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東京パラリンピックでバドミントンがメダルラッシュ! 飛躍の理由は?

パラサポWEB / 2021年10月1日 17時3分

東京2020パラリンピックからの新競技・バドミントンは、日本チームのメダル9個という好結果で幕を閉じた。ここでは、なぜバドミントンがメダルラッシュに沸いたのかを検証し、銅メダリストたちの奮闘も併せて振り返る。

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東京大会でバドミントンは、「金3銀1銅5」のメダルを獲得。2019年、スポーツ庁より「東京重点支援競技」に指定された新競技は、期待通りの活躍を見せた。

金メダルを獲得したのは、女子シングルス(WH1)の里見紗李奈、男子シングルス(WH2)の梶原大暉、女子ダブルス(WH1-WH2)の里見/山崎悠麻だ。

バドミントン14種目のうち、金メダルの約20%が日本の手に渡った計算になる。日本選手団全体のメダル数「金13銀15銅23」との比較でも、バドミントンの金メダル獲得率は23%と貢献度は高い。

大きな期待に応え、金メダルを獲得したダブルスの里見(左)と山崎 photo by Kyodo

試合が終わると、金正子ヘッドコーチ(HC)は、「うれしい限り。色は予定と少し違うが、メダル9個という当初の目標は達成できた」と顔をほころばせた。

専用体育館を持つ強み

活況の大きな理由は、充実した練習環境と選手育成体制にある。

日本障がい者バドミントン連盟は、大手不動産会社とオフィシャルゴールドパートナー契約を締結し、2017年から2028年まで同不動産会社が所有する都内の体育館を専用練習場として提供されている。8面を擁する体育館は、出入り口やトイレが車いす選手でも使いやすいように改修され手渡された。

こうした拠点を得て、日本障がい者バドミントン連盟(JPBF)はかつて年3回だった日本代表の合宿を年15回前後に増やすことができた。とくに「床が傷つく」などの誤った見解から、公共の体育館の利用を断られがちだった車いす選手にとっては好材料だった。選手たちも感謝を示し、山崎も「恵まれた環境をいただいている」と話している。

同時にJPBFは、若い選手の発掘にも尽力。「よい選手がいる」と聞けば、合宿に招聘し「本格的にバドミントンをやらないか」と声をかけた。そうした努力の末に誕生したのが、金メダルを獲得した19歳の梶原大暉と23歳の里見紗李奈だ。

19歳の梶原と(左)と23歳の里見が金メダリストに photo by Kyodo

2017年にパラバドミントンを始めた2人は、コロナ禍以前は、海外の大会に積極的に出て力を蓄え、東京大会の出場権を掴んだ。2019年3月からの1年間、梶原は10大会、里見は8大会に出場している。

このように選手が遠征を継続できるのはやはり多くの支援があるからだ。里見をはじめとする社会人選手は、所属企業から正社員として支えてもらい、日本体育大学生の梶原は、日本財団の給付型奨学金などを受けるなどしている。

またコロナ禍では、金HCが「もっとも力を入れた」と胸を張るフィジカルトレーニングによって肉体改造に励んだ。梶原や村山浩はベンチプレスで倍以上の重さを挙げられるようになり、里見もまた2年かけて体を作り、体重を12kg絞り込んだ。

ベテランの村山も、フィジカルを鍛えて東京大会に臨んだ photo by Kyodo

梶原の体の強さについては、優勝候補だった香港選手が「彼に60分間走り続けられる体力があって驚いた」と率直にいった言葉からも伺える。

金HCは、こうした逞しさが「選手の自信にもなっていた」と振り返る。オリンピックでもパラリンピックでも日本選手は優勝候補に挙げられていたが、オリンピックで日本は惨敗。パラの日本代表選手の動揺を案じた金HCが「これだけやったのだから普段通りやれば大丈夫」と、選手に平常心を促す材料になった。

また、パラリンピック直前の合宿では、強度の高いゲーム練習で、実戦から1年以上、遠ざかっている選手の試合勘を取り戻すことも試みた。

たとえば上肢障がいの選手は、健常の全日本総合選手権の上位者と打ち合い、海外選手のスピードやパワーに備えた。こうした健常者との連携も日本に順風を呼びこむ要因になった。

“東京バブル”で終わらせないために

一方で、パラバドミントン界には危機感もある。これまで国や企業が東京大会開催に向け、積極的にパラスポーツを支援する“バブル”の機運に乗ってきたが、今後も同じ支援が受けられるとは限らない。

