聖火リレー史上初!ランナーは「はじめて出会う3人で1組」
パラサポWEB / 2021年9月24日 16時32分
先日感動のフィナーレを迎えた東京2020パラリンピック。大会スタートの大事なイベント、聖火リレーもまたコロナ禍の影響を受けた。残念ながら当初計画した長い距離を走ることはできなかったが、そんな中でも、パラリンピックの聖火ランナーは「3人1組」というオリパラ史上初の試みが行われた。聖火リレー当日に初めて出会ったメンバーで希望の光「聖火」を繋いだランナーたちの声を改めて振り返ってみた。
3人1組の聖火ランナー。新しいパートナーシップを考えるきっかけに3人1組で走り、次の組へ聖火を渡す時には、それぞれの組が考案したポーズを決めた
東京2020パラリンピックの聖火リレーは「Share Your Light/あなたは、きっと、誰かの光だ。」というコンセプトのもと、8月12日から24日までの間に行われた。
パラリンピックの聖火リレーで運ばれる火は2種類。ひとつはパラリンピック発祥の地、イギリスのストーク・マンデビルで採火(炎が誕生すること)されたもの。もうひとつは、国内47都道府県の市町村それぞれが独自の方法で採火した火だ。このうち競技開催地である静岡県、千葉県、埼玉県、東京都では聖火リレーも行われた。これらの火が8月20日、開催都市・東京の迎賓館赤坂離宮に集結。集火式が行われ、パラリンピックの聖火が誕生した。その後、集火式で誕生した東京パラリンピックの聖火が8月24日の開会式まで都内を巡った。
こうして行われたパラリンピックの聖火リレーは、コロナ禍の影響もあり、一部の地域を除いて公道での実施は中止され、ランナーが走ったのは都立葛西臨海公園第三駐車場や都立代々木公園中央広場といった限られた場所だった。
ランナーは原則として「はじめて出会う3人」が1組となって炎を運び、次のチームへと繋いだ。これは、パラリンピック聖火リレーをきっかけとして生まれた新しい出会いが、「新しいパートナーシップ」を考えるきっかけになることを期待して行われたパラリンピック史上初の試みだ。こうした思いを背負って走った3人の聖火ランナーからお話を伺った。
「仲間たちの声援を受けて念願の聖火ランナーに」渡邊敏郎さん埼玉県で聖火リレーをする渡邊敏郎さん(中央)
8月19日、競技開催地である埼玉県の聖火リレーに参加した渡邊敏郎さんが、パラリンピックと関わるようになったのは、大会開催地が東京に決まる前からだった。近畿日本ツーリストに勤めている渡邊さんは2012年から2013年にかけて「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会」に出向。パラリンピック機運醸成事業に関わり、東北3県復興支援をはじめ、日本全国各地でパラリンピックを盛り上げる活動をしてきた。そして迎えた2013年9月、2020年の開催地が発表された時には、現地・ブエノスアイレスであの「TOKYO」という声を生で聞いたそうだ。その後も、ソチ・リオ・平昌とパラリンピックの視察・輸送の仕事に従事してきたこともあり、聖火ランナーに応募。見事その切符を手にした。
渡邊さんがパラリンピックの聖火ランナーとして走ったのは、朝霞中央公園陸上競技場。美しい夕焼けの中、その日出会ってチームになったばかりの3人で聖火を手にトラックを走った。わずか100mという短い距離ではあったが、そのとき渡邊さんの脳裏には、さまざまな人の顔や声援の声が浮かんだと言う。パラリンピック開催に向けて一緒に頑張ってきた同僚や、東北3県復興支援などで出会った仲間。東京大会に関わったことをきっかけに取得したスポーツ指導員の資格を活かしたボランティア活動で出会った仲間たち。彼らと「今の自分たちに何ができるのか」を話し合ってきたことを思いだしながら長くて短い100mを走りきった。
そして聖火ランナーという大役を終えた今、「東京2020大会を機に、ひとりでも多くの人の中に共生社会に向けた前向きな変化が起こってくれることを願い、その実現に向けて、自分自身もさまざまな活動を継続していきたい」と語ってくれた。
「復興に励む福島の代表として、恩師や家族への感謝を胸に」星野千尋さんトーチキスで聖火を繋ぐ星野千尋さん(左)
