8m超えの跳躍でパラリンピック3連覇のマルクス・レーム。オリンピックを目指すパラリンピアンの思い
パラサポWEB / 2021年9月6日 10時16分
小雨がぱらつく中、マルクス・レーム(ドイツ)はいつも通り落ち着いた表情で順番を待っていた。自身の持つ世界記録越え、オリンピアン越え、さらには30年間破られていない人類最長記録への注目を浴びながら――。
「何かが起こる予感」はあった東京2020パラリンピックの陸上競技9日目(9月1日)。男子走り幅跳びT64(運動機能・義足)クラスに出場したレームが1回目の跳躍でいきなり8m06を跳ぶと、客席からはどよめきが起こった。3回目で8m09、5回目には8m18と記録を伸ばし、いよいよ6回目となる最後の跳躍。会場に手拍子を求めると、今大会一番のビッグジャンプ! に見えたが、惜しくもファールとなってしまった。
「今日のコンディションは最高で、気分もよく、ケガもなく、何かが起こるかもしれないと思った。でも、何かがかみ合っていなかった。ブレードの調子が悪かったのかもしれない。(助走の)速度が出やすいトラックだったので、うまくいかなかったのかもしれない。後で何が原因だったかを見直したい」
世界記録更新はならなかったが5回目の記録で優勝したレームは、「この大会に出場できて嬉しいし、金メダルを家に持って帰ることも嬉しい」と満面の笑みを見せた。
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2018年7月初旬、ジャパンパラ陸上競技大会が群馬で開催された。そこには、レームの姿があった。
大島健吾や芦田創など、彼のことを目標にする日本のパラアスリートは多い。レームはこのとき、日本人選手の印象について「心に決めて、『やるんだ!』と邁進する。トレーニングも確実に積んでいて、良いプレッシャーをもらっている」と話し、東京パラリンピックについては「(日本に)戻ってくるのが楽しみ」と語っていた。
2015年の世界選手権ドーハ大会で、健常のトップ選手に匹敵する8m40の世界記録をたたき出し、すでに当時から世界の注目を浴びていたレーム。ジャパンパラでは1回目の跳躍で8mを越えると、5回目では8m27、そして最後の6回目で8m47をマークし、3年ぶりに世界記録を塗り替えた。
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本人は、ジャパンパラ大会での好記録を試合前に予感していたというが、これは序章に過ぎなかった。ジャパンパラ大会から約1ヵ月後の2018年8月、ドイツ・ベルリンでのヨーロッパ選手権で8m48を跳び、再び世界記録を更新したのだ。この時、大会後のコメントで、今後の目標については「8m50」と明言した。
伝説の記録8m95を跳んでみたいポーランド・ビドゴシュチで今年6月に行われたヨーロッパ選手権で初日に登場したレームは、1回目で8m19を跳んで勢いをつけると、2回目で8m46、そして3回目で驚異の8m62を跳び、自身の世界記録を14㎝も伸ばした。この記録は、2016年のリオオリンピック走り幅跳びの優勝記録、8m38を24㎝も上回っている。「今シーズンは好調」と話すレームに、東京パラリンピックでの記録更新の期待が高まっていた。
陸上の男子走り幅跳びの世界記録は、アメリカのマイク・パウエルが1991年の世界陸上東京大会で記録した8m95。長らく破られていないこの記録を、オリンピアンよりも先に、パラリンピアンが更新する日はそう遠くないかもしれない。本人も今大会の前に「世界記録が出たビデオを見た。この距離を跳んでみたい気持ちはある」と語っていた。
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5年前、レームはリオデジャネイロで開催されたオリンピックの出場を目指していた。しかし、義足の反発力が競技に有利に働いていないという完全な証明ができなかったため、その夢はついえた。東京2020オリンピックの出場についても、ドイツ陸上競技連盟は7月にIOC(国際オリンピック委員会)に要望を出したが、それが認められることはなかった。これに対してレームはスポーツ仲裁裁判所に申し立てたが、審理されないまま却下されてしまい、正当な拒否理由については説明がないままだという。
「僕のアジリティ(能力)を見て、障がい者の方にも健常者の方にもインスピレーションを感じてもらいたい。パラリンピアンとしての誇りを持って、オリンピックでも戦いたい」
そうコメントしていたレームがオリンピックに出たいと思う動機は、自分のジャンプを世界に見せつけて、オリンピックのメダルを獲ることだけではない。
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「僕の夢は、オリンピックとパラリンピックのアスリートの間を埋めること。つまり、パラリンピックをオリンピックのような大きな大会にしたい。オリンピックに出場することは、その夢を実現させるための第一歩なんだ。世の中には、パラリンピックを見たら楽しいと思う人たちがたくさんいる。だから世界中の人たちに見てもらいたい。多くのインスピレーションを与える(人の心揺さぶる)選手がパラリンピックに出る。それを見て『自分はできる』ということを感じてほしい」
彼が記録への挑戦をし続ける理由。それはパラリンピアンとしての使命を果たすための手段でもあるのだ。
text by TEAM A
photo by Takashi Okui
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