世界のトップ選手が次世代選手を直接指導! ~第1回車いすテニススペシャルクリニックレポート~
パラサポWEB / 2022年4月5日 16時50分
2月23日、東京・立川ルーデンステニスクラブインドアコートにて、「第1回車いすテニススペシャルクリニックByプロ車いすテニス選手実行委員会」が開催された。
講師陣は、声かけ役となった眞田卓をはじめ、国枝慎吾、上地結衣、齋田悟司、荒井大輔と、日本が世界に誇る車いすテニス界のトップオブトップたち。さらに、ホルスト・ギュンツェル氏をはじめ一流のトレーナー、コーチ陣も加わり、全国から集まった12歳から22歳の次世代を担う若手選手14名を指導。フィットネストレーニング、テニスレッスン、そしてプロ選手5名全員と打ち合いができるプロヒッティングを行い、楽しみつつも熱気あふれる3時間となった。
トップ選手たち主導でクリニックを開催今回のイベントの最大の特徴は、選手主導での開催という点だろう。何年も前から企画を温めてきたという眞田が、企画の意図を明かす。
「僕の原点の一つとなっているのが、TTC(吉田記念テニス研修センター)でかつて行われていた車いすテニスキャンプです。様々な年齢やレベルのプレーヤーが集まって、プロ選手から指導を受けるというものでしたが、たくさん刺激をもらいましたし、とにかく楽しくて、車いすテニスが大好きになりました。プロアスリートとしては、競技活動で成績を残すことが第一ではありますが、同時に社会貢献もするべきだと思っています。その意味でも、かつての僕が経験した環境をつくって次の世代に伝えていくことも大切と思い、企画させていただきました」
声かけ役の眞田卓眞田が真っ先に声をかけたのが、齋田や国枝だったという。
「眞田選手との付き合いは長くて、もう何年も前から相談を受けていて、ぜひやりたいねって話していたんです」(齋田)
「こういった機会をきっかけに車いすテニスの楽しさに目覚めた結果、ここまで来たという眞田選手の経験談は、やはり強いなと思います。僕自身もこういう次世代向けのイベントをしたいとずっと思っていたので、賛同しました」(国枝)
楽しそうな表情で参加者に目を向ける国枝慎吾上地や荒井も、眞田から声をかけられて、すぐに参加を決めたという。
「私が車いすテニスを始めたころは、同世代の選手が周りにいませんでしたし、トップのプロ選手に教えていただく機会もなかなかなかったので、眞田選手から話を聞いて、すごくいい企画だと思いました。私自身、まだまだ学びたいという気持ちが強く、どちらかというと生徒側に回りたい方ですし、世界のトップの選手たちの中に入って何ができるだろうとも思いましたが、私にできることがあるならば、という気持ちで参加させていただきました」(上地)
「このメンバーの中に入れていただけて光栄です。ジュニア世代の育成や普及は、車いすテニス界全体を盛り上げることにつながりますし、プロ選手にとっても刺激になる、すばらしい機会だと思います」(荒井)
多様なアドバイスが成長のヒントに今回のイベントを通じ、それぞれ感じたこともあったようだ。例えば、上地は女子というカテゴリーの魅力について考えさせられたという。
女子選手にアドバイスする上地結衣「このメンバーの中に入ることで、改めて女子と男子のパワーやスピードの違いを感じました。ただ、女子というカテゴリーがある以上、やはり女子の車いすテニスも面白いって思っていただきたいですし、男子選手にも、女子選手はこんなところがすごいって認めていただけるようになりたいという思いもあります。そのために私には何ができるだろうと思いながら、クリニックではアドバイスさせていただきました」(上地)
その一端が垣間見られたシーンがあった。車いすテニスでは、他の車いす競技同様、車いすを扱うチェアワークを磨くことが大切で、今回のクリニックでも、随所でチェアワークに言及するアドバイスが聞かれた。
荒井大輔は「みんなのラリーがうまくなっていって刺激になりました」「ボールに追いつけないとテニスができないから、まずはチェアワーク。正確にボールの位置に入れるように」(荒井)
「ボールに対して、車いすの角度をどう変えるか。どんな角度で入ると成功率が高くなるのかを知ることが大切。それがわかるとチェアワークもさぼらなくなる」(国枝)
