自転車・ロード冠の杉浦佳子、地の利を活かして世界の頂に
パラサポWEB / 2021年9月4日 18時1分
9月3日、自転車の杉浦佳子(C3)がロードレースを制し、表彰台の中央に上がった。金メダルは、8月31日のロード・タイムトライアルに続き今大会2つ目。 2018年にはロード世界選手権を含む国際自転車競技連合主催大会で8戦7勝した実績を持つ “ロードの女王”は初めてのパラリンピックで期待通りの走りを見せた。
会場となった富士スピードウェイは起伏の激しく、カーブの多いテクニカルなコース。日本代表の権丈泰巳監督は「(小柄な)杉浦に分がある」と語り、会場の協力のもと同コースで試走を重ねてきた。
もともと新しいこのコースに苦手意識があったという杉浦だが、2019年の6月に開催された「全日本自転車競技選手権大会 ロード・レース」で優勝。その際、「私、このコースが好きかもって思えた。東京パラリンピックでは地の利を活かしたレース展開をしてみたい」と意気揚々に語っている。
50歳の金メダル獲得は、日本選手史上、最年長となる金メダルはすぐ手の届く位置に近づいているように見えた。しかし、そんな期待に反して、東京大会は1年延期。以降、杉浦は引退も考えるほど苦しい時期を過ごし、涙を流すことが多かった。2020年10月の「全日本自転車競技選手権大会トラック・レース」では、その苦しい心中をのぞかせながらも、コロナ禍で体幹トレーニングを強化し、ロードレース終盤を見据えて瞬時のパワーを出すためのトレーニングに励んでいると明かした。
試走を重ねてコースを攻略そして、迎えた8月31日のロード・タイムトライアル。1周8㎞のコースを2周する16㎞でタイムを争った。
「パワーではかなわない選手がいっぱいいる。有利な点を活かしてパワー全開で行こうと思った」と杉浦。
有利な点というのは、前出の通り、試走を重ねた点だ。杉浦は試走でコーチに細かく指示されたことを、もう一度自分で地図に全部書き込み、スタート直前にそれを再度見直して頭に叩き込んだ。
スタートから突っ込んだ。下りゾーンとテクニカルなコーナーは脚を休める作戦。そのまま全力でペダルを回しフィニッシュした。直後の順位はわからなかったというが、コーチから「よくやった」と言葉をかけられ、勝利を確信したという。
「ここまでの道のりは苦しいことが多く、ひとりでは乗り越えられなかった。支えてくれた人たちに金メダルで恩返しできる。それが一番うれしいです」
「お世話になった人たちに一人ひとり会いたい。いろいろな人に迷惑をかけて生きてきたけど、金メダルを獲ったことで許してもらえるかな?」「記憶障がいがあるというが、非常に頭脳明解。暗記のトレーニングもかなりしていると思う」
とはロードを担当する佐藤信哉コーチ。普段は見せない杉浦の努力も実を結んだ。
2つ目の金メダルを胸に圧巻は、3日のロードレース。杉浦は2018年シーズン、主要4大会でロードレース全勝を果たしている。その後クラスはC2から比較的障がいの軽いC3に変更になったが、金メダル候補の大本命であることは変わらない。
レース前にコーチと話した作戦はこうだった。
「序盤は調子に乗って前に出ないように耐えに耐え、最後の最後に、スプリントで勝負する」
タイムトライアル後の練習では自転車に乗らず、「やっぱり自転車に乗りたい!」という気持ちでロードレースを迎えた 「指導者に恵まれた」と杉浦。コーチは5年に渡り、練習メニューを毎日作って杉浦に送った試合はスローな展開で始まり、杉浦は幾度もアタックをかけながら、集団の人数を減らし、他の選手たちの体力を削る。スタートから1時間04分辺りで大きく集団を突き放すと、最後は2位に16秒差をつけてフィニッシュ。作戦を遂行した杉浦は、左手のこぶしを握ってガッツポーズをしてみせた。
「ゴール後、(コーチから)『よくやった』と言われたことで優勝したことがわかったんです」
と笑顔で話し、「タイムトライアルの優勝で運を使い果たしたと思っていたので……何とかメダルに食らいつきたかった」とほっとした表情で振り返った。
「1つ目よりも重いメダルです」と杉浦。
2016年4月ロードレース中の落車により、高次脳機能障がいと右半身に機能障がいを負った。それから5年、金メダル2枚を首からぶら下げた杉浦は今、一番輝いている。
静岡で生まれ、静岡で事故に合い、金メダルも獲得。人生の大きな節目はいつも静岡で迎えた。「運命を感じる」と本人text by TEAM A
photo by Jun Tsukida
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