【北京冬季パラPREVIEW】平野歩夢だけじゃない! 東京から北京に舞台を移した夏冬二刀流選手たち
パラサポWEB / 2022年3月3日 9時33分
東京2020パラリンピック競技大会に出場した選手が、わずか半年の準備期間で北京2022冬季パラリンピックにも登場!? 今大会で注目が集まる、世界の二刀流パラアスリートを紹介したい。
「冬の女王」が再び世界の頂点へ!
2018年の平昌大会でひときわ輝いていた日本選手といえば、今大会で日本選手団主将を務めるアルペンスキー・村岡桃佳(LW10-2)。金メダル1、銀メダル2、銅メダル2と計5個のメダルを首にぶら下げて帰国した。その後、雪上ではなく陸上競技場に姿を現した村岡。東京大会では強者揃の女子100m(T54)で決勝に進出。6位入賞の成績を残した。
アルペンスキーよりも陸上競技を先に始めた村岡の小さい頃の夢は、「陸上競技でパラリンピックに出場すること」。平昌大会での好成績で新たに芽生えたのが、陸上競技の再挑戦だったといい、2019年から本格的に東京大会を目指すために始動した。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に開催されるはずだった東京大会は延期。東京大会から北京大会までの間隔が半年となってしまい、「二刀流でやっていくことに迷った」と明かした村岡。それでも、どちらもあきらめることはできず、二刀流を貫いた。
懸念された延期の影響は杞憂かもしれない。2021-22シーズンの国際大会での戦績は、スーパー大回転=出場4レース中2レースで1位、大回転=5レース中4レースで1位、回転=2レース中2レースで1位と、参戦したレースの大半で優勝。最新の世界ランキング*では大回転とスーパー大回転で1位、それ以外は2位につけている。
陸上競技のトレーニングに励んだことで、ストロングポイントである高速ターンの安定性とキレが増したという村岡。その進化した滑りは必見だ。
*世界ランキングは2022年2月14日時点
北京大会では主将として日本選手団を率いる村岡(中央)期待の星! 義足アスリートの第一人者に続け
「篤さんとようやく同じフィールドで試合ができた」
東京パラリンピックで男子100m(T63)と男子走り幅跳び(T63)に出場した小須田潤太(SB-LL1)は、長年背中を追ってきた大腿義足の鉄人・山本篤に近づけたことを感慨深く述べた。
2012年に交通事故で右脚大腿部を切断し、事故から約3年後にランニングクリニックのイベントに参加。そこで出会ったのが山本だった。山本から練習の誘いを受け、転職して競技環境も整備。2018年には走り幅跳びの世界ランキングで8位にランクインし、世界と競い合える選手に成長した。
スノーボードを始めたのも山本の影響だ。山本は初出場した「第3回全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ」(2017年)でいきなり優勝し“二刀流”と話題を呼んだ。これに感化された小須田は、スノーボードに挑戦。2018-19シーズンからパラスノーボード強化指定選手に選ばれ、海外を転戦。2021年のワールドカップ・フィンランド大会では、スノーボードクロスで3位に入った。
本番では、平昌大会でスノーボードクロス12位だった山本を超える成績をぜひ残してほしい。
背中を追ってきた山本篤を超えられるかオールをストックに持ち替え、水上から雪上へ
ノルディックスキー日本チームから唯一の視覚障がい選手として出場する有安諒平(B2)は、東京パラリンピックでは、ボート(混合舵手つきフォア)に出場(12位)した。もともとは、オリンピックのボート選手やクロスカントリースキーの選手がトレーニングでボートの練習をすることがあると聞き、2019年から自身の練習にも取り入れたことがきっかけだ。まったくのスキー初心者だったが、2020年12月に本格的に競技を始め、競技歴わずか2シーズン目での代表入りとなった。
