“夏冬二刀流”の苦悩と喜び。陸上・村岡桃佳が決勝ゴール後に見えた景色
パラサポWEB / 2021年9月8日 16時33分
「冬の女王」が挑んだ新たな戦いが一つの区切りを迎えた。平昌冬季パラリンピック(2018年)では、アルペンスキーで金メダルを含む5つのメダルを獲得した村岡桃佳。夏季・冬季を通じたメダリストという偉業達成を目指し、陸上競技・100m(T54/車いす)のレースに臨んだ。
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決勝レース後の報道エリア。レースを終えた今の気持ちを尋ねられた村岡は、長い沈黙の後、声を震わせながら「楽しかったですね……」と声を振り絞った。それが何よりも、ここに至るまでの平坦ではない道のりを物語っていた。
村岡が陸上競技でのパラリンピック出場を目指したのは約2年半前。すでにその時点で、パラリンピック金メダリストという称号を手にしていたにもかかわらず、小さい頃に抱いた「陸上競技でパラリンピックに出場したい」という夢が、彼女の背中を押した。
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4歳の頃、病気が原因で車いす生活を余儀なくされた村岡は、車いすスポーツに出会うと、中学に入るまでは陸上競技を中心に取り組んできた。その後、アルペンスキーにも挑戦するようになると、21歳で出場した平昌大会(2018年)で金メダルを含む5つのメダルを獲得。自分でも思っていた以上の成績を残し、新たな目標を模索していたとき、ふと頭に思い浮かんだのが陸上への再挑戦だった。
夏も冬も諦めたくない2019年からは、過去3度のパラリンピック出場経験を持ち、現在、岡山を拠点にパラ陸上の実業団チームを率いる松永仁志氏のもとを訪ね、指導を仰ぎ、着実に力をつけてきた。
そうした中、計算に狂いが生じる。東京2020パラリンピックの延期だ。東京大会が当初の予定通りに開催されていれば、大会終了後から北京冬季パラリンピック(2022年)に向け、再びアルペンスキーのトレーニングに取り組むつもりだったからだ。
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挑戦の断念か続行か。村岡は延期が決まった当時の心境をこう振り返る。
「一時は、アルペンスキーのために東京(大会)を諦めようと考えたこともあった。でも、どちらも諦められなかった。それ(諦めること)は絶対したくないと思った」
悔しいまま終わるより、笑って終わりたい葛藤を乗り越え、迎えた9月1日の本番当日。予選2組で登場した村岡は、気持ちの整理がつかないままスタートラインにいた。1組目のレベルの高さを目の当たりにし、「焦りや余計な緊張が生まれた」。何とか気持ちを奮い立たせてスタートを切ったものの、今度はやり直しに。「そこで少し気持ちが切れてしまった。(やり直し後は)映像ではそれなりのスタートを切ったように見えるけど、自分としては出遅れたという感じ」と予選の走りを振り返った。
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それでも、タイムで拾われ夜の決勝に進むことができた。もともと東京2020パラリンピックの新国立競技場のスタートラインに立つことを目指してきた村岡だったが、1年延期となったことで、目標はファイナルに残ることにアップグレードされていた。
「その舞台に立てるからには、悔しい思いのまま走るのではなく、いいレースをして笑って終われるようにしたい」
夢見た大一番に向けて、そう話した。
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「気持ちの面でもケリをつけて臨んだ」という決勝では、ひと漕ぎひと漕ぎに力がみなぎるダイナミックな動きを見せ、16秒71でゴールを駆け抜けた。メダル獲得はならなかったものの予選のタイムを上回り、6位入賞を果たした。
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「苦しかったし、大変なこともすごくたくさんあったし、悩んだりしたこともあったけど、陸上競技でパラリンピックに出たいという夢と、挑戦を始めてから東京大会を目指したいという目標を見つけて、今はそれを達成することができたので後悔は全くない。すごく大変だったけど、何よりも楽しかった。予選でゴールしたときの景色と、決勝でゴールしたときの景色は全然違っていた」
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自国開催のパラリンピックで、決勝の舞台に立つという夢を叶えた村岡。最後に報道陣から、今後も冬の競技と並行して陸上競技を続けていくのかという質問が飛ぶと、「どうしましょうね」といたずらっぽく笑った。そこには、この場所に立つまでの苦悩と、この場所に立てた喜びとが入り混じっていた。
text by TEAM A
photo by Takashi Okui
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