そこでJPBFは、今後もスポンサー獲得を目指すと同時に安定的な事業の継続、拡大・充実のため、一般に寄付を募り始めた。寄付金は、「普及活動」「選手発掘・育成活動」「トップアスリート強化活動」に活かすつもりだ。

普及活動として、選手が学校訪問する体験型プログラム「パラバドスクールキャラバン」を実施中。選手発掘・育成活動は今年5月に立ち上げた「パラバドアカデミー」が担い、未来の梶原、里見を作る予定だ。

銅メダリストたちの競技興隆への思い

もちろん選手たちもこの競技を広めたい気持ちが強い。金メダル獲得後、梶原が「パラバドを知ってもらうために今後も勝ち続けたい」といった言葉が思いの象徴だ。

男子ダブルスで梶原と組んで銅メダルを獲得した村山も競技発展を強く願う一人だ。

村山(左)は「最後の最後だったので、なにがなんでも勝とうと思った」 photo by Jun Tsukida

優勝した中国ペアに2連敗した村山&梶原だが、3位決定戦でタイペアに21-18、21-19で勝利。試合後、村山は「うれしさ半分、悔しさ半分。それでも銅メダルというのはもぎとった感じがある」と喜びを口にした。

その村山は、「今回の日本選手の姿を見て一人でも多くの人が、パラバドミントンをやってみたいと思ってくれれば」と願っている。

藤原大輔は義足で戦えることを証明する「銅」

SL3(下肢障がい)の藤原大輔は、全国の義足選手に希望を与える奮闘を見せた。

戦前、「(SL3では不利だといわれる)義足でも勝てることを証明したい」と意気込んだ藤原は、男子シングルスは4位に留まるも、杉野明子(SU5 上肢障がい)との混合ダブルスで銅メダルを獲得した。

板バネの競技用義足で戦う藤原 photo by Kyodo

試合は混戦で1ゲームは23-21で奪取。2ゲームももつれたが、最後は、藤原がサイドへ跳びつくジャンピングスマッシュで決着をつけた。テレビ画面を通じ、その豪快さに見惚れた人は多いはずだ。

かつて「車いすバドミントンに行ったらどうか」と勧められたこともある藤原だが、魅力的なプレーによって義足選手の可能性を広げた形になった。

杉野明子に2つの銅メダル

この藤原と組んでいた杉野明子は、女子シングルスでも銅メダルを引き寄せ、存在をアピールしている。

2つの銅メダルを獲得した杉野(左) photo by Jun Tsukida

予選リーグで日本の亀山楓をファイナルで退けた杉野は、3位決定戦で亀山と再戦。再び3ゲームで勝って銅メダルを手にした。ひざの前十字靭帯の断裂など、大ケガを乗り越えてきただけに、試合後は「うれしいという気持ちと、しっかり勝ち切れてホッとした気持ちがあります」と笑顔。この種目は4強のうち、日本選手が3人を占め、日本の層の厚さも見せつけた。

女子ダブルス3位決定戦を制した伊藤則子の進化

SL3(下肢障がい)の伊藤則子は、SU5(上肢障がい)の女子シングルス銀の鈴木亜弥子と3位決定戦を制した。伊藤がパラリンピックで示したのは、「Impossible is possible(不可能は可能だ)」だ。

2019年、鈴木と組む以前は、「健足の左足で2度ケンケンしてから、右足を出す走り方をしていた」という伊藤だが、金HCに「絶対できるから」と励まされ、当初自身では無理だと思っていた、1歩ずつ足を出すフットワークを身につけ、プレー改良に努めた。

一度は現役を退いたが、東京大会出場を目指して復帰した伊藤(手前)も銅メダル photo by Kyodo

45歳の伊藤にとって銅メダル獲得も「信じられない出来事」だという。伊藤は東京大会への挑戦の物語をハッピーエンドで締めくくり、「障がいや年齢に関係なく、可能性にチャレンジできることを伝えられてよかった」と胸をなで下ろしていた。

また、女子ダブルスで金メダルの山崎悠麻は女子シングルスで銅メダルを手に入れている。トップを走り続けてきた2児の母は、日本選手の活躍を受けて「障がいを負ったとき、バドミントンが最初にやってみようと思う競技になれば」と話した。

このようにメダリストたちの言葉からは「競技を広めたい」という熱意がひしひしとこぼれる。その思いが「メダルを獲って注目度を変える」という決意に変わり、選手は全精力をコートに注いだ。

「メダルラッシュの要因は何か」と問われれば、一番の答えは選手の競技普及への熱意になるのかもしれない。

edited by TEAM A

text by Yoshimi Suzuki

key visual by Hisashi Okamoto

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