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子供の脳の力を目覚めさせる科学的運動メソッド

パラサポWEB / 2022年4月8日 16時51分

近年、脳科学の分野の研究は目覚ましい発展を遂げており、人間の脳のさらなる可能性が明らかになってきている。その中でも子どもを持つ親が気になるのが、脳と運動の関係性。体を動かすことが脳にいい影響を与えることがわかってきたのだ。そんな脳と体の関係にいち早く注目し、子どもからトップアスリートまで幅広い競技者の指導やサポートを行っているのが複合型スポーツ施設「MTX ACADEMY」。同施設のチーフトレーナーである木村匡宏さんに、子どもの脳のチカラを目覚めさせる運動についてお話を伺った。

運動は「自分で思い描いたことを実現する力」を養う
コロナ禍のためオンラインで取材を受けてくださった、「IWA ACADEMY」の木村匡宏チーフトレーナー。

今回、お話を伺った木村匡宏さんは、プロスポーツ選手にもサポートを依頼される優秀なトレーナーだ。そんな彼の著書『1日5分で運動能力と集中力が劇的アップ 5歳からの最新!キッズ・トレーニング』は、「科学的な運動メソッドで子どもの脳のチカラを目覚めさせる」として脳科学者からも評価を得ている。では「子どもの脳のチカラを目覚めさせる運動メソッド」とは、どのようなものなのだろうか?

「運動にはいろいろな捉え方がありますが、僕がここで言う運動とはスポーツだけではなく、たとえば床を雑巾で拭くといった日常的な動きも含め、体を動かすこと全般を運動と捉えています。また脳のチカラを目覚めさせるというのも、単に学校の勉強ができるようにするという意味ではありません」(木村さん)

2012年から、文部科学省で「高大接続改革」に関する議論・検討が始まった。高大接続改革では、社会構造が急速かつ大きく変革する現代社会において、新たな価値を創造していく力を育てることを目的としている。そのために、高校教育、大学教育、さらにこのふたつを繋ぐ入学者選抜を通して「学力の三要素」を育成することを重要視している。高大接続改革における「学力の三要素」は、2014年の中央教育審議会の答申で以下のように示されている。

1)知識・技能

2)思考力・判断力・表現力

3)主体性・多様性・協働性

「僕が学生の頃は、学校の試験でいい成績を取れる子が頭がいいと言われていました。ですから大学受験はペーパーテストがメインでしたね。でも近年では国立大学の定員の半分はAO入試にしようという流れになっています。つまりこれからの大学受験では、単なる学力テストだけではなく、書類と面接によってその学生の個性が問われるということです。このように『頭がいい』の定義も、時代とともに変わっていくんです。そうした中で僕が運動によって子どもの脳のチカラを目覚めさせるというテーマで本を書こうとした時に、いろいろ調べてしっくり来たのは『能力』の「能」という字の持つ『自分で思い描いたことを実現する力』という意味でした」(木村さん)

この「能」の意味はまさに木村さんが考える、能力と運動の関係そのものだったという。つまり運動をすることによって、子どもたちが思い描いたそれぞれの未来を実現するための力を身につけるということ。この力とは肉体的な能力はもちろん、「学力の三要素」の中の思考力や判断力、表現力や主体性も含まれる。木村さんは運動を通して、今の時代にあった「頭の良さ」を子どもたちに身につけさせようとしているのだ。

なぜ運動をすると頭が良くなるのか?

昔のドラマや漫画などの登場人物には「頭がよいけれど運動が苦手」、あるいは「運動は得意だけれど勉強は苦手」といったステレオタイプのキャラクターがいた。以前は運動と頭の良さは対極にあるもので、関連性があるとは考えられていなかったからだ。しかし、研究が進んだ今は違う。

「ある脳科学者が『我々は首から下を忘れていた』という意味のことを言っています。人間の脳が他の動物に比べて複雑で大きくなったのはなぜなのかというと、それは体を動かすためだと言うんですね。要は体を動かすことによって脳は発達してきたということです」(木村さん)

つまり、脳が先にあったのではなく、体のために脳が発達したということだ。実際、最近の脳科学の分野では脳を知るために体の動きを調べるといった研究も行われているという。

「記憶力には脳の海馬という部分が深く関わっていますが、有酸素運動をして適度に心拍数が上がると海馬の血流がよくなって、記憶力が上がるという研究データがあるそうです」(木村さん)

脳の力を目覚めさせるにはどんな運動が効果的?

 

では、具体的に脳にいい運動とはどんなものなのだろうか? 脳の力を目覚めさせるというくらいだから、さぞや高度な運動なのだろうと思って木村さんの著書を見ると、その意外なまでに単純な動きに驚かされる。著書では最初に9つのパーツ体操を推奨しているのだが、そのいくつかを具体的に紹介しよう。

パーツ01 手:手ワーク

「手をグーで握ってパーで開く」を4~5回くり返す。その後は手を開いた状態から指を1本ずつ閉じていき、全部閉じたら今度は1本ずつ開いていく。

たったこれだけだ。道具も広い場所も必要ないので今すぐこの記事を読みながらできそうだ。

パーツ02 肘:肘ゆすり

足は肩幅くらいに広げて立つ。肘から下を動かすようにしてゆする。

このように一見すると拍子抜けするほど単純な動きばかりだが、ひとつひとつの動きにはそれぞれ意味がある。例えば、手をパーにすると、身体全体の伸筋にスイッチが入るそうだ。伸筋とは、よい姿勢を作る時や関節を伸ばす時に働く筋肉なので、どんな運動をするにしても重要な動きになる。また、手と脳は密接に繋がっていて、何かを感じ取る力をつけるためにも、手の運動は欠かせない。この意味を知った上で体を動かすと、体の関節やパーツのそれぞれの特徴を理解し、体を正しく使えるようになるのだ。

