元高校球児、森宏明が日本のシットスキーに再び火を灯す
パラサポWEB / 2022年3月10日 19時7分
パラリンピック初出場の森宏明が、3月9日、北京大会の初レースに臨んだ。
出場したのは、座って滑るクラスの男子900mスプリント座位。クロスカントリー種目の短距離戦だ。
予選は一人ずつスタートし、障がいの程度により「係数」を実走タイムにかけた「計算タイム」で順位が決まる。上位12人が進む準決勝からは6人1組で滑り、順位を競う。スタートは障がいの程度によりタイム差がつけられるが、その差が縮まってくると、ときには選手同士ぶつかり合う激しい展開となる。
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2017年11月にシットスキーでクロスカントリースキーを始めた森は、当初からこの種目に相性のよさを感じていたらしい。
「僕はスプリントに筋肉の特性があるみたい。クロカンを始めたばかりの頃から自分に向いていると感じていました」
今日からパラリンピアンとして森はレース前、「まずセミファイナルに進んで、その後、ファイナリストになるのが目標」と意気込んでいた。
しかし、世界の壁は厚く、予選のレースを31位で終えた。それでも森は、パラリンピアンになれた喜びをかみしめていた。
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「自分の見せ場はスタートダッシュだと思ったので、どんな結果になろうとも、思いきり元気よく、飛び出していきました。結果はついてきませんでしたが、この場に立つことができすごく幸せです」
事故後、スポーツへの思いが前を向く力に現在25歳の森は、高校時代は野球部に所属し、エースで4番、主将も務めていた。だが、高校2年生だった2013年8月、自動車事故に巻き込まれ、両足の膝から10センチ下を失った。
野球選手としての夢は絶たれた。しかし森は退院後、義足をつけて野球部に復帰するなど、前向きな姿勢を失わなかった。そしてリハビリと並行しながら、次々とパラスポーツに挑戦。一時は車いすソフトボールの日本代表にもなった。
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もともと、自他ともに認める「スポーツ好き」の森。選択肢はいくつかあったが、最終的に選んだのはクロスカントリースキーだった。2017年夏、ノルディックスキー日本代表の荒井秀樹チームリーダーに声をかけられ、その年の11月の合宿に参加。素質もあったのだろう。初めてシットスキーと出会った10日後には、カナダでのワールドカップに出場していた。
そのときの結果は36位に終わったが、この大会をきっかけに森はクロスカントリースキーにのめりこんでいく。しかし、どうすれば速くなるか、自分で試行錯誤しなければならなかった。森がこの競技を本格的に始めたとき、日本国内にはシットスキーの男子の競技者がいなかったのだ。
「(2014年ソチ大会銅メダルの)久保恒造さんもすでに伝説の人という感じで、なかなかお会いする機会がありませんでした。唯一いた方も、僕が始めたときにちょうどいなくなり、僕は練習方法も分からないというところからのスタートだったんです」
ワールドカップで初の予選突破森は、2時間も走り続けるような基礎練習を繰り返し、シットスキーに体重をどう乗せれば走るか、必要な筋力は何か、ペース配分をどうすればいいか、研究を重ねた。
ことスキー技術に関しては、日本代表チームのコーチであり、視覚障がい者クラスの有安諒平のガイドも務める藤田佑平が大きな力になってくれたという。両手に持ったポールを同時に突いて、大きく前進する「Wポーリング走法」をみっちりと仕込んでくれた。
「シットにおいては、とても大切な走法。この基本動作を早い段階で習得できたことが短期間の成長につながりました」
徐々に力をつけていった森は、2021年12月のワールドカップで初めて予選を突破。セミファイナルに進出した(最終順位は12位)。この経験で自信をつけ、北京大会でも決勝進出を目標にしていた。
まだまだ成長し続ける25歳![](https://parasapo-wp-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2022/03/10120645/aflo_182820078.jpg)
レース後、パラリンピックに出場できたことを喜んだ一方で、その内容については「コースが予想以上につらく、スキー操作がうまくいかなかった」と悔やむ場面もあった。いつも快活そのものの森が、珍しく言葉を濁らせた場面だ。
イチから練習を積み上げ、技術を磨いてきた自負があったからこそ、悔しさを隠しきれなかったのだろう。
目標には届かなかったが、このレースは、森がパラリンピアンとして歩み始める、記念すべき第一歩。森が前を向く姿は、日本のシットスキーが再び強くなる予感を漂わせた。
text by TEAM A
photo by AFLO SPORT
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