公務員パラリンピアン、5大会連続出場の出来島桃子が見せた「やりきった」笑顔
パラサポWEB / 2022年3月18日 13時26分
北京冬季パラリンピックで目標には届かなかったものの、大きな足跡を残した選手も少なくない。5大会連続出場を果たした47歳の大ベテラン、出来島桃子もその一人だ。
新潟県の新発田市役所に務めながら競技生活を送る出来島は、大会直前、パラリンピックに挑戦した日々を「1年1年やってきて、その積み上げが5回続いた感じ」と振り返っていた。
5種目に出場した今大会は、その集大成の場でもあった。
バイアスロンなら海外の強豪相手にも出来島がクロスカントリースキーを始めたのは1999年3月。20歳のときに受けた悪性腫瘍の切除手術の影響で、右腕が動かなくなった出来島は、地元の新聞が募集していた障がい者向けのスキー体験イベントに参加した。すると3年後には、ワールドカップに初出場。2006年にはトリノ大会でパラリンピック初出場を果たした。バイアスロンを始めたのはその翌年、2007年のことだ。
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バイアスロンはクロスカントリースキーのフリー走法と射撃を組み合わせた競技だ。持久力と集中力が同時に求められるため、タフでなければ勝つことはできない。パラリンピックでは、距離別にショート、ミドル、ロングの3種目が実施される。
出来島は、バイアスロンへの適性があった。クロスカントリーの走力では海外の強豪選手に劣るものの、射撃でそれを巻き返すだけの実力があった。
運命を変えたソチ大会の“事件”2014年のソチ大会は、出来島がメダルに最接近した大会だ。当時39歳だった出来島は、得意のロング(12.5km)で終盤までトップに立っていた。しかし、運営側のミスでほかの選手が誤ったコースを滑っていたことが判明し、出来島は距離を合わせるため、最後の1周で男子用のコースを滑らされて7位に沈んだ。レース後、日本代表選手団は国際パラリンピック委員会(IPC)に抗議するも却下された。
2006年トリノ大会の同種目で銅メダルを獲得し、ソチ大会にも出場していた太田渉子は、大会中、出来島と同じ部屋で過ごしていた。その部屋に、優勝したウクライナのオレクサンドラ・コノノバが訪ねてきたときのことを、太田はこう語っていた。
「“あなたが真のチャンピオンだよ”という雰囲気でフラワーセレモニーの花束を持ってきてくれたんです。みんな判定には不服な様子でした」
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ゴール直後に選手が倒れ込むことも珍しくない過酷なこの競技では、選手同士が互いにライバルであり、仲間でもある。つらい出来事の中にも温かさはあった。だが、出来島の心が晴れることはなかった。一連の出来事は、その後の彼女が歩む道にも大きな影響を与えた。
呼吸1つ分タイムを縮めるためにソチ大会後、引退する予定だった出来島は、「もやもやした気持ちが残った」と競技続行を決意した。2種目で入賞した2018年の平昌大会のあとも競技者でいることにこだわり、北京大会に向けてもさまざまな改良を試みた。
たとえば射撃では、2年前まで1発と1発の間に2呼吸置いていたが、1呼吸に変更。心拍数が十分に下がらなければ、それだけ的を外し、ペナルティループを走らされるリスクは高まる。そこで出来島は、ある程度高い心拍数でもリズムよく正確に打てるよう練習し、タイムを縮める方法を模索した。また高所に順応するため、低酸素テントを購入して自宅で利用。コロナ禍で公共施設を使えなくなった期間も、決してランニングや体幹トレーニングを欠かさなかった。
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2019年から出来島を指導している小舘操ヘッドコーチは、出来島が長年続けてきた鍛錬について、「自己管理能力が高い選手だからできること」と評価する。
「アスリート雇用の選手に比べると、(市役所勤務の出来島は)確かにトレーニング時間は少ない。しかし、時間を見つけて継続的に練習する力がある。しっかりと体も自己管理ができるから、(47歳という)年齢でも継続的に練習できる」
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ミドル(10km)では10位と惜しくも入賞に届かなかったが、20発中17発を当て、「射撃はよくなっている。最後まで集中して頑張りたい」と、今大会の出来島は終始、前向きな姿勢を貫いていた。
バイアスロン3種目を終えたあとも、「射撃も滑りも練習の成果を出せた。12月と1月の大会に比べると命中率も上がり、今できることは出せた」と笑顔。北京大会前には、「“やりきった”という、悔いのないレースがしたい」と強調していたが、その笑顔は、それができた証かもしれない。
前へ突き進もうとする気持ちに年齢は関係ない。ベテランの奮闘に、若手選手たちも大きな刺激を受けたに違いない。個人種目では目標の入賞には届かなかったが、出来島は後輩たちに多くを残し、自身も次の目標へと向かう。
text by TEAM A
photo by AFLO SPORT
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