福島県代表のランナー・星野千尋さんは、県立いわき支援学校高等部の3年生。中学時代は人とのコミュニケーションがあまり得意ではなかったという星野さん。しかし高校に入ってからは先生の助言もあり、学級委員長になるなどして、徐々に自分から人に話しかけられるようになった。そして現在は生徒会長を務めるまでに。そんな成長した自分の姿を中学時代にお世話になった先生や、高校でさまざまな助言をしてくれた先生方、いつも応援してくれる家族に見て欲しいという思いから聖火ランナーに応募したという。
そして応募の動機はもうひとつ。それは東日本大震災で甚大な被害を受けた地元福島が頑張っている姿を、発信したいという思い。当時、星野さんは6歳で、震災の記憶はほとんどないそうだが、それでも復興に励む福島の人たちの並々ならぬ苦労を知っている星野さんは、その思いを背負って福島県代表として東京へ向かった。
星野さんが聖火ランナーとして走ったのは、東京で行われたパラリンピック聖火リレーの2日目の8月21日。「生徒会長として大勢の人の前に立つことには慣れていたましたが、いざその場に立ってみるとやはり緊張しました」と、当日の気持ちを振り返る。しかし、高校で培ったコミュニケーション能力を発揮し、チームとなった初対面の2人と協力し無事に大役を果たすことができた。「今回の経験は自信に繋がりました。これを機会にもっといろんなことにチャレンジしたい」と、最後には明るく語ってくれたのが印象的だった。
「エンタメは心の栄養だと改めて実感した貴重な体験」かみはるさん笑顔で聖火を運ぶかみはるさん(左から2人目)と介助をするヤムちゃん(左端)
8月24日、パラリンピック聖火リレーの最終日。都立代々木公園でランナーを務めたのは、紙芝居師のかみはるさん。「先天性股関節脱臼」という障がいのあるかみはるさんは、2015年から紙芝居の師匠である「ヤムちゃん」さんとコンビを組み、パラスポーツやパラリンピックを紙芝居で明るく楽しく普及するため全国を回っていた。特に2016年からは渋谷区をメインに幼稚園、保育園、小学校を回り、なんと1万人以上の子どもたちが彼女たちの紙芝居を見たという。今はこうして活躍しているが、障がいが悪化して「障がいのある自分には無理、できない」と紙芝居をやめようと思ったことがあるそうだ。そんな時、ヤムちゃんさんが「パラスポーツって知ってる? 一度見てみたら?」と声をかけてくれた。そうして見に行ったのが車いすバスケットボールだった。「その迫力が凄くて感動したんですけど、同時に障がい者に偏見を持っていたのは、自分自身だった。自分で自分の可能性を消していた、ということに気づいたんです」と、自身の転機となった出来事を振り返る。
その後、紙芝居を続けることを決意したかみはるさんは、ヤムちゃんさんをはじめ自分を励ましてくれた多くの人たちに感謝の気持ちを表すため、聖火ランナーに応募した。そんな中、意外な知らせが届く。なんと、紙芝居によるパラスポーツの普及活動を認められ、公募とは別枠で東京都から聖火ランナーのオファーがきたのだ。
こうして聖火ランナーとなったかみはるさん。当日は、ヤムちゃんさんに介助をしてもらい左手に杖、右手には聖火のトーチを持ってランナーを務めた。コロナ禍の影響で、聖火リレーは基本的には無観客で行われたが、会場となった渋谷区を代表して地元の小学生たちが応援にかけつけた。その中には、彼女たちの紙芝居を見た子どもたちがいて「あ、紙芝居の人だ」と声をかけてくれ、拍手をして応援してくれたそうだ。「あの子どもたちの楽しそうな姿を見て『エンタメは心の栄養』だと改めて実感しました。だからこそ、コロナ禍で、さまざまなイベントが中止となっている子どもたちに、元気を届けるためにも、自分にできることを模索し、紙芝居を続けていきたいです」と、笑顔で語ってくれた。
東京2020大会は終わってしまったが、パラリンピックの聖火リレーに込められた「Share Your Light/あなたは、きっと、誰かの光だ。」というメッセージは、多くの人たちの心に今も明るい希望の火を灯している。年齢や性別、障がいの有無、国籍に関係なく、地球上のすべての人がこの気持ちを忘れずにいれば、一人ひとりの光は小さくても、世の中はきっと明るくなり、巡り巡って自分が進む道も明るく照らしてくれるはずだ。ランナーたちの声は、パラリンピックが終わったこれからも、この光を絶やさないことが大切だということを改めて教えてくれた。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
key visual by Tokyo2020
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