「楽しい」感覚が原動力!走り幅跳び・前川楓の東京パラリンピック
パラサポWEB / 2021年9月14日 8時0分
そこには笑顔が広がっていた――陸上競技・女子走り幅跳び(T63)決勝。前川楓は2度目のパラリンピックに挑んだ。
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「1本目はガチガチでした。でも、2本目以降はだんだんだんだん試合を楽しめるようになっていって、6本目はもうすごく楽しかったですね」
雨の降る難しいコンディションのなか、4回目の跳躍で4m23。自己ベストに迫るジャンプを見せ、5位入賞を果たした。
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「すっごく楽しかった!」「わくわくしました!」
以前、前川にインタビューした際に何度も出てきた言葉だ。
交通事故を機に片脚義足となった前川を本格的に陸上へと誘ったのも、この「楽しい」という感覚だった。
「初めて出た大会で100mを走ったのですが、タイムは22秒82でダントツ最下位だったんです。でも、順位とかどうでもよくて。それ以上に、風を切って走る気持ちよさや、だれかと一緒に走る楽しさを、脚があったときよりもすごく大きく感じました」
そこに「一人でも抜きたい」という意欲が加わり、前川は陸上競技にのめり込んでいく。高校2年のときに陸上部に入部。義足の選手は前川のみという環境のなか、ジョギングやウォーミングアップについていくのもやっとの状態だったというが、「同級生についていきたい。大会で1人でも多く抜きたい」という「わくわくとした」気持ちを糧に練習に励んだところ、約1年でほぼ同じ練習ができるまでに成長。それに伴い、パラ陸上の大会でも1人、また1人と抜けるようになっていき、高校3年で世界選手権への切符を手にした。
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100mと走り幅跳びでリオパラリンピック出場が決定したときも、「パラリンピックに出られる! イエーイ! やったー! わくわく! って感じ」と、とにかく明るい。
ところが、大舞台での結果が、前川から「わくわく」を奪い去る。
「リオ大会の走り幅跳びは4位で、100mは7位。うまくはまればメダルに手が届くんじゃないかと思っていたので、悔しかったです。同部屋だった辻沙絵さんが銅メダルを取ったのですが、帰国後の取り上げられ方が全然違っていたし、純粋にメダリストってかっこよくて、うらやましかった。自分がメダルを獲れていたらどんな感じだったのかな、なんて想像して、次は絶対にメダルと取りたい、そのためには、もっとがんばらなくては、と思いました」
これがその後、陸上競技を基礎から学ぶ原動力となったのだが、同時にプレッシャーにもなってしまう。とくに東京パラリンピックの内定がかかっていた2019年は、メンタルが激しく落ち込み、苦しんだと明かす。
そこから抜け出すきっかけの一つとなったのが、友人や知人、所属先、そしてスポンサーなど周囲の人たちの気持ちを知ったことだった。
「自分は応援してくれる人たちのためにがんばらなくちゃ、期待に応えなくちゃって思い込んでいたんです。でも、周りの人たちは、私が試合を思い切り楽しむことを望んでくれていました。それがわかって、気持ちが整理できたのは大きかったです」
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2019年11月の世界パラ陸上競技選手権(ドバイ)で内定を得たのちは、練習拠点を地元の三重から大阪に移した。前川が尊敬してやまない義足ジャンパー、山本篤に師事し、より高みを目指して一緒にトレーニングするためだ。この環境の変化で、前川は再び、「わくわく」を取り戻した。
「尊敬する篤さんと練習できるだけで、モチベーションが全然違います。その篤さんに指導していただくことで、できることが少しずつ増えている実感もある。これほど楽しいことはありません。しかも、篤さんは超面白くて、やさしくて、人生を楽しんでいる人。一緒にいると、私も人生を楽しまなきゃって思います」
山本とのトレーニングでは、義足の使い方が進化したという。
「弾むことをボヨンと呼んでいるのですが、そのボヨンのポイントがわかるようになりました。ボヨンを10本中10本出せるようになりたいし、健足の動きなどの課題もクリアできれば、本番はかなり記録を伸ばせるかも。あとはパラリンピックを楽しめれば、結果もおのずとついてくるんじゃないかな」
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自国開催の大舞台を、心から楽しんでいた前川。そのジャンプと笑顔は、観ている者をもわくわくさせてくれた。
text by TEAM A
photo by Kyodo
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