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視覚障がい選手を導くガイドスキーヤーとは? パラノルディックスキー・藤田佑平に聞く!

パラサポWEB / 2022年2月26日 11時1分

東京2020パラリンピックでは視覚障がい者マラソンの「伴走者(ガイドランナー)」に注目した人も多いのでは? 冬のパラリンピックでも、クロスカントリースキーなどの競技で表彰台に上がるとメダルをもらえる「ガイドスキーヤー」がいる。視覚障がいのある選手を先導して滑るガイドの役割とは。平昌2018冬季パラリンピックで高村和人選手のガイドを務め、北京2022冬季パラリンピックにも有安諒平選手とともに出場する日本代表・藤田佑平さんに聞いた。

健常のトップ選手からパラリンピックのガイドへ

学生時代、オリンピック出場を目指すトップ選手だった藤田さん。だが、大学2年のとき、喘息を発症したのをきっかけに夢は遠ざかった。味わったのは大きな挫折感。しかし、2018年、日の丸をつけて雪上を駆け抜ける夢が思わぬ形で実現する。高村の競技アシスタントとして、平昌パラリンピックに出場を果たした。

「大学卒業と同時に選手としては区切りをつけました。でもその約半年後、『高村和人を平昌パラリンピックに連れて行ってくれないか』という打診があり、ガイド兼コーチに就任しました。自分の叶えられなかった夢を託すつもりで、オリンピックに行ける選手を育成できたらなと、大学院でコーチングの勉強をしている時期でした」

photo by Hiroaki Yoda

ガイドのキャリアをスタートさせたのは2015年9月。正式に就任する前には、パラノルディック日本チームのニュージーランド合宿でガイドの手伝いもした。

「お手伝いの話をいただいたとき、真っ先にしたのが、自分も現役復帰することでした。ガイドをできるだけの体力を戻さなきゃ! と。走りながら選手に指示を出す役目なので、体力がなければ始まらないからです。その後、コーチとしてもどんなスキルが必要なのかを考え始めました。たとえば高村選手は全盲だったので、僕がいいフォームをつくり、体を触ってもらう。そのうえで、今度は僕が選手の体に触ってフォームをつくり、『このフォームでは、ここの筋肉を使いましょう』などと一つひとつ説明していくという方法をとりました」

奥深いガイドスキーヤーという役割

実際に藤田さんは滑走中にどんなガイドをしているのだろうか。

視覚障がいの選手はガイドの声や音を頼りにコースを滑ります。「はーい」「右」「左」とか「上ります」「下ります」などの言葉が中心になります。

コースはアップダウンがあり、天候や気温によって雪の状態も変わる。バランスを保つのが難しい視覚障がい選手に、フォームの修正はもちろんのこと、走法変更の指示をすることもある。

コース上に凸凹があり、バランスを崩しそうと思える場所があれば、僕は「Wポール!」と声をかけます。左右のポールを同時に突き、後方に強く押して滑るのが「Wポーリング走法」。クロスカントリースキーは、基本的に足を交互に浮かせて滑りますが、Wポーリングでは、両足が雪面に設置するので、バランスがとりやすく確実に滑れるんです。世界のトップ選手は、この走法がうまいですね。

Wポーリング走法で滑る有安選手(写真は2021年の全日本障害者クロスカントリースキー競技大会)photo by X-1

クロスカントリースキーには、あらかじめコースにつけられた2本のレールに沿って滑る「クラシカル種目」と、アイススケートのように足をハの字にして滑る「フリー種目」がある。ガイドはどちらが難しい?

視覚障がいのある選手にとって、より難しいのは「クラシカル」。レールの幅はだいたい10㎝くらいなので、レールに入り続けることが難しいんです。目からの情報がない、もしくは少ないので、急カーブでうまく板がわだちにはまらないとバーンと弾かれてしまう。当然、ガイドも難しいです。

ひとくちに視覚障がいといっても、全盲の選手もいれば弱視の選手もいる。声がけの内容にも違いは……?

