全日本パラ馬術大会で自己ベスト!成長を語る上で欠かせない稲葉将の転機
パラサポWEB / 2021年11月10日 15時54分
11月5日から3日間にわたって行われたパラ馬術の国内最高峰「第5回全日本パラ馬術大会」。兵庫県の三木ホースランドパークに9人馬が集まり、演技の正確さと美しさを競った。
相棒とともにリスタート東京2020パラリンピックを終え、2022年の世界選手権(デンマーク)、そしてパリ2024パラリンピックに向けて新たなスタートとなる大会だ。
「誰にも負けたくない」
そう意気込んで大会に臨み、3競技ともに全体の最高得点(チームテスト66.618%、インディビジュアルテスト67.402%、フリースタイルテスト71.545%)をマークしたのが東京パラリンピック日本代表の稲葉将だ。
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なかでも7日に行われたフリースタイルテストの得点率は自己ベスト。東京パラリンピックでは日本障がい者乗馬協会のリース馬「エクスクルーシブ」と組んだため、愛馬「カサノバ」と共にパラの大会に出場したのは、昨年11月以来約1年ぶりだった。
「久しぶりに自分の馬で出場しましたが、正直なところ、1競技目(チームテスト)と2競技目(インディビジュアルテスト)はうまくいかないことのほうが多かった。馬の調子が良かっただけに、カサノバには申し訳ないと感じていました」
そんな稲葉は最終日、「思い切りやろう」と気持ちを切り替え、活発なカサノバは音楽に合わせて軽快な動きを披露した。
「フリースタイルはあまりやる機会がないけれど、今までで一番いい点数を残すことができました。やっぱり思い切ってやらないとダメだと再認識させられました。気持ちのモヤモヤが馬に伝わってしまいますから」
横浜に自宅がある稲葉は週5回、静岡乗馬クラブで寝泊まりしながら、ほぼ自分でカサノバの世話をする。そんな馬術漬けの環境を選んだかいもあり、馬場馬術を本格的に始めたのは2017年と決して早くないなか、最短ルートで自国開催の東京パラリンピックに出場する目標を見事、実現させている。
グレードIII3冠の今大会も「これまで積み上げてきた経験があるからこそ、誰にも負けなかった」と胸を張った。
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ひとつ気になったのは今大会前半の演技に響いたという「気持ちのモヤモヤ」だ。その要因は他でもなく、パラリンピックという世界最高の舞台が稲葉に与えた衝撃の大きさだろう。
稲葉にとって初めてのパラリンピックは、想像を超えるエキサイティングな人生の出来事であり、唯一無二の経験だった。
「素晴らしいライダーと競演し、本当に貴重な経験をさせてもらった。あのような大きな大会はないので、まだ気持ちの整理がしっかりできていないのかもしれません」
2ヵ月前の東京パラリンピック。稲葉は団体種目では日本チームとして快挙といえる70.118%のスコアをたたき出した。しかし、先に行われた個人種目では傍目から見てもわかるほど緊張した面持ちで馬場に登場し、実際に動きも堅かった(結果は個人15位)。稲葉の属するグレードIIIは個人種目で上位9人もの選手が70%超えとハイレベルだっただけに、周囲が健闘を称える一方、「もっともっとできたはず」と冷静だった。
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そして、選手村を退村した翌週から静岡乗馬クラブで練習する日々を再開させた。
競技力向上を図るうえで稲葉が最も重要視しているひとつが、カサノバを含め複数の馬に乗ることができる環境環境だ。
実は、東京パラリンピックの会場となった馬事公苑で、通算12個目の金メダルを獲得したリー・ピアソン(イギリス/グレードII)と選手席で隣り合う機会があり、チャンスを逃すまいと馬術のトレーニングについて尋ねた。
パラ馬術のレジェンドとして知られるピアソンは、イギリスで厩舎を運営しているため、さまざまな馬に乗ったり、調教したりするなどで日ごろから馬と接している。
「ピアソン選手が馬に乗る以外のトレーニングもしているのか気になって聞いてみたんです。答えは、乗る以外はしていないということでした。やはり複数の馬とふれあい、馬の良さを引き出せるようになることが一番重要。ピアソン選手の話を聞いて、(静岡乗馬クラブで寝泊まりしている)自分の練習環境は間違いない、と確認することができました」
試合以外の場面でも持ち前の積極性で海外のライダーと交流し、多くの学びと刺激を得たようだ。
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東京で得た多くはまだ自身の中で消化している最中だが、パリは3年後に迫る。当然のことながら次は自国開催枠はなく、出場枠を巡り予選から厳しい戦いを強いられる。本人にもその自覚があるからこそ、「まずは世界選手権の枠取りから」と慎重に語る。
それでも、パリの会場は、ヴェルサイユ宮殿という話題に及ぶと、「いや~、行きたいですね。またパラリンピックの舞台を味わいたいです」と目を細めた。
この夏の経験を糧に競技力をもう一段階上げるには何が必要か。稲葉が挙げたのは、ヨーロッパのグレードの高い大会にどんどん出場していくことだ。
「海外での試合の経験が少ないことが課題。高いレベルに身を置かないと、レベルアップできないと感じています」
馬術の盛んなヨーロッパと比べ、日本が越えるべきハードルは少なくない。だが、日本のパラ馬術界の新時代を担うリーダーは覚悟を持って進んでいく。
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text by Asuka Senaga
photo by TEAM A
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