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柔道・瀬戸勇次郎が全日本3連覇! 男子66kg級銅メダリストの矜持

パラサポWEB / 2021年11月30日 15時21分

11月28日、パラ柔道の各階級日本一を決める「全日本視覚障害者柔道大会」が東京・講道館で行われ、東京2020パラリンピック銅メダリストの瀬戸勇次郎が優勝。男子66㎏級で3連覇を飾った。新型コロナウイルス感染症流行の影響で2年ぶりの大会。同階級は3人の総当たり戦で2試合が行われ、いずれも一本勝ちで瀬戸の完勝だった。

「メダリストとして負けられない」

一試合目の相手は、東京大会で日本代表の座を争った藤本聰。パラリンピック3連覇の実績を持つレジェンドとの一戦はやはり特別な緊張感が漂う。

「メダルを獲ったからこそ、今日は絶対に負けられないと思ってきた」と瀬戸。対する藤本は瀬戸の釣り手を抑えて技出しを封じる。瀬戸は指導を受けるが、その後も藤本の寝技に持ち込まれないよう冷静に対処し、最後は大内刈りで決めた。

引き締まった顔つきで試合に臨んだ瀬戸

「もしかすると『技あり』かなと思ったが、きれいに足をかけることができた。勝つことはできたけど、内容はまだまだ。なかなか技をかけさせてもらえず、何もしなかったらやられていた。やはり藤本さんにはベテランの技術というものを感じました」

続く2試合目。鬱憤を晴らすかのように同じ福岡県の川上流葵を背負い投げで仕留めたが、「背負い投げを狙っていたので、強引な形になってしまった」と反省の言葉を口にし、「技に入る前の崩しを、もう一度確認しなければ」と課題を挙げた。

男子66㎏で表彰される(左から)藤本、瀬戸、川上

3連覇は嬉しい気持ちより、ほっとした気持ちが一番強い。

東京大会でメダルを獲った翌日、「次は全日本」と早くも気持ちを切り替えていた。しかし、メダリストとなれば報告会などもあり、練習の時間はなかなか取れない。10月に入り、段階的に稽古を再開させたが、教職を志す大学4年生の瀬戸は2週間の教育実習へ。コロナ禍の影響もあり、限られた時間で今大会に向けて調整した。

「十分な乱取りができないまま実習に入り、実習後はしっかり練習できていました。それもたった2週間だし、その期間は減量もありました。ですが、やることはやったので、それが今回の結果につながったのかなと思います」

目の前の一試合、一試合を大切にしたいから、3連覇の数字に意味を持たせることはしない。ただ、長く続けられればいいと考えている。

男子66㎏級で圧倒した瀬戸。メダリストになり、「(周りに)持ち上げられることはどうだろうと思うことはあるが、自分の考えを発信できる機会があるのはありがたい」 パリ大会を巡る衝撃

一方で瀬戸は「66」という数字には愛着があるという。2017年に初めて全国視覚障害者学生柔道選手権に出場したときからずっと男子66㎏級で戦っており、前述したように同階級の藤本と争った末、代表切符を手にした。

ピンと背筋を伸ばし、淡々と語る瀬戸。2024年のパリ大会もこの66㎏級で金メダルを目指すつもりだった。

この夏の東京パラリンピックではプレッシャーに打ち克ち、価値のある銅メダルを獲得した photo by Jun Tsukida

しかし、瀬戸は階級の変更を迫られている。

これまでパラリンピックの柔道競技は男子の場合、体重別の7階級に分けてそれぞれのメダルを争ったが、パリ大会では2つのカテゴリー(全盲と弱視)に分けられ、それぞれ4階級(60㎏以下級、73㎏以下級、90㎏以下級、90㎏超級)で実施されることが発表されたのだ。

瀬戸の胸中は複雑だ。

「今まで66㎏級で戦ってきた。そこで戦える誇りもあったので残念です」

今年も因縁の相手・藤本との試合が注目を浴びた

種目の見直しはかねてより議論されており、階級が減るだろうことは理解していた。しかし、66㎏級がなくなり、パリ大会は60㎏級か73㎏級で目指すことになるため、「まさか間(66㎏級)がすっぱ抜かれるとは思っていなかった。かなりショックでした」と衝撃を隠せない。

普段は体重が70㎏前後で、試合前に3~5㎏ほど減量する瀬戸は、「おそらく60㎏以下まで落とすのは難しいのではないかなと思っています。73㎏級でやるとなると、76㎏くらいは欲しいところ。とはいえ、パラリンピック予選が始まるまでの1年未満という期間で体を作るのは厳しい。トレーニング方法を含めて考え直さなければ……」と困惑気味だ。

さらに、全盲が不利とされ、カテゴリー分けがされることについて、「自分は弱視だから」と前置きをしたうえで、「障がいの程度に関係なく、みんなが一緒にできる。それが柔道のいいところだと思っています。これまで弱視の選手相手に戦っていた全盲の選手の気持ちもあるし、全盲の選手に勝つことのできない弱視の選手もいる。そんな中で、単純にわけるのがいいのかどうなのか」と複雑な気持ちを明かした。

先天性の目の病気により、弱視の瀬戸。人や物がぼんやり見え、光をまぶしく感じるという 瀬戸を強くするレジェンドの存在

今後の階級は未定だが、パラリンピックの金メダルに臨む目標は変わらない。

パラリンピック3連覇の実績を持つ藤本とは、計量の行われた試合前日、約半年ぶりに再会した。東京大会で銅メダルを獲得した瀬戸に「メダルおめでとう、がんばったな」と言葉をかけてくれたという。

「66㎏級は藤本さんがメダルを獲られていた階級なので、改めて引き継ぐことができて本当によかったなと思いました」

ライバルではあるが、切磋琢磨して高め合う仲間でもある。「今日もそうですし、普段からそんなにバチバチはしていないですよ(笑) だけど、試合はお互い真剣。それがうれしいし、楽しいことなんです」

全日本選手権は2年ぶりの大会。無観客で開催された 

この日も「もっと長い時間試合をしたかった」と思うほど、楽しい試合だったと振り返った。

来年3月には講道館で東京国際視覚障害者柔道選手権大会が開催予定。「同じ階級にしろ、違う階級にしろ、藤本さんがいることで自分のモチベーションが上がることがあるんだろうなと思います」

大学卒業後は、大学院進学を見据える。パリに向けて、より柔道に取り組める環境を整備しており、金メダルへの思いものぞかせる。

「新しいレギュレーションの中で今の自分がどれだけ通用するかまだわかりませんが、今後、状況の変化に対応できるように、また少しずつ練習していきます」

初出場の東京大会で輝いた瀬戸勇次郎。21歳の銅メダリストは、未知の領域に挑む。

text by Asuka Senaga

photo by Haruo Wanibe

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