世界初!「ゲリラ豪雨」が察知可能に。東京2020イノベーションに注目
パラサポWEB / 2021年8月17日 8時0分
最近、日本で「ゲリラ豪雨」が増えていると言われているのをご存知だろうか? その名の通り局地的な大雨が突発的に降ることから、これまで天気予報でも正確な予測が困難だったが、今回の東京2020オリンピック・パラリンピックの開催をきっかけに、最新の気象レーダが開発され検知が可能になったという。
内閣府が推進するイノベーション「ゲリラ豪雨・竜巻事前予測」プロジェクトは、私たちにどんなメリットがあるのだろうか?
府省を横断した初の取り組み「東京2020大会の科学技術イノベーション」とは?2013年、2020年のオリパラの開催地が東京に決定したが、人口1400万人を超える大都市で国際的な大イベントを安全かつ円滑に進めるのは容易ではないことが予想された。そこで内閣府は、2016年に各界の有識者や東京都などの関係機関を集め「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関するタスクフォース」を開催。東京大会成功のために9つのプロジェクトを立ち上げた。
その中のひとつが今回紹介する「ゲリラ豪雨・竜巻事前予測」。オリンピック・パラリンピックの会場には多くの選手や関係者、観客が集まる。そこで万一、試合当日にゲリラ豪雨や竜巻が発生したとしても、来訪者を的確に誘導し安全を確保できるよう、余裕を持った予測をすることを目的としたプロジェクトだ。
たった30秒で雨雲の構造を把握。警戒・避難の時間確保が可能に内閣府「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関するタスクフォース(第3回)」資料より。
従来の気象観測で使われていた「パラボラ型気象レーダ」は機械的に回転することによって、数分間隔に降雨分布を観測していた。しかしゲリラ豪雨の原因となる積乱雲は、10分程度の短時間で発達することもあるため、予測できたときには雨が降り始めているということも珍しくなかった。
それに対し、今回のプロジェクトで開発された「マルチパラメーターフェーズドアレイ気象レーダ/MP-PAWR(エムピーパワー)」は、10方向以上を同時に観測できる機能などを駆使し、雨雲の立体構造をたった30秒で把握。急速に発達する積乱雲の検知を可能にした世界初の実用型気象レーダだ。これによって、今までできなかった、ゲリラ豪雨の発生20分前の検知、30分先の強風予測、落雷発生予測などが可能となり、警戒・避難等に十分な時間を確保することが可能になった。
このプロジェクトを担当したのは、府省の枠や旧来の分野を超えた科学技術イノベーション実現のための国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」。従来であれば、気象に関する事案は気象庁、防災に関する事案は消防庁などと、それぞれの専門の部署が決まっていた。そうした府省を横断した取り組みを推進するために立ち上げられたのがこのプロジェクト。今回の「ゲリラ豪雨・竜巻事前予測」では、国土交通省をはじめ、防災科学技術研究所や情報通信研究機構、日本気象協会、大阪大学、東芝などさまざまな組織や企業が連携して世界初のイノベーションが進められた。
私たちの暮らしにどう活用する? アプリでいち早く予測残念ながら、今回の東京2020オリンピック・パラリンピックはコロナ禍の影響で多くが無観客試合となった。そのため試合会場でこの仕組みが活用される機会は少ないかもしれない。しかし、このイノベーションは今後の私たちの暮らしに大いに役に立つ可能性を秘めている。
現在、一般に公開されているスマートフォンアプリ「tenki.jp Tokyo雨雲レーダー」は、今はまだ首都圏に範囲が限られているが、ゲリラ豪雨をいち早く予測することができる。たとえば帰宅時に乗り換え駅付近でゲリラ豪雨が発生することがわかれば、経路を変更したり時間をずらしたりして雨に濡れるのを防ぐことができる。
また、イベント主催者などはゲリラ豪雨を事前にキャッチして来場者を安全に誘導することが可能になる。その他にも傘を使うのが難しい車いすユーザーや杖を使う人、ベビーカーを押している人なども、ゲリラ豪雨にあうリスクを軽減できる。さらには首都高や地下鉄などの交通機関と連携したり、自治体へ情報を流したりすれば、事故や災害を未然に防ぐこともできるだろう。
1964年の東京オリパラ開催時にも、日本では大きなイノベーションが起こり私たちの暮らしは飛躍的に便利になった。たとえば新幹線の開通。東京-大阪間を移動するのにそれまで6時間半かかっていたところ、新幹線の開通により4時間に短縮。さらに技術革新が進み現在では2時間半を切るまでに。こうした暮らしを便利で快適にするイノベーションに加え、今回の大会は人に優しいイノベーションが多いことが特徴と言えるかもしれない。お年寄りや小さい子どもをつれた人、車いす利用者など、すべての人が安心して移動し生活できる社会へ、着実に近づいている。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Shutterstock
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