートのうんち集めで始まった鈴木啓太氏の起業アイデアとは

パラサポWEB / 2021年6月11日 18時25分

Jリーグ浦和レッズ一筋、16年間もの長きにわたって活躍した元サッカー日本代表の鈴木啓太氏。2015年の引退後、今度はアスリートの“うんち”を集めて研究するというユニークなテーマで起業し、注目を集めている。アスリートから一転、30代でゼロからビジネスを始めた軽やかな転身の模様と、アスリートの新たな価値についてを鈴木啓太氏本人に伺った。

“うんち記録アプリ”を知ってわずか1週間で決めた起業
現在、腸内細菌解析やフードテック事業を手がけるバイオベンチャー企業、AuB株式会社(オーブ)の代表を務める鈴木啓太氏

鈴木氏が現役引退後に起業してまで情熱を傾けているのは、ひらたく言うと、アスリートの便を集めて主に腸内細菌を研究し、その結果をアスリートや一般の人たちの健康維持に役立てる仕事。2021年3月現在までに集めたアスリートの便の数は28競技、700~800人分、約1500検体にのぼる。なぜ、アスリートだった鈴木氏がバイオベンチャーの企業を立ち上げることになったのか、それはある出会いがきっかけだったという。

「知人のトレーナーと話しているときに、便秘などで悩んでいる女性向けに“うんちの記録アプリ”を作っている人がいるという話題になったんです。僕は調理師だった母親に小さい頃から、健康のためにうんちを見なさいとか、腸内細菌のサプリメントを飲むようにと勧められていたので、そのアプリの話がすごく面白そうだと思ったんです。それから3日後にはアプリを開発している方を紹介してもらってお会いしていました」(鈴木啓太氏 以下同)

そこで鈴木氏が聞いたのは、肉体に特徴がある人、人とは違った生活をしている人たちなどの腸内細菌を調べると意外な発見があるということ。

「特徴のある人って言ったら、我々アスリートじゃない? アスリートの腸内細菌を調べたら面白くない? という話になって、じゃあそれを調べる会社を作ろうと、3日後には起業の話が確定していました」

アプリの話を聞いてからわずか1週間で起業を決めたわけだが、この決断力の裏には鈴木氏がもともと考えていた、スポーツ界の課題があった。

便を集めてわかったアスリートの新たな価値

どんなに華々しく活躍したアスリートでも引退後に監督やコーチ、解説者などとして活躍し続けられる人は一握りだ。引退後の第二の人生をどう生きるかで悩むアスリートも少なくない。そんな中、自身も長くサッカーをしてきた鈴木氏は、スポーツはエンターテインメントとして価値があるが、今後はそれ以外の価値を提案していくことがスポーツ界の課題だと考えていた。

「アスリートの便を集めてわかったのは、一般の人に比べてアスリートの腸内細菌には多様性があるということです。たとえば、ある研究によると、酪酸菌は持久力に関係する短鎖脂肪酸を作るという結果が出ていますが、アスリートはこの酪酸菌を持っている人が多い。こうしたアスリートの能力が、エンターテインメントの枠を超えてヘルスケアの領域でも貢献できるようになれば、アスリートの新たな価値を生み出すこともできるんじゃないかと思うんです」

こうして第二の人生のテーマと目標が決まった鈴木氏は現役時代の人脈を使い、サッカー選手はもちろん、ラグビーや野球などあらゆるアスリートに「うんちを提供して」と声をかけた。そうして蓄積したデータが評価され、創業から5年目の2021年2月、鈴木氏の会社は古巣の浦和レッズと、アカデミー(下部組織)の強化を目的としたパートナー契約を締結した。

チャレンジしないで後悔するなら、たとえ負けたとしてもチャレンジしたい

鈴木氏の会社は最初から順風満帆だったわけではない。当初「うんちを提供して」と言うと奇妙なものを見るような顔をされたし、「そんな研究は大手企業がやってることだから無理だ」「騙されているんじゃないか」などと言われたという。それでも、鈴木氏は検体集めを続けた。

「子どもの頃、君がサッカー選手になるなんて無理だという大人がたくさんいました。まわりには僕よりサッカーがうまい子どもがたくさんいたので、大人は僕くらいのレベルではプロにはなれないと思うわけですよ。常識的に考えればそれは正解だったと思います。でも、それでもやるんだと思って続ければ不可能が可能になるチャンスはある。昔、月に行くなんて無理だと言われていた時代、それでも研究を続けた人たちは月に行くことができたのと同じです。人は頭がよくなると、チャレンジする前から『それは無理だ』と諦めてしまう。だったら頭なんて良くならなくていい、アホでいた方がいいと思うんです。僕は会社を作るってことに対して知識がなかった。ある意味アホだったから『面白そうだからやろう!』と思えたんですよ」

こう思えるようになったのには、引退前年のある試合が影響しているという。それは2014年のリーグ優勝を決める大事な一戦。5万人の観客が見守るその試合で、鈴木氏のパスミスが原因となり浦和レッズは優勝を逃した。

「未だにあのミスを許してくれないサポーターもいるかもしれない。それくらい大きなミスでしたが、チャレンジしたからこそ、その失敗を次にどう生かすかを考えることができた。だからあのミスも僕にとっては大きな価値があるんです。チャレンジしないで勝てなかった試合と、チャレンジしたけど負けた試合では、得るものが全然違うと思います」

この経験があったからこそ、鈴木氏は誰に何を言われてもチャレンジは続けたいと言う。

アスリートが生み出す、スポーツ界と社会の好循環とは

鈴木氏の会社では集めた便から得たデータを元に、サプリメントの開発や、アスリートの腸内環境などを調べコンディショニングサポートするといった事業を行っている。鈴木氏はアスリートの秘めた力を社会に還元できるこの仕事がアスリートの価値を高めるきっかけになってくれればと話す。

「アスリートのデータが社会に還元されるなんて、ワクワクするじゃないですか。海外に比べて日本ではアスリートがスポーツ以外のジャンルで活躍したり、社会的な発言をしたりする機会が少ないと思うんです。でもそれではスポーツ選手になりたいと思う子どもも、子どもをスポーツ選手にさせたいと思う親も減ってしまいますよね。ですから競技以外でも何かを社会に還元することによってアスリートの価値を高め、今まで以上に応援をしてもらう。そして応援してくれた人達の人生も豊かになる。そんないい循環を作る仕組みを作れたらいいなと思っています」


現在起業家として活躍している鈴木氏が、アスリートが第二の人生を歩む上で重要だと考えているのは、自分の価値を見極めること。そして、鈴木氏自身の価値は多くのサポーターがいてくれたことにあると言う。現役時代はサッカーというエンターテインメントでサポーターに喜んでもらっていたが、引退したからといって、その繋がりは終わりではない。今度はヘルスケアという領域でサポーターの健康に貢献し、喜んでもらう。形は違えど16年間かけて作り上げてきた鈴木氏の価値は引退したからといってゼロになったわけではないのだ。このように現役時代に培ってきた経験や知識、人脈、信頼を活かし、引退した今も人々を喜ばせ続けることができたら、選手にとってもファンにとっても幸せなことだ。この取材を通して、新時代のアスリートの生き方を見た気がする。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

photo by Yuji Nomura,Shutterstock

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