北京パラリンピックに出場する有安選手は弱視です。見え方の特性として、視野の中心は欠けているけれど周りは少し見えます。視覚情報がある分、有安選手は、少しのカーブを曲がるときに、他の選手が滑ったシュプール(足跡)やカッター(溝)にはじかれてしまうことがあるので、曲がるときには「3、2、1、いま」という合図をしています。

実はこの合図、全盲の高村さんのガイド時代には使っていませんでした。最初は、全盲の選手の方がたくさん声がけするものだと思っていましたが、弱視選手のほうが見える分、ガイドすることが難しい……。弱視の選手の方が全盲の選手よりもスピードがあってガイドもキツいというのもありますし、「弱視だからここは何も言わなくてもいいかな」と思ってしまうことがあるんです。ガイドとして課題としている部分でもあります。

2人は陸上トレーニングやオンライントレーニングも共にし、コンビネーションを高めてきたphoto by Hiroaki Yoda

下り坂は転倒の恐れもある。どんな声がけをしているのか?

恐怖心をなくすために「いまから下るよ」とか、「この先、大きい木があるから、ここだけは絶対に転ばないでね」とか、安心して滑るための情報を伝えます。クロスカントリースキーは、速いときで時速60kmくらいスピードが出る。選手はそれを目が見えないなかで滑るのだから、恐怖心も大きいはずです。

さらに視覚障がいクラスでは、安全確保のため、下りなど定められたエリアにおいて「ホールディング」という動作が認められる。

僕のストックを選手に差し出して導く技術です。一人で下ると危ない箇所などで使います。命綱のようなものですね。

高村選手にストックを差し出す藤田ガイド(写真は平昌パラリンピック)photo by X-1

ガイドとして気をつけていること、信頼関係を築くためにしていることとは?

当たり前のことですが、「ちゃんと話すこと」が大事ですよね。この人ってこういうこと考えている人なんだなとお互いしっかり理解し、日ごろから話し合ってコミュニケーションをとるという過程を経ていく中で、信頼関係というのは生まれてくるのだと思います。

たとえば、僕が「20m先右曲がります」と言ったとしても、ガイドされる選手は、「いや、15mくらいなんじゃないの」と思うことがあるかもしれません。でも、互いの20mの感覚はこれくらいだろうという認識が信頼関係のひとつなのかなと思います。

高いレベルでの競技力が欠かせないガイドスキーヤー。走力やスキー技術はもちろんのこと、勝敗を決める的確な判断力が求められることもある……。

最近は、個人でも積極的にレースに出場するなどしています。自分のモチベーションを高める目的もありますが、ガイドとしてレース勘を養うためです。世界を見ればオリンピアンのガイドもいます。そんな世界で戦えることが楽しいです。

北京パラリンピックはここに注目!

最後に、来たる北京パラリンピックの注目種目を教えてもらった。

「短距離種目のスプリントは、パラリンピックならではの面白さがある種目です。最多で6人が出走するんですが、視覚障がいの選手は4人で競います。実際は、ガイドもいるので合計8人で走る。スピード感あるなかでのわちゃわちゃしたせめぎ合いは健常者レースでは絶対に見られません。北京パラリンピックではぜひ注目してもらいたいですね。また、スキーは基本的に個人競技ですが、視覚障がいクラスだけは2人で走る。その連携はおもしろいので、ぜひ注目してください!」


■教えてくれた人 藤田佑平(ふじた・ゆうへい)

北海道旭川市出身。4歳でスキーを始め、小6のときから競技に参戦。中学、高校時代にクロスカントリースキーの全国大会で優勝するなどトップシーンで活躍。早稲田大学卒業後、同大学院スポーツ科学研究科でコーチングを学び、現在は日本障害者スキー連盟のコーチ兼日本代表ガイド、普及委員を務めている。体育会人材の就職支援を手がける株式会社スポーツフィールドのデュアルキャリア社員。

photo by Hiroaki Yoda

text by TEAM A

key visual by X-1

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