「世界を変えるのに年齢は関係ない」フスナ・ククンダクウェが語るマインドセット
パラサポWEB / 2021年8月25日 8時0分
2020年にIPC(国際パラリンピック委員会)がリリースし、ウェビー賞を受賞するなど世界的に高い評価を受けているPodcast『勝利のマインドセット:パラリンピックが教えてくれたこと』から、日本の読者に届けたいエピソードを紹介する企画の第3回。
今回紹介するのは、わずか14歳にしてアフリカや世界の障がい者に対する見方を変える可能性を秘めた水泳選手、フスナ・ククンダクウェ。ウガンダ出身の彼女は東京2020パラリンピックにも出場予定。アフリカでの障がい者スポーツの認知度向上のために、先導者になる決意を語る。障がい当事者であるアンディ・スティーブンソンが話を聞いた。
※この記事は2020年12月に公開されたPodcast「A Winning Mindset: Lessons From The Paralympics」の「Lessons From The Paralympics
Husnah Kukundakwe on representation」をもとに制作しています。
水の中では“自分らしさ”を感じられる――フスナさんは、生まれつき右腕が欠損していて、左手にも障がいがありますよね。どのようにして育ったのですか。
Husnah 恥ずかしがり屋だったこともあって、いつも手を隠していました。外出するときは、母も私の手を隠していたそうです。でもあるとき、母はそれが無駄なことだと気がついたそうです。そして、私にも人前に出て自分らしく生きることを勧めてくれました。その後、母の勧めでスポーツにも挑戦したんです。水泳は最も自分らしさを感じられた競技でした。義手をつけなくても水に入ることはできるし、自由を感じたんです。だから、水泳なら自分らしさを出せると思いました。
――実は、数週間前にアイルランドのパラリンピック水泳選手、エレン・キーンとも話をしました。エレンにも同じような障がいがありますね。エレンのような存在をどう思っていますか。
Husnah エレンさんにはとても刺激を受けています。偶然SNSでエレン・キーンさんを見つけたんですが、彼女の両手を挙げたポーズがカッコよかったんです。生まれつき腕を欠損している自分自身のありのままの姿を受け入れているように見えました。義手をつけてもいませんでした。そんな彼女の姿を見て、どうしたら自分もそうなれるのかなと思ったんです。彼女が私と同じく水泳をやっていると知ったときは、すごい偶然だなと思いました。私も、いつか彼女のように自由になって、自分の手であんなポーズをとって、世界の人たちに自分は障がいがあっても何でもできるんだということを見せられるかもしれないと思いました。
レースに参加させてもらえなかった――昔の話に戻りましょう。どのようにして水泳に取り組んできたのですか。
Husnah 最初のコーチは、私を普通の子どものように扱ってくれました。私が水が好きなことを見抜いてくれたんです。他の子どもたちが私を見て恐れないように、励ましてもくれました。最初はただ遊んでいるようなものでしたが、小学校に上がってからは本格的に水泳に取り組むことにしました。しかし、ある大会でレースに出場できないということがあったんです。とても落ち込みました。
――初めての競技会で、1回目のレースには参加できたのに、2回目のレースは参加させてもらえなかったんですよね。そのときの気持ちはどうでしたか。
Husnah 非常に腹が立ちました。そして、自分の先生たちにすごく失望しました。私は、他の生徒と変わらない、同じ学校に通っている生徒で、同じような学校生活を送っていると思っていました。それなのに、2回目のレースに参加させてもらえなかったんです。他の人と交代させられたときはとても残念でした。
障がいのある人は表に出てこない――ウガンダやアフリカで、障がいのある人はどんなイメージをもたれているのでしょうか。
Husnah ウガンダのとくに農村部のようなところでは、私のような障がいのある人は表に出てきません。障がいのある子どもを産んだ親は、何かの祟りなのではないかとみなされたそうです。
――あなたの母親であるハシマさんが、あなたに大きな影響を与えていると聞いています。あなたが生まれたときのことや、それをどのように受け止めたのかについて、聞いたことがありますか。
Husnah 最初は母も「どうしてこんな子どもが生まれてしまったんだろう」と思ったようですし、私も母に「どうして私は違うんだろう」という質問をしたこともあります。母はこんな風に生まれてきた私を見て、ちょっと怖かったと言いました。最初は人前で私の手を隠そうとしていましたが、母も気がついたそうなんです。腕を隠して何の意味があるのかと。むしろ隠し続けると、私が大人になったときに自分自身を隠してしまうのではないか、それはよくないのではないかと思ったと話してくれました。
