バドミントン・銀メダルの鈴木亜弥子、ライバルに敗れるも笑顔の理由
パラサポWEB / 2021年9月5日 16時44分
9月4日、国立代々木体育館で行われた東京2020パラリンピックのバドミントン女子シングルス(SU5/上肢障がい)決勝戦に、日本のエース鈴木亜弥子が登場。試合後、「金メダルが目標だったので、負けて悔しい」と口にしながらも、「今の力はコートに出し切れた」と表彰台では笑顔で銀メダルを受け取った。
これまでの対戦は3勝5敗決勝の対戦相手は、23歳の楊秋霞(中国)。両者の顔合わせは、大舞台にふさわしいカードだった。
これまでの対戦成績は、鈴木が3勝5敗。初めて2人が対戦した2016年12月以降、国際大会で、鈴木も楊も互い以外に負けたことがない。鈴木は言葉を選びながら、2018年2月の初対戦に敗れた当時の思いを語っている。
「楊さんが出てきたとき、本当にうれしかった。パラリンピックを目指して復帰後、私は国際大会で2連勝し、“簡単に金メダル獲れるかもしれない”と思い始めていて……。でも、楊さんが出てきて、これは頑張らなければと思いました」
ライバルに勝つため、フットワークを強化してきたここで“復帰した”という鈴木の言葉には説明がいる。埼玉県の越谷南高時代、健常の全国大会で準優勝の経験を持つ鈴木は、2007年からパラの大会にも出場し、世界選手権、アジア大会と、当時のビッグトーナメントの金メダルを総ざらいした。
だが、2010年には「もう目指すタイトルがない」といったん引退。それでも2014年にバドミントンが東京パラリンピックで正式競技に入ることが決まると思いは募り、「わたし、パラリンピックの金メダルだけ獲ってない」とパラの世界にふたたび舞い戻ってきた。
「決断は簡単ではありませんでした。5年間もブランクがあって、2020年のパラリンピックで33歳になる私が、果たして競技者としてやっていけるのか、って」
重い決断だっただけに、いざ、国際大会に復帰すると、競ることなく優勝してしまったことに肩すかしをくったことは事実だ。
だから、楊との出会いで鈴木の勝負魂に火はついた。
パラリンピックで決勝の舞台に上がった鈴木亜弥子肩近くから左腕を切断している楊秋霞は、バランスをとるのが難しいが、体幹が強いのでしっかりと体を起こすことができ、ミスが少ない。鈴木に欠けている点だ。
「私は障がいのせいで仕方がないと、上半身が前のめり気味だったんです。でも、楊さんのプレーを見て、初めてこれではいけないと思いました」
ライバルに刺激されてフォームを改造そこで練習に体幹トレーニングを取り入れ、フォームを改造。さらに、動きの速い楊に対抗しようと、フットワークも変えた。復帰当初は、「5分クリアーを打つだけで息が切れしていた」が、走りこむにつれ下半身もたくましくなっていった。
復帰した5年間ですっかり競技者としての恰好を取り戻した鈴木。パラリンピックが始まると、楊を目指し力強く勝ち進んだ。単複を兼ねる鈴木は、予選リーグの2日間で4試合を戦い、いずれもストレート勝ちで最終日を迎える。単複の決勝が同日に開催され、4試合を戦わなければならない厳しいスケジュールだ。
「4試合は怖い。でも、やるしかない」
タフな試合スケジュールをこなした鈴木まず、伊藤則子とのSL3-SU5女子ダブルスは、中国ペアに一方的に敗れ、3位決定戦が決定。続くシングルスは、亀山楓に21-2、21-13で勝ち、決勝へと駒を進めた。反対側の山から勝ち上がってきたのは、もちろん宿敵・楊秋霞だ。楊は準決勝で杉野明子に、2ゲームとも21-11で勝った。
1ゲームを先取したのは楊。「東京で久しぶりに鈴木選手を見て、足が速くなっていることに驚いた」という楊だが、堂々とテンポの速いラリーで挑み、鈴木は、12オールまでラリーについていった。ただ、それも「楊の戦略だった」と鈴木はいう。
「私のどこが弱いか、探っていたんです」
ここからは、執拗に鈴木の頭上の右側を狙って、左利きの鈴木の返球が甘くなった瞬間、クロスショットを沈めにかかる。鈴木は、14-15から4連続ポイントを献上し、1ゲームを落とすと、2ゲームは9-21で終幕。肩で荒々しく息する体にシャトルを四隅に追いきる力は残っていなかった。
「楊選手は強くなっていた。他の選手よりスマッシュのキレ、コースがまったく違いました」
とはいえ、1年半以上、対戦することのなかったライバルと打ち合う時間は楽しかった。さらにシングルス決勝後、鈴木は伊藤と女子ダブルス3位決定戦でフランスペアに勝ち、銅メダルを獲得。「やりきった」という満足感はある。
また、鈴木にはパラリンピック前に決めていたこともあった。パラバドミントンからの本当の引退だ。
銀メダルを手に笑顔を見せた鈴木「34歳になると、ちょっと体が痛い(笑)。SU5は一番、健常に近い激しい種目ですし。パラリンピックには、これで最後というより、この5年間、やってきたことをコートのなかでどう出すか、という思いで戦いました」
さらにパラバドミントン界には、「私くらいの力なら、これくらいのレベルには行けるんだよというのを(若い選手に)見せられたのはよかったかな」と後進に道しるべを与えられた喜びもある。
目標にしていた金メダルには届かなかったが、これが鈴木の到達点。大粒の涙はない。「銀と銅なので、私的には合格点です」。そうカラリと話した表情が清々しかった。
edited by TEAM A
text by Yoshimi Suzuki
key visual by kyodo
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