ゴールに背を向けて全力疾走。水上の華麗なる筋肉バトルが熱い!
パラサポWEB / 2021年7月13日 8時0分
パラリンピックの「ボート」って、どんなスポーツ?
簡単に言うと・・・
①ゴールに背を向けて、ひたすら漕ぐ!
②下肢障がい、または視覚障がいのある選手が参加
③2000メートルの直線コースでタイムを競う
④身体障がい&視覚障がいの混合チームで挑む種目がある
水上で行うスポーツのうちパラリンピックの競技として採用されているのは、ボートとカヌー。さて、この2つ「どう違うの?」と思う人も多いだろう。最大の違いは、カヌーは進行方向に向かってパドルを漕ぐが、ボートは進行方向とは逆向きに座ってオールを漕ぐ。つまり、競技中、ずっとゴールに背を向けっぱなしなのだ。
パラリンピックのボートは、パラ(para)とローイング(rowing=ボートこぎの意)を合わせてパラローイングと呼ばれている。2008年の北京パラリンピックから正式競技になり、まだ歴史としては浅い。コースは直線のみ、ボートの先端がフィニッシュラインを通過したらゴールという極めてシンプルなルールで、見ていて非常にわかりやすい。そして、ボートは水上を優雅に進むイメージだが、実は相当にハードな競技。種目によっては、腕と肩の力のみで2000メートル漕ぎ続ける選手もいるので注目だ。
一般のボートと何が違うの?(写真はロンドン2012パラリンピック)ⓒGetty Images Sport ①障がいの内容によって3つの種目に分かれる
ボートの種目 1:「PR1 シングルスカル」(男子/女子)→1人乗り
2:「PR2 ダブルスカル」(混合)→ 男女ペアの2人乗り
3:「PR3 舵手つきフォア」(混合)→ 舵手が同乗する4人乗り
ボートのクラス分け PR1:胴体が動かせず、肩と腕の機能だけで漕ぐ。(自足歩行ができない)
PR2:胴体、肩と腕を使って漕ぐ。(下肢切断など)
PR3:脚、胴体、肩と腕を使って漕ぐことができる。(切断、視覚障がいなど)
ボートの種目は、障がいの種類・程度(PR1〜3)と連動しているのもポイント。スカルとは、選手1人が左右に1本ずつ小さなオールを持ち、計2本のオールで左右対称に漕ぐスタイルをいう。一般のボートでは、スウィープ(選手1人が1本の大きなオールを両手で漕ぐスタイル)という種類がプラスされ、人数も1人、2人、4人、8人と分けられ、体重制限のある軽量級など含め、全7種目あるが、パラリンピックのボートでは、スカルのスタイルで行う3種目、フォア1種目とシンプルなのも特徴だ。ちなみに、舵手つきフォアのフォアは「4」の意で、舵手1人プラス男女2人ずつの漕手で構成される。
②ボートの仕様にも工夫が!一般的なボートは膝の曲げ伸ばしに合わせてシートがスライドする仕組みだが、下肢障がいのあるPR1とPR2のボートはシートが固定されているのが大きな特徴だ。
・PR1のボート
選手体幹を使うことができず、座った状態では安全のため、ボートにはオールを支える器具のところに浮きが取り付けられているのが特徴。また、背もたれも装備されており、選手はベルトを巻いて胴体をシートに固定し、競技を行う。
・PR2のボート
選手は体幹が効くため、シートは固定されているものの背もたれなどはなく、腰をかけるだけのシンプルな構造となっている。下肢切断の選手は下半身を安定させるために義足をつけたままボートに乗ったり、脚をベルトで巻いて固定したりすることもあり、こういった乗艇時の工夫にも注目したい。
・PR3のボート
選手は比較的軽度の障がいが対象となるため、一般と同じボートを使用する。
③身体障がい&視覚障がいの混合チームで競う種目があるPR3の混合舵手つきフォアは、チーム編成が特徴的だ。脳性まひによる機能障がい、腕や片脚の切断など、腕や脚などに障がいはあるが一般と同じボートを使える選手、そして視覚障がいのある選手が参加できる。男女2人ずつ、そして舵手(コックス/健常者の参加も可)を入れて計5人でワンチームだ。このような混合チームで競う種目はパラリンピック競技の中でもめずらしい。
視覚障がいは全盲から弱視まで3つのクラス(B1~B3)に分けられ、1チーム内に最大2名まで、かつそのうちB3(弱視や視野狭窄など、軽度の障がい)の選手は1名のみと決まっている。障がいが違えば漕ぎ方も変わる。どんなメンバーでチームを構成するか、それぞれの障がいの特性を理解し戦略を立てることが重要になる。
ココに注目!観戦が面白くなるポイントは?(写真は北京2008パラリンピック)ⓒGetty Images Sport ①距離が2倍になり、ラストスパートはさらに白熱!
前回のリオ大会以後、東京大会に向けての大きな変化は、レースの距離が1000メートルから、健常者のレースと同じ2000メートルに伸びたことである。距離が変われば戦術も変わってくる。勝負どころでのスパートをかけるシーン、そして特に終盤、デッドヒートになった場合すべての力を振り絞って漕ぐ選手の姿に興奮すること間違いなしだ。
②異なる障がいのある選手たちの見事なチームワークPR3の混合舵手つきフォアでは、舵手は司令塔の役割を担う。視覚障がいのある選手はほかの選手の様子を目視で確認できないため、舵手の声かけが頼りだ。ボートは力任せに漕げば速く進むというものでもない。全員の漕ぐタイミングやスピードが合えば、水をとらえて何倍もの推進力を生み出せるのだ。男女では筋力の差があるし、たとえば半身にまひがあると左右で漕ぎ方が異なる。チームで練習を通してトライ&エラーを繰り返し、同じリズムを生み出していく。心も動きも1つになる。まさしくワンチームの精神だ! 舵手の指示のもと、チームの一糸乱れぬオールさばきに注目しよう。
東京2020パラリンピックでもボートに注目!(写真は北京2008パラリンピック)ⓒGetty Images Sport
日本では、北京、ロンドン、リオとパラリンピックに3大会連続で代表選手を送り込み、ダブルスカルと女子シングルスカルで出場経験がある。
注目は、これまでパラリンピックに出場したことのないPR3(混合舵手つきフォア)だ。チーム戦は日本の得意とするところ。海外の選手とは体格の差はあれこそ、ワンチームの精神では負けてはいない。東京2020パラリンピックでは多様なメンバーの総合力で勝負するPR3にぜひ注目したい。
ボートの種目、クラス分けが書かれたページはこちら https://www.parasapo.tokyo/sports/rowing
text by Makiko Yasui(Parasapo Lab)
photo by Getty Images Sport
参考資料
『かんたん!ボードガイド』 (外部サイト:日本障がい者スポーツ協会)https://www.jsad.or.jp/about/referenceroom_data/competition-guide_20.pdf
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