ウガンダに50mプールは1ヵ所だけ――今、練習している環境は屋外だと聞いています。
Husnah そうなんです。ウガンダでは11月から雨季なんですが、ほぼ毎日雨が降ります。そうすると、泳ごうと思っていた日にプールが汚れていたりして、泳げないことが多くなります。雷が鳴っているとプールには入れません。こんな中でトレーニングするのは、本当に気が滅入ります。でも、自分を信じて集中すれば、きちんと力はつくと思っています。とは言っても、たまには競技用のプールでの感覚を確かめたいとも思います。ウガンダには50mプールは1ヵ所しかありません。しかも屋外で汚れています。また、場所が高級なホテルの中なので、利用するのにはお金がかかります。
――東京大会には1人で出場する予定ですか。それとも、ウガンダチームとして行くんでしょうか。
Husnah チームで行くかどうかはわかりません。ウガンダでも何人か将来有望な選手を見つけました。でもまだ若くて、8歳、9歳、10歳、11歳とかなんです。ただ、私一人ではこの競技を続けることはできないので、チームに加わってほしいなと思っています。チームで一緒に行動して、ウガンダチームを育てていきたいですね。
――アフリカで障がいのあるスイマーが今後増えて、もっと定期的に競い合えるようになったら、すばらしいことですよね。
Husnah そうですね。ウガンダやアフリカの障がいのある人たちにもどんどん参加してもらいたいと思います。最終的には大きなチームをつくって、一緒に励まし合いながら、水泳でもテニスでも何でもいいから好きなスポーツに打ち込んでいく仲間が増えたらうれしいと思っています。ウガンダでスイムメートを増やしていくのは、とてもいいことですし、他の障がいのある人が表に出てくるきっかけをつくることにもなるかなと思っています。水泳が好きで楽しんでいれば、自分の居場所を見つけることにもなります。
世界を変えるのに年齢は関係ない――あなたにはロールモデルとする存在があるように感じました。2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフサイさんが、あなたの目標とする姿に近いように思います。マララ基金には、特に大きなインスピレーションを受けたのではないでしょうか。
Husnah そうですね。ウガンダではまだまだ妊娠して子どもを産み、家族を増やしていくことが女の子の仕事だと思われているところがあります。学校に行って勉強したり、夢を持ったり、仕事に就いたり、好きなスポーツを追求してアスリートになって、オリンピックやパラリンピックに出場することの優先順位は低いです。マララ基金は、女の子や世界中の障がいのある子どもが学校に行って、スポーツや教育で夢を追求し、夢を実現することを奨励しています。実は私の母も財団を設立することを考えていたんです。私が学校や地方を訪れて、あるいは母と一緒に訪れて、保護者を対象に講演をしたり、母は保護者同士で障がいのある子どもをどう扱うべきなのかについて話をできる場をつくれればと思っています。
――マララのような人がいると、世界を変えるのに年齢は関係ないと思えてきますね。
Husnah 年齢は関係ありません。誰でも世界を変えて、人々が住みやすい場所にするために工夫を凝らすことはできると思います。
――若さは強みだと思いますか。
Husnah 強みだと思います。新しい世代はより想像力にあふれて、世界を変えるために、人の平等な権利を要求していくために、新しいアイデアを持っているかもしれません。
パラリンピックに出会い、社会を変える活動に力を注ぐようになったフスナ・ククンダクウェ。今回の東京2020パラリンピックでは、そんな彼女の勇姿から力をもらう人も出てくることだろう。パラスポーツの可能性をぜひ感じてほしい。
▼Podcastの視聴はこちらから
A Winning Mindset:Lessons From The Paralympics「Lessons From The Paralympics
Husnah Kukundakwe on representation」
https://audioboom.com/posts/7753746-husnah-kukundakwe-on-representationtext by TEAM A
photo by Getty Images Sport
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