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新種目、世界記録ホルダー、二刀流…見どころ満載の東京パラ・陸上競技

パラサポWEB / 2021年8月21日 8時0分

オリンピックスタジアムを舞台に、「100」を超える種目(クラス)でメダル争いが繰り広げられる陸上競技。今回は、その中からとくに注目すべき種目やクラス、見どころについて、今大会での活躍が期待される日本人選手たちを中心に紹介する。

日本人世界記録ホルダーたちのメダルの行方

日本の陸上競技において、金メダリストの最有力と目されているのが、佐藤友祈(T52/車いす)だ。現在、佐藤は400mと1500mの2種目で世界記録を保持。前回のリオ大会では、2種目ともに最大のライバルであるレイモンド・マーティン(アメリカ)に敗れ、惜しくも銀メダルに終わっただけに、世界記録ホルダーとして挑む今大会は絶対に負けられない。「世界記録は持っていても、パラリンピックのタイトルはまだ持っていないというのが、自分を突き動かす一番大きなもの。世界記録を更新して必ず金メダルを達成する」と、揺るぎない自信を見せる。

2冠の期待がかかる佐藤友祈(写真はREADY STEADY TOKYOーパラ陸上競技)

勢いという点では、男子5000mの唐澤剣也(T11/全盲)だ。今年5月に行われた東日本実業団選手権で15分09秒94の世界新記録を樹立。競技歴はまだ4年余りながら、ガイドランナーも太鼓判を押す終盤のスパート力が最大の武器だ。「2019年の世界パラ陸上選手権では、30度を超える暑い中でのレースで銅メダルを獲得した。今回は最低でもメダルは取りたいし、目標の金メダルを獲れるように頑張りたい」と、パラリンピック初出場でメダル獲得を目指す。

リオパラリンピック後に現れた期待の星・唐澤剣也(写真はREADY STEADY TOKYOーパラ陸上競技)

女子マラソンの道下美里(T12/視覚障がい)も雪辱に燃えている。リオ大会では銀メダルに敗れたものの、2020年12月の防府読売マラソン大会では、自身が持つ世界記録を2分近くも塗り替える世界新記録をマーク。粘り強い走りで、今度こそ表彰台の頂を目指す。

“TOKYO”で世界新記録樹立なるか

世界新記録樹立が最も期待される選手といえば、ドイツの義足ジャンパー、男子走り幅跳びのマルクス・レーム(T64/片足ひざ下切断など)だろう。パラリンピックでは、2012年のロンドン大会、2016年のリオ大会で2大会連続の金メダルを獲得。2018年のヨーロッパ選手権で記録した8m48の大ジャンプは、自らが持つ世界記録を更新しただけでなく、ロンドンオリンピックの優勝記録(8m31)をも上回るなど、その跳躍は常に注目の的だ。大会中盤の9月1日に登場する。

世界中から注目を集めるマルクス・レームのジャンプ(写真は2018ジャパンパラ陸上競技大会) 新旧期待のジャンパーが揃い踏み

走り幅跳びでは日本人選手の活躍も期待されている。今回がパラリンピック初出場となる兎澤朋美(T63/片大腿義足)は、2019年の世界パラ陸上選手権で銅メダルを獲得。今年6月のパラ陸上種目別記録会でも4m57の日本新をマークするなど、メダルに手の届く位置にいる。

さらに、女子では中西麻耶(T64/片下腿義足)、男子では山本篤(T63/片大腿義足)という、共にパラリンピック4大会連続出場となる実力者も、虎視眈々とメダル獲得を目指す。とくに、中西は過去大会における最高成績が4位だけに、自国開催の今回は力が入る。

中西麻耶は名実ともに日本のトップパラアスリートだ(写真は2021ジャパンパラ陸上競技大会) 日本ハイジャンプ界が誇るレジェンド

その実力者2人をも上回る、6度目のパラリンピック出場となるのが男子走り高跳びの鈴木徹(T64/片下腿義足など)だ。これまで5大会すべてで入賞を果たし、北京大会では日本代表選手団の旗手も務めた、名実ともに日本を代表するパラリンピアンだ。自国開催となる今大会に向けては、「自分がいいジャンプをするだけ。楽しく跳びたい」。百戦錬磨のベテランらしいリラックスしたコメントで悲願のメダル獲得に挑戦する。

同門対決にも注目の投てき競技

男子やり投げ(F46)には山﨑晃裕白砂匠庸の2名がエントリー。山﨑は野球から、白砂は砲丸投げから、それぞれやり投げに転向。所属は異なるものの同じコーチに師事を仰ぎ、合宿を共にするという間柄でもある2人。現日本記録保持者(60m65)でもある山﨑は、「ずっと切磋琢磨してきて、記録が伸びずスランプというか、悔しい思いもしてきた仲間。ライバルではあるが、今大会に向けてはチームジャパンとして世界に立ち向かっていきたい」と共闘を誓う。

