3つじゃ足りない!メダル獲得も「タイムが不満」なパラ水泳・鈴木孝幸はさらなる高みへ
パラサポWEB / 2021年8月30日 16時13分
やはり、落ち着いていた。5度目の出場となるパラリンピックで、自身初となる1大会3つ目のメダルを獲得しても、鈴木は冷静そのものだった。
次のレースに向けた冷静なレース回顧8月28日に行われた東京2020パラリンピック水泳男子150mの個人メドレー(SM4)に出場した鈴木孝幸は、2分40秒53で3位に入り、銅メダルを獲得した。50m平泳ぎの銅、100m自由形の金に続いて今大会3個目のメダル。しかしクールな鈴木は、簡単には満足しなかった。
「メダルが取れましたので、そこは安心しましたし、よかったと思います。ですけど、ちょっとタイムが遅いのが不満かなと――」
30日の200m自由形、9月2日の50m自由形にも出場する鈴木は、「ここまでのレースを見つめ直して、改善できるところは改善したい」と抜かりはない。
この日のレースでは、後半の追い上げが見どころとなった。個人メドレー最初の背泳ぎでは、先頭から引き離されての7位。しかし「平泳ぎと自由形で持ち直そうとは思っていた」という鈴木は、ここから徐々に前の選手をとらえ始める。
「今までの経験で比較的速いラップタイムで泳げているのは分かっていましたので、追い上げられるのではないかとは思っていました」
その言葉通り、平泳ぎを終える100mのターンで5位に上がると、最後の自由形で前を猛追。残り25m付近で6レーンを泳ぐスペインの選手を抜き去り、3位でフィニッシュした。
もっともっと競い合いたい今年5月、鈴木はこう話していた。
「メダルが狙える種目は出たいと思っています。一番、メダル圏内から落ちそうなのが、個人メドレーかなと思います。僕の中では距離の長い種目になりますし、ハードな種目なので、メダルを狙えないようなポジションになってしまったら、泳がない可能性もあるかなと思いますけど」
しかし結果として、最もメダルの可能性が低いと考えていた個人メドレーできっちりと結果を残した。ワールドクラスのトップスイマーとなった鈴木に、凄みを感じるほどだ。
この種目、日本代表の選考を兼ねた5月のジャパンパラ水泳競技大会では、対戦相手がおらず1人で泳いだ。パラ水泳では、同じ障がいのクラス、同じ種目、なおかつ同じレベルとなると、どうしても競争相手は少なくなる。しかし、世界を見れば相手はいる。パラリンピックは、希少なライバルたちと競い合える場なのだ。
そのことについて鈴木に聞くと、こう答えた。
「日本もこれからもっと、選手層を広げていかないといけないと思います。今回も初出場の選手が多くいますけど、(自分と同じ)S4やSB3のクラスでもっともっと選手が出てくると、よりハイレベルな争いが国内でもできるかなと思います」
同じ障がいのある人たちに競技への参加を呼び掛ける意味合いなのかと確認すると、「やるかやらないかは、個人の自由なので。ただ、レースを見てくれて、そういうふうな気持ちになってくれる人がいるのであれば、それは、とても嬉しく思います」と続けた。一緒に本気で世界を目指そうという呼びかけのようだった。
ベテランの自分にも伸びしろはある鈴木に先着した2人は、ともに強敵だった。優勝したロマン・ジダーノフ(ロシアパラリンピック委員会)は、このレースで2分21秒17の世界新記録を樹立。2位となったアミ オマル・ダダオン(イスラエル)も、100m自由形の世界記録保持者である。
「2人は若い選手なので、よりパワーをつけてきたイメージは持っています。伸びしろという意味では、(34歳の)自分より彼らのほうがあるのかなと。でも自分もないわけではないので」
若いライバルたちの成長に負けじと対抗する気概を示した。東京パラリンピックで、鈴木が出場する個人種目は、残すところ50mと200mの自由形の2種目。
「(100mで金メダルを獲得した)自由形も層が厚くなっているのは明らかなので、あまり安心できないとは思っています。ずっと危機感を持って、より良い色のメダルを目指せるように、残り数日ですけど、頑張っていきたいと思っています」
最後のパラリンピック挑戦という集大成の舞台で、過去最多のメダル。それでも日本パラ水泳チームの主将も務める鈴木は満足していない。さらなる高みを目指し続ける。
text by TEAM A
photo by Takashi Okui
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