中学時代から視力が落ち、現在弱視の有安は、もともと視覚障がい者柔道の選手で2016年、ボートに転向。根っからのスポーツマンで「有安選手は吸収が早く、運動能力も高い」とはガイドを務める藤田佑平の言葉だ。
冬季競技では視覚障がいの日本選手が少ないこともあり、「視覚障がいの選手が強くなって、ブラインドがスノースポーツの一角として確立する流れができていければ」と語っており、「パラリンピックで金メダルを獲ることが最終目標」と4年後、8年後の大会を見据えている。
東京大会では先頭でオールを漕いだ photo by X-1世界屈指のスーパーアスリート
オクサナ・マスターズは、現在までに夏冬5回のパラリンピックに出場し、金銀銅合わせて10個のメダルを保持している超人だ。
ウクライナ・フメリニツキーで生まれたマスターズは、生まれたときから腓骨がなく、両脚の長さや手足の指の形が異なり、さらには内臓の一部に障がいがある状態で生まれた。孤児院で育ち、7歳のときに国際養子縁組制度によりアメリカに渡ったが、8歳で左脚を膝の上から切断、その約4年後に右脚も切断した。その頃に進められたボートを始め、高校生で競技者になると、2012年のロンドン大会で銅メダルを手にした。同年冬にクロスカントリースキーを始め、ボートと似た感覚に魅了されていった。
そして1年数ヵ月後には冬のパラリンピックへ。2014年のソチ大会では、クロスカントリースキーで銀メダル1と銅メダル1を獲得。2018年の平昌大会ではクロスカントリースキーとバイアスロンで金メダル2を含む計5個のメダルを手にした。
表彰式で輝くマスターズの笑顔は、実は東京大会でも見られた。クロストレーニングに取り入れていた自転車競技で2個の金メダルを掲げて周囲を驚かせたのだ。
北京大会でもメダルが期待されており、“大会の顔”になりそうだ。
進化が止まらないマスターズの活躍は見逃せない夏冬を制覇したマルチアスリート
平昌大会でクロスカントリースキーとバイアスロンで金メダルを獲得し、華々しいパラリンピックデビューを果たしたケンドール・グレッチ。彼女にとって名誉なことは、メダル獲得だけではなく、バイアスロンでアメリカ初の女性金メダリストになったことでもある。
二分脊椎のグレッチは、生まれてからいくつかの手術を受けたものの、下腿の筋肉の一部は機能せず、脚の筋肉が発達しなかった。そんな彼女が最初に始めた競技は水泳で、高校を卒業した後はいったん競技から離れたものの、大学2年生のときに知人からのすすめでパラトライアスロンクラブに参加するようになった。2014年以降は、パラトライアスロンの国際大会で優勝するなど世界の上位に名を連ねた。
リオパラリンピックを見据えて練習に励んでいたグレッチだったが、同大会では該当するクラスがなく、「パラリンピックに出場するためのスポーツを見つけたい」という理由から、新たな競技を模索することに。そして出会ったのがノルディックスキーだった。2015-16年シーズンに競技を始めた。
さらに東京大会では、種目が増えたトライアスロンで夏のパラリンピック出場も果たし、見事PTWC(座位)クラスの初代女王に輝き、夏冬の女王になった。
前出のオクサナ・マスターズとは時折トレーニングをともにしているが、もちろんライバル同士でもある。北京大会では2人の勝負の行方にも注目したい。
東京大会に続く金メダルを狙うグレッチ(中央)車いすダンスもこなす多彩な金メダリスト
ビルイト・スカシュテインは、東京大会のボート(シングルスカル)でノルウェーにパラリンピック初の金メダルをもたらしたパラアスリートだ。北京大会ではクロスカントリースキーでメダル獲得を目指している。
2008年、東南アジアにいたスカシュテインは、海に潜っていたときの傷が原因で感染症に罹患し、母国に戻って手術を受けた。いったんは日常生活に戻ったが、再手術の際に腰に打った注射により脊髄が傷つけられ、へそのあたりから下がまひしてしまったという。
