【PLAY BACK TOKYO】ブラインドサッカー初代代表の黒田智成が決めた! 過去と未来をつなぐスーパーゴールの裏側
パラサポWEB / 2021年10月22日 17時33分
メダルだけではない。去る東京2020パラリンピックで生まれたひとつのゴールに心を揺さぶられた――。
「2002年にブラインドサッカーに出会って以来、何度もパラリンピック出場を逃して悔しい思いをしてきました。ようやくつかんだ夢の舞台。大会の前から、チャンスがあれば皆が驚くようなすごいことにチャレンジしたいと考えていました」
そう話すのは、ブラインドサッカー初代日本代表でもある黒田智成。代表歴19年目で悲願のパラリンピック初出場を遂げた。42歳(大会当時)のエースストライカーは、4試合すべてに先発。初戦で待望の先制点を挙げると、計3得点を決めて日本代表の5位入賞に貢献し、最後は仲間たちから胴上げされた。
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9月2日のスペイン戦は日本代表にとって今大会最後の試合だった。前々日にグループリーグの最終戦で宿敵の中国に敗れ、決勝トーナメント進出の夢はついえた。しかし、メダルを目指して同じ釜の飯を食ってきた選手やスタッフにとって、順位決定戦はこのメンバーで戦うラストゲームだ。キャプテンの川村怜率いるチームは「最後は勝利で終わりたい」と皆が強い気持ちで試合を迎えた。その結果、日本代表は古豪の猛攻を振り切り1-0で勝利した。
この勝利を強く印象付けることになったのが、黒田が決めた“奇跡のゴール”だ。
前半20分。右コーナーキックを得た日本代表は、川村がゴール前に送り出した浮き球を左サイドから走り込んだ黒田がハーフボレー。「思い切り信じて足を振り抜いた」というボールはゴール左隅に鮮やかに吸い込まれていった。
「ピッチの4人のイメージが一致して生まれた奇跡のゴール。練習したからといってできるものではない。これまでブラサカを支えてくれた人たちが導いてくれたとしか思えません。今振り返っても、本当にうれしいゴールでした」と黒田が言えば、「僕の足にも、黒田選手の足にも、魂が宿っていた」と川村も誇らしげに話した。
大会後に、何度も映像を再生して解説してもらったという黒田は言う。
「(フィジカルの強い、佐々木)ロべルト(泉)が(川村)怜からの球をワンタッチした後、すぐにディフェンスに走っていた。そして、(コーナーキックで)怜が雨の中で完璧に浮かせるのは難しいんですが、最高の位置に球を落としてくれた。そのうえで(DFの要である田中)アキがニアに走り込んだことで自分にマンマークされずに動くことができたんです」
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特筆すべきは、全盲の黒田が、ボールが回転したときに奏でる一瞬の音を聞き逃さず、頭の中でボールの軌道を思い描き、自分の動きと合わせたことだ。
「浮き球の頂点と転がったワンバウンド目の二点を聞き取ることで、ボールのスピード感がわかったので、一度外に逃げてから中に走り込んだんです。見返すと、そのおかげで近くにいた相手に当たることなく、シュートを打ち切ることができていました」
全盲状態で行うブラインドサッカーは、転がすと音の鳴るボールを使うが、空中では音がほぼ鳴らない。トラップを習得することも難しいとされるブラインドサッカーでダイレクトシュートはなかなか見られるものではないのだ。
“奇跡のゴール”とは言っても偶然の産物ではない。実は特訓も重ねていた。盲学校教諭でもある黒田は、すべての代表練習に参加できるわけではなく平日は授業の後に職場の体育館でボールを蹴る。今大会の前は、サッカー経験のある同僚に浮き球を出してもらい、ディフェンスのいる状態でシュートをする練習も行っていたと明かす。
「もしかするとその練習も役に立ったのかもしれませんが、練習ではきれいに決まることはありませんでした」
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ゴール裏でガイドする中川英治コーチのコメントも興味深い。
「トモ(黒田)はクリエイティブな選手。声がけの仕方は選手によって異なるのですが、トモのクリエイティブないいところを消さないように、あまり指示しないようにしています」
そもそも2002年にブラインドサッカーに出会った黒田がこの競技にのめり込んだきっかけは、視覚障がい者競技の中でも自由度が高い競技だったからだ。ガイドされるまま左右前後に動くだけではない。自分の判断でピッチを縦横無尽に走ることができるし、ときに空中戦だってできる。日本代表が誇るクリエイティブなストライカーなのだ。
中川コーチは振り返る。
「僕が『撃て』というタイミングでシュートを打たずに得点を入れることもあるし、『まだ』というときに撃って得点することもある。僕の声を裏切ってくれたほうが点が入ったりするんです。ですが、今大会は3ゴールとも2人のタイミングがぴったり合いました」
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パラリンピックに向かう中で調子を落とした時期もあった。だが、今大会はチームで取り組んだコンディショニングがうまくいった。気持ちの面でも充実していたに違いない。
「過去の大会でいい結果が出なかったときを振り返ると、自分のプレーに迷いがあったように思うんです。ここまで来たら迷わずに自分の判断を信じようと意識して大会に臨んだのもよかったのかな」
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そう話す黒田にとって、東京パラリンピックは、ようやくたどり着いた檜舞台。無観客だったものの、その舞台は奪われることなく無事に開催された。そして、同じ障がいの選手たちと世界一を争い、全盲ゆえの超人的能力を見せつける。長年の思いが実現する最高の舞台だった。
パラリンピックを終え、得点を期待されるプレッシャーから解放された黒田に話を聞いた。10日ほど経ち、久しぶりにボールを蹴ったとき、原点を思い返し、サッカーへの変わらぬ思いを感じたという。
「日本にまだブラインドサッカーがなかった小学生時代、壁に向かってボールを蹴るのが、ただ楽しかったなって」
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人間の可能性を魅せるパラリンピックでの挑戦は一区切りついたが、「サッカーがうまくなりたい」という純粋な気持ちでボールを追う黒田のフットボールライフは続いていく。
text by Asuka Senaga
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