車いすバスケ女子・キャプテン藤井郁美が目指したチームづくりの秘密
パラサポWEB / 2021年8月26日 13時15分
8月25日、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザにて車いすバスケットボール女子日本代表の初戦、対オーストラリア戦が行われ、日本が73対47の大差で勝利した。
北京大会のときとは違うチームに成長北京大会以来、3大会ぶりのパラリンピックの舞台。しかも、共同キャプテンの一人、藤井郁美(4.0)が「勝った記憶がない」という強豪オーストラリアが相手である。「選手たちは緊張の面持ちで登場するのでは?」と思われたが、コートに入ってくる表情はみな、一様に明るかった。カメラを向ける関係者に向かってピースサインを作り、ウォーミングアップの間も笑顔で会話を交わす。試合開始時刻が近づくにつれ、心なしか藤井の顔が引き締まって見えたものの、チームの雰囲気はポジティブそのものだった。
第1ピリオド、藤井や、もう一人の共同キャプテン、網本麻里(4.5)がシュートを打つものの思うように入らず、点を入れてもすぐに返される。得点源となるはずの選手のシュートが決まらない中、チームに明るさをもたらしたのは、萩野真世(1.0)や柳本あまね(2.5)ら、ローポインターたちの活躍だ。萩野や柳本がシュートを決め、オーストラリアに食い下がる。1点差のシーソーゲームを繰り返すうちに、藤井や網本も調子を取り戻したかのようにシュートを決め始め、終わってみれば、藤井、網本、北田千尋(4.5)、萩野の4人がそれぞれ二けた得点を記録した。
「北京大会のときと違うのは、一人ひとりが責任感を持ってプレーしているところ。そして、得点源となれる選手が複数いること」
試合後、藤井はそう振り返った。
車いすバスケットボール女子日本代表の藤井郁美 一人ひとりがチームの主役「みんながリーダーシップをとることが、チームの成長のために必要」
共同キャプテンの一人、網本麻里(4.5)も、5月の「有明特別強化試合」でそう語っていた。これは網本が共同キャプテンに就任する前から、藤井と一緒に取り組んできたことだという。
「車いすバスケの女子日本代表は、言われたことはしっかりできるけれど、イメージ力が足りないって、ずっと言われ続けてきたんです。たしかに以前は、普段から指示待ちで、どこか受け身な選手が多く、それがプレーにも出ていました。でも、それでは世界の強豪相手には勝てない。東京2020パラリンピックでメダル獲得を目指すからには、絶対に直さなければいけない部分でした」(藤井)
東京パラリンピックでは網本とともにチームのキャプテンを務める一人ひとりが自立し、イマジネーションあふれるプレーができるチームにしたい。そのために、藤井と網本はことあるごとに相談しながらチーム作りを進めてきたという。結果、「一人ひとりがチームの主役という自覚をもってプレーできるようになった」と藤井は語る。その要因の一つとなったのが、選手ミーティングの運営方法だ。
「仕切り役を持ち回り制にしたんです。そうすることで、必然的に、全員が自然とチームや自分のことはもちろん、伝えるためにはどうすればいいかということまで考えるようになっていき、それがプレーにも現れるようになりました。岩佐義明ヘッドコーチが、プレー面で細かい指示を出さないタイプのため、おのずと自分たちで考えなければいけない場面が増えたことも、成長につながったと思います」(藤井)
全員が自由に発言できる雰囲気にさらに、個々の選手が自分のプレーを存分にコート上で表現するには厳しい上下関係も邪魔になるからと、互いに意見を言いやすい雰囲気を作り上げた。
「選手ミーティングでも、私や麻里が全員の意見に真剣に耳を傾けることで、自然とそうするものだという雰囲気が出来上がっていきました。今では誰もが自発的に発信するようになっています」(藤井)
初戦で強豪オーストラリアに勝利し、勢いに乗る車いすバスケットボール女子日本代表チーム一の若手選手である柳本もかつて、こう語っていた。
「このチームは、年齢に関係なく言いたいことを言ったらいいし、やりたいことをやったらいいと自由にさせてくれる。そこで遠慮してはいけないと思うので、試合に出ていてもいなくても、流れが悪い時間帯が来たら、自分のプレーや『ここ1本決めていこう』といった声で盛り上げて、よい方向に導いていけるようにしたい」
柳本のこの言葉からも、藤井と網本が目指した「一人ひとりがリーダー」という考え方が、チーム全体に浸透していることがうかがえる。
そして迎えた本番。女子日本代表は後半に向かうに従い、プレスを強め、攻守のトランジションをハードに繰り返すことで、相手ゴールを攻め立て、突き放した。全員が出場し、誰が出てもそん色ない戦いぶりは、まさに「チーム一丸」という言葉がふさわしかった。これこそ藤井と網本、両キャプテンが目指した姿だったのではないか。そう思わされた好ゲームだった。
edited by TEAM A
text by Masae Iwata
photo by Takashi Okui
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