一方、白砂は今年5月のテスト大会で今シーズン世界ランキング1位の60m63を記録。「(山﨑選手に対しては)憧れの選手で、追いつきたい追い越したい気持ちがすごくあった。今ではよきライバルであり、よき仲間。東京大会でも、チームジャパンとして切磋琢磨していきたい」。ライバルとして、仲間として、立ちはだかる世界の高い壁に立ち向かう。

2000年代生まれの若手がカギを握る新種目

新種目のユニバーサルリレー(4×100m)は、視覚障がい、切断・機能障がい、脳性まひ(立位)、車いすの選手による、性別や障がいの枠を超えた混合リレーだ。勝負のカギを握るのは、2000年代生まれの大島健吾(T64/片下腿義足)と松本武尊(T36/脳性まひ)。2000年1月1日生まれの大島は、大学生アスリート。今年3月に行われた日本体育大学陸上競技会の男子100m(T64)では、日本新記録とアジア新記録を樹立(当時)するなど、今もっとも勢いのある選手の一人だ。

大島の2学年下で、大会期間中に20歳の誕生日を迎える松本武尊は、100m、200m、400m(各T36/脳性まひ)の日本記録保持者。パラ陸上界に突如現れた快速スプリンターたちの走りが、日本のメダル獲得を左右するかもしれない。

ユニバーサルリレーメンバーとしてパラリンピック日本代表に選出された大島健吾(左) 都心の名所を駆け抜ける42.195kmの戦い

競技日程の最後を飾るマラソンは、札幌開催となったオリンピックとは異なり、東京の「街」を舞台に開催される。オリンピックスタジアムを発着点に、都心の名所を駆け抜ける42.195kmのコースはアップダウンも多く、熾烈なメダル争いが予想される。

T12(視覚障がい)クラスには、現世界記録保持者の道下美里のほか、7月のオリンピック開会式で聖火ランナーも務めた土田和歌子(T54)らも登場。マラソン種目での最高成績は2004年アテネ大会の銀メダルだけに、自身6度目のパラリンピックでの戴冠にかける思いは人一倍強い。

T46(上肢切断・上肢機能障がい)クラスには永田務が出場。元自衛官という肩書きを持つ永田は、「夏のフルマラソンは走った経験がないが、他の選手たちが嫌がる気象条件も望むところ。泥臭いレースが大好き。苦しんでなんぼ」と過酷なレースも望むところだ。

そして、男子の世界記録は1時間20分台というT54(車いす)クラスには鈴木朋樹がエントリー。トラック競技の中長距離を専門とするスプリント力を武器に、メダル獲得に挑む。

日本パラスポーツ界の二刀流アスリート
山本篤は日本のパラ陸上界をけん引する存在でもある(写真は2021ジャパンパラ陸上競技大会)

オリンピック同様、パラリンピックの世界でも夏季・冬季で異なる競技種目に挑戦するアスリートがいる。男子走り幅跳び(T63/片大腿義足)に出場する山本篤もその一人だ。同種目では、過去に2008年北京大会と2016年のリオ大会でそれぞれ銀メダルを獲得。その後、冬季パラリンピックのスノーボードへの挑戦をきっかけに、2017年からプロに転向。翌年には平昌冬季大会から新たに採用されたスノーボードでの出場を果たした。

一方、村岡桃佳は冬季パラリンピックのアルペンスキーで、2014年のソチ大会、2018年の平昌大会と2大会連続出場。平昌大会では金メダルを含む5つのメダルを獲得した“冬の女王”だ。夏季パラリンピック初出場となる今大会では、100m(T54/車いす)に出場。夏季・冬季を通じたメダル獲得という偉業達成に期待が高まる。

3月に北京冬季パラリンピックを控えている村岡桃佳(写真は第31回日本パラ陸上競技選手権大会) リベンジに燃える夏

悔しさを胸に今大会に臨む選手たちもいる。マラソンT12(視覚障がい)クラスで出場する熊谷豊は、2016年リオ大会での落選を経て、晴れて代表入り。大会1年延期をいい準備期間ととらえて単独走で上位をうかがう。レースは大会最終日の9月5日(日)に行われる。

同種目(女子)では、ベテランの西島美保子もリベンジに燃えている。前回のリオ大会では無念の途中棄権。66歳で迎える今大会。集大成となる走りに注目だ。

※8月25日追記:伊藤智也選手クラス変更により一部削除しています。

text by TEAM A

photo by X-1

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