東京パラ取材カメラマンが厳選! 魅了されたスーパーアスリート
パラサポWEB / 2021年10月29日 17時43分
プロカメラマンたちは何を思いながら撮影していたのか。パラスポーツやパラアスリートたちが輝きを放ち、世界中の人たちを魅了した東京2020パラリンピック。その最も輝く瞬間を捉えた写真の数々は、パラスポーツやパラアスリートの魅力に改めて気づかせてくれるとともに、見返すたびに心揺さぶられる瞬間を思い出させてくれる。今回は、パラサポWEBの撮影を担当した奥井隆史氏に、目を引いた選手の写真とともに、パラリンピックやパラスポーツの魅力を聞いた。
東京パラリンピックで全22競技中、14競技を撮影した。
「団体競技のシッティングバレーボール、車いすバスケットボール、車いすラグビー、5人制サッカー(ブラインドサッカー)をはじめ、新競技のバドミントン、個人競技の陸上競技、ボッチャ、自転車競技、パワーリフティング、トライアスロン、車いすテニス、カヌー、車いすフェンシング、そして水泳と、多彩な競技を撮影する機会に恵まれました」(奥井)。
なかでも、水泳に心を激しく揺さぶられたという。
プールから上がると、私の方をまっすぐ見てポーズをとってくれた。義足を置く位置も絶妙で、さすが撮られ慣れているな、と思った一枚「もともと個人競技が好きです。勝つも負けるも自分一人の責任。一人で勝負に挑み、戦う姿に、選手の人となりのすべてが見えるようで、非常に魅かれます。パラリンピックでは用具を使う競技も多いのですが、水泳は自分の体一つで戦うところがいいですね。しかも、身に着けているのは水着のみ。四肢が欠損している姿がそのまま見える上に、そうした選手たちが一堂に会する様子は、私にとっては衝撃的で。最初に撮影した日の夜は、なかなか眠れませんでした。とはいえ、勝負に挑む気持ちは、パラも健常も同じ。パラアスリートたちが全身全霊で競技に向き合う姿に、大きな感銘を受けました」
水泳の中でも印象深い選手だったというのが、ジェシカ・ロング(アメリカ)だ。シベリア生まれで、先天的な足の欠損があったジェシカは、児童養護施設に預けられたのち、1歳1ヵ月でアメリカのロング夫妻の養子となり、1歳6ヵ月で下肢を切断。パラリンピックは、東京パラリンピックで5大会連続出場となり、総獲得メダル数も29に。まさにパラ水泳の女王。日本選手中心に撮影していた奥井も、思わずカメラを向けるほどの存在感を放っていたという。
女子200m個人メドレー(SM8)予選直後。今大会では、パラアスリートの内面をとらえるような写真を撮りたいと思っていた。気持ちが表れやすい目を狙ったところ、こちらに気づき、じっと見つめてきて驚いた レースを終えると、すぐにリラックスした表情に。レース前後の切り替えの早さも印象的だった 9月3日の女子100mバタフライ(S8)決勝に登場。終始、楽しんでいる様子が印象的だったが、決勝では引き締まった表情で入場。勝負にかける意気込みが伝わってくる 決戦に向けて集中し切ったジェシカ。目力の強さに、勝負へかける思いは健常もパラも同じだと、改めて思わされた ジェシカが義足を外し、切断した脚で飛び込む姿に、来し方の困難さを想像させないほどの力強さと、強靭な精神力を感じずにはいられない 上肢だけで水をかき分け、力強く進むジェシカ。生身の体だけで勝負している姿は、すごみさえ感じさせる 今大会だけで金メダル3、銀メダル2、銅メダル1を獲得。どうしたらこんな高みにたどり着けるのか、何を考えているのか。内面を知ったうえで、心の中まで映し出す写真を撮ってみたいと思った 最終レース後、断端を持ち上げてポーズを取る。つくづく自分の見せ方を知っていると思う。こちらが撮るというより、ジェシカに撮らされている、といってもいいかもしれない写真が切り取るのは、ほんの一瞬。だが、そこには被写体が紡いできた物語が映し出されている。
1968年生まれ。スポーツフォトエージェンシー「フォート・キシモト」に在籍後、1996年からフリーのスポーツ写真家として活動を開始。陸上競技を中心に、アウトドアスポーツやスポーツフィッシングなど多彩なスポーツを撮影している。世界陸上選手権など国際大会の撮影も多数。
text by TEAM A
photo by Takashi Okui
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