その翌年、20歳でクロスカントリースキーを始め、2012年にはボートを始めた。冬季パラリンピックは2014年ソチ大会、2018年平昌大会、夏季パラリンピックはリオ大会に出場したが、いずれも表彰台には届かず、金メダルを獲得した東京大会に続き、北京大会にかける思いは強い。
多彩な才能は車いすダンスでも開花し、2020年にはノルウェーのテレビ番組『Skal vi danse?』に車いすダンサーとして初めて登場し、華麗なダンスを披露した。本人は「新しいレベルのクロストレーニング」といい、クロスカントリースキーやボートのトレーニングにも一役買っているようだ。
スカシュテインの笑顔は北京でも見られるか&ノルディックスキー ダニエル・アラビッチ(アメリカ)
TEAM USAのデュアルアスリート
ノルディックスキーのアメリカ代表には、マスターズやグレッチのほかにも二刀流選手がいる。
車いすの陸上選手であり、クロスカントリースキーとバイアスロンの選手でもあるアーロン・パイクは、夏季大会は3大会、冬季大会は2大会出場しているベテラン選手。パラリンピックでのメダルはまだ手にしていないが、バイアスロンでは現在世界ランキング*5位、メダルを狙える位置につけており、ノルウェー・リレハンメルで行われた2021パラスノースポーツ世界選手権ではバイアスロン(ロング)で銀メダルを獲得。このままの勢いを本番まで保てるか。
生まれつき左手の肘から先がないダニエル・アラビッチは、2019年春から本格的にパラ陸上競技を、同年12月にクロスカントリースキーとバイアスロンを始めた。幼いころからサッカー、バスケットボール、ソフトボール、アイススケートなどさまざまなスポーツに親しんできた。東京大会では女子400m(T47)に出場。北京大会は冬季パラリンピックのデビュー戦になる。
*世界ランキングは2022年2月14日時点
パイクはパラリンピックで悲願のメダルなるかアルペンスキー・神山則子
アルペンスキー・森井大輝
ノルディックスキー・佐藤圭一
夏季競技での経験を糧にする日本代表選手たち
トリノ大会(2006年)から5大会連続でアルペンスキーに出場している小池岳太(LW6/8-2)は、平昌大会後、自転車競技に挑戦。東京大会への出場は叶わなかったが、伊豆ベロドロームのある静岡で暮らすなど自転車に明け暮れた。
日本選手団最年長として注目が集まる、49歳の神山則子(LW9-2)は、アルペンスキーの傍ら、水泳と射撃の大会にも出場。健常時代はなぎなたなど武道にも取り組んでいたとか。北京大会がパラリンピック初出場となる。
冬季パラリンピック4大会連続でメダルを獲得しているアルペンスキーの大ベテラン森井大輝(LW11)は、東京大会を見据え2018年にパワーリフターに。その後はアルペンスキーに専念することになったが、「一瞬にかける大変さを知ったし、他の競技にチャレンジしたことで、よりスキーに対しての思いが強くなった」と糧にする。
夏冬パラリンピアンの佐藤圭一(LW8)は、クロスカントリースキー、バイアスロン、トライアスロンの選手。クロスカントリースキーとバイアスロンはバンクーバー大会(2010年)からの連続出場で、トライアスロンはリオ大会に出場し11位の成績を収めている。東京大会はケガの影響もあり、出場権を得られなかったが、昨春には「パラリンピックが連続して同じ年に行われることは、僕にとっても未知数。コロナ禍でしかこんな経験はできないと思うので、自分のチャレンジがどこまでできるか挑戦していきたい」と語っており、ベテランの意地で北京大会にこぎつけた。
リオ大会でトライアスロンに出場した佐藤圭一東京大会が1年延期になったことで、二刀流選手たちが乗り越えてきた苦労は計り知れない。北京パラリンピックでは世界の超人たちの戦いぶりから目が離せない。
text by TEAM A
photo by Getty Images Sport
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