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ライバルがいたからこそ流せた「君が代」、水泳・木村敬一悲願の「金メダル」

パラサポWEB / 2021年9月9日 16時2分

東京2020パラリンピック、水泳の最終日。有終の美にふさわしい日本人のワンツーフィニッシュに日本中が湧いた。男子100mバタフライS11(視覚障がい)決勝で、木村敬一富田宇宙がワンツーフィニッシュを飾ったのだ。木村は4大会目の出場でリオ大会の銀と銅計4個を経て、念願の金メダル。富田は今大会初出場ながら3個目のメダル獲得となった。

切磋琢磨してきた富田「絶対一緒に表彰台に上がるぞ」

4レーン木村、5レーン富田。予選は全体1位(木村)2位(富田)で通過し、隣同士で泳ぐことになった二人は落ち着いていた。

「選手の招集所でもずっと隣にいました。とくに言葉を交わしたわけじゃないですけど、絶対一緒に表彰台に上るぞって、そういう気持ちで僕はレースに臨むことができました」(富田)

スタート地点に立った木村は、「緊張していた」ものの、「予選より体の状態はすごくよかった」という。その言葉通り、スタートで飛び込み、浮き上がった時点で、木村は隣の3レーンを泳ぐロヒール・ドルスマン(オランダ)とともに先頭に、富田は3番手につける。

たくさんの力を得て進む木村(左)と、美しく抵抗の少ない泳ぎで進む富田(右)と泳ぎのスタイルも異なるby Takashi Okui

木村は「前半はストロークを数えていた」と冷静にレースを展開。そのままドルスマンと並んで泳ぎ続けるが、50mの折り返し地点直前で抜け出す。そして、自己ベストより0.2秒早いペースでターンし、トップに躍り出た。

ターン後、コース右寄りに浮き上がった木村は、「1回コースロープに当たった」という。

「そこから一気にしんどくなって。そのあたりまでは覚えているんですけど、以降はすごくバテちゃって。これはもしかしたらダメかもしれない、でも何としても勝たないと、と思いながら泳いでいた」(木村)

「金メダルおめでとう」

しかし、バテていたのはライバルも同じだったのかもしれない。木村が徐々にドルスマンを引き離すと、単独トップに。また、その後方では富田がぐいぐいと追い上げ、ドルスマンとデッドヒートを繰り広げたのちに追い抜く。そして、フィニッシュ。木村はタッパーの寺西真人さんから、「タイムは(1分)2秒57。金メダルおめでとう」と言われて、結果を知った。

「それを聞いて、一つのチャレンジが終わったんだなと思いました」(木村)

スタンドで見守っていた日本代表チーム、そして会場のボランティアたちにも笑顔が広がる。みんなが木村の金メダルを待っていたと実感する瞬間だった。

photo by Takashi Okui

また、「最後はバテて思うように泳げなかった」という富田も2位となった。

「タッパーの方から自分の順位とタイムを聞いて、すぐに『キムは?』と。1位って聞いて、その瞬間に喜びがこみ上げてきました」(富田)

2017年に木村と同じクラスになった富田は、2019年の世界選手権・同種目でワンツーを獲ったとき、報道エリアでこう話していた。

「自分がS11になってからいろんなことを教えてもらうと同時に、心から尊敬している選手。(同じクラスのライバルになる前の)リオのときから誰よりも金メダル欲しいと思っている立場だったので、世界の舞台でも上に立ってもらえるのは心の底からうれしい。彼が一番、僕が二番はこれ以上ない喜びです」

東京パラリンピックという最高の舞台で、このときのさらに上をいく喜びを分かち合った二人。レース後、笑顔で抱き合い、互いの健闘をたたえ合った。

9年越しの悲願達成

「リオの前から金メダルにチャレンジしてきて9年。すごく時間かかった。僕もがんばってきたし、一緒に戦ってきた人たちの思いも詰まっている。だからこの金メダルは、誰にも負けないくらい重いと思う」

金メダルは、ライバルの富田がいてこそ獲れたともいえるかもしれない。

「常に刺激し続けてくれた宇宙さんの存在は、今日、僕が戦う上でなくてはならなかった。(富田がいることで)国内の大会でも、(パラリンピックの)金メダルを争うくらいのパフォーマンスをし続けなければいけなかった。決勝の舞台でプレッシャーにつぶされることなく戦い切れたのは宇宙さんと競い合ってきたから。宇宙さんには感謝しています」

富田もまた、木村がいてこその銀メダルだった。

「ライバルとして勝負を挑んできたが、彼の努力も、彼のすごさも一番近くで見てきた。最終日に二人でのワンツーフィニッシュという二人が一番力を入れてきた結果を残すことができた」

表彰式では、2歳で視力を失った木村が「君が代」を聞きながら号泣。富田はその隣で穏やかに笑って見せた。

「僕が唯一、金メダルを獲ったんだって、認識できる時間だなって思うと、ここは(涙を)我慢しなくていいかもしれないと思った」(木村)photo by Takashi Okui

text by TEAM A

key visual by kyodo

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