もちろん上地も、
「自分の100%を出せる位置を見つけて車いすを操作して」(上地)
と、チェアワークの大切さを語っている。しかし、同時にこんなアドバイスもしていた。
「チェアワークが大事といわれるけれど、相手が思い通りに打ち返せないように自分が精度の高いボールを打てれば、自分は動かなくてよくなる。(そのために)私は(ボールの)速さや強さではなく、自分が狙ったエリアに打てるように意識しています」(上地)
こうしたプロ選手たちの多様なアドバイスを踏まえ、齋田はこう語った。
「子どもたちは、それぞれ悩みやステップアップしたい部分をしっかり持っていました。それに対しての答えは一つじゃない。自分はこう思いますよということは伝えましたが、どの意見を取り入れるかは本人次第。一つの意見として聞いてもらえればうれしい」
ラケットの振り方を実演する齋田悟司キャリアも性別も異なる講師陣がそろった今回のクリニックは、世界トップ選手の技術を体感できる貴重な機会であったことはもちろん、多様な考え方に触れられる点にも大きな魅力があったのは間違いない。
トップ選手たちの熱き思いさらに、プロ選手たちは普及や育成への思いも強くしたようだ。
参加者たちは終始トップ選手たちとの時間を楽しんだ「車いすテニスは障がい者だけのものではない。ちょっとひざや腰を痛めたという健常者も、車いすに乗ればテニスを楽しめると知ってほしいです。また、テニスと一口に言っても、ソフトテニスや、義足や装具を着けて行う立位テニス、(視覚障がいがある人のための)ブラインドテニスなどいろいろな種類があります。もっと多くの人がいろいろな形でテニスを楽しめることを知ってほしいので、そのための活動や情報発信にも力を入れていけたら」(荒井)
「以前に比べると、車いすテニスの認知度は上がってきていますが、入り口はまだ広くない。たくさんの人たちが車いすテニスを楽しめるよう、講習会を全国で定期的にやっていきたい」(齋田)
「ゆくゆくは、アジア全体の女子選手のプレー環境を整えて、アジア全体で強くなっていきたい。私自身、海外でいろいろなところに行ったり、世界の選手たちと交流したりすることも楽しみの一つになっているので、交換留学をサポートできたら。そのためにも、いまは海外の選手たちとつながりを築くことに力を入れたい」(上地)
目を輝かせてボールを追いかける参加者「何か伝えられたらと思って、全力でプレーしました。今回のイベントをきっかけに、眞田選手のような思いを持った選手が出てきてくれたらうれしいですね」(国枝)
今回はコロナ禍もあり、参加者の数を絞っての開催となったが、今後はもっと多くの若手選手に参加してもらいたいと、眞田も意気込む。
「若手選手たちにはうまくなってもらいたいということもありますが、やはり一番は、車いすテニスを好きでいてほしいし、ずっと続けてほしいと願っています。プロ選手たちのスケジュールをあわせるのが一番難しかったのですが、今後も機会を見つけて開催していきたいです」(眞田)
より多くの人たちにスポーツを楽しむきっかけをつくると同時に、世界を舞台に活躍する選手を輩出し続けるためにも、今後もプロ車いすテニス選手たちの活動に期待したい。
笹島 湧希(19歳、富山)
世界No.1を目指して、練習に励んでいる。国枝選手から「バックハンドは自分よりうまい」と言っていただき、ものすごくうれしかった。課題のフォアハンドについて指摘をいただいたことも刺激になった。国枝選手は、いつか越えなければいけない相手。今日教えていただいたことを今後に生かすためにも、地元に帰ってしっかり練習したい。
松岡 星空(12歳、愛知)小1から車いすテニスを始めて、6年目。以前、レッスンを受けたことがある斎田選手に「前よりうまくなっている」といわれてうれしかった。目標は上地選手。(上地選手の)ボールが安定していてすごいなと思った。(上地選手から)「フォアはいいボールが飛んでいる」と言われてうれしかった。(上地選手のように)パラリンピックに出たいし、4大大会で優勝したい。
参加者全員で記念写真text by TEAM A
photo by Haruo Wanibe
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