子どもの“脳”の力を伸ばすために家庭でできること

木村さんは幼児教育を本格的に学ぶために、2017年、世界的にも注目されている「ペリー幼児教育」を実施しているハイスコープ教育財団を訪れ、研修を受けた。この時に目にしたある言葉に木村さんは感銘を受けたと言う。

「ハイスコープ教育財団の研修プログラムの最初に書いてあった『すべての子どもが能力のある探求者である』という言葉を見たときに、あーなるほど、と思ったんです。運動が得意とか苦手という個体差はありますが、子どもは基本的には体を動かすことが好きなんです。だから、まず大切なのは子どもがそもそも持っている自然な動きを大事にするということです」(木村さん)

木村さんは自身の娘さんがようやく座れるようになった小さい頃、座り込んで引き出しを開けて中のものを出し入れしたり、ボックスティッシュの中身を夢中になって出したりしているのを、あえて止めずに見守っていたという。

「大人からしたら危ないとか、ティッシュがもったいないとか、ちらかるとか思いますが、子どもはその動きに夢中になって集中している。スポーツの世界などで言うゾーンに入った状態になっているわけです。その状態を止めずに見守ることで、集中力が身につくと思ったんです。その影響かどうかはわかりませんが、10歳になる娘は今、教えたわけでもないのにルービックキューブをあっという間に揃えることができるようになりました。YouTubeなどの動画を集中して見て、独学で覚えたようです」(木村さん)

こうした木村さんの娘さんのようなケースとは反対に「うちの子は飽きっぽい、集中力がない」という相談を受けるという。しかし、これに関しても木村さんはちょっと違う見方をしている。それは子どもが飽きっぽいのではなくて、注意力の切り替えのスピードがすごく速いため、子どもたちの切り替えのスピードに親がついていけていないだけだと言うのだ。飽きっぽいと悲観したり、子どもの動きを止めたりするのではなく、子どもの気が済むまで見守ることが大事なのだそうだ。

子どもにいかに多くの機会を与えられるか

木村さんは福島県で生まれ、幼少期は遊びの中で体の使い方を自然に学習した。

「たとえばでこぼこ道を歩いたり、田んぼでオタマジャクシを捕まえたり、木に登ったり。日常生活や遊びの中で、自然に体にいろいろな刺激を受ける環境で育ったんですね。そうした肉体的な刺激を受けることで、人間の感覚というのは慣らされていくんです。たとえば、みんなでラグビーをしたとします。中にはタックルを痛いとか恐いと思う子どもがいる一方で、タックルが気持ちいいとか楽しいと思う子どもがいる。その違いは何かというと、体のセンサーの違いです。痛いと思う子は敏感なセンサーを持っている。楽しいと思う子のセンサーは鈍感なんです。どちらが良い悪いではなくて、敏感な子には繊細な関わり方をして、徐々に体を刺激していって慣らしていく。反対に鈍感な子は繊細な子と一緒に運動をしていくうちに、繊細な子の気持ちや力加減が分かるようになる。そうやって、その子にあった刺激を、しかもできるだけ多くの種類の刺激を受けることが重要です。僕が指導している子どもの中にも、最初はコートの隅っこでモジモジしていたのに、10ヶ月後には集団の中でリーダー格になっていたなんてケースもあります」(木村さん)

そうでなくても自然に触れ身体的刺激を受ける機会が少ない現代の子どもたちは、コロナ禍でますますその機会を失っている。脳が最も発達するといわれる幼少期、いかに体を動かし、感覚的刺激を受ける機会を多く与えられるかを考えることは大人の使命ともいえる。とはいえ難しく考えることはない。たとえば木村さんの著書にある、トレーニングのワークシートをコピーして子どもの目に見えるところに貼って、「今日はこれだけできた!」「明日はこれだけやってみよう」と、ゲーム感覚でまずは体を動かす習慣を作ってみる。これなら、親子ですぐにでも始められそうだ。


木村さんの著書では、体を動かすことで脳を刺激して頭がよくなる、まさに一石二鳥の効率的な運動が紹介されている。これを全てまんべんなく実践できれば、脳のチカラを目覚めさせることができるのだろうが、無理に全部をやらせる必要はないとのこと。基本的に子ども時代というのは、体を動かすことが心地よいこと、快感につながりやすいものなのだそうだ。自分の体を使って何か出来た、目標を達成したということは、喜びにつながり、自己肯定感を養うことにも繋がるので、まずはその子の個性にあったペースで運動を習慣化してみてはどうだろう。

PROFILE 木村匡宏

MTX ACADEMY チーフトレーナー。小学生の時に空手(中学時に東北大会優勝、全国大会ベスト8)、中学から野球をはじめ高校卒業後、慶應義塾大学へ進学。体育会野球部へ入部。金融機関勤務を経て、上達屋パフォーマンスコーディネーターとして3万人以上をサポート。2016年3月IWA ACADEMY(のちのMTX ACADEMY)チーフディレクター就任。主にプラクティスフィールド担当として子どもからメジャーリーガーまでをサポート。『1日5分で運動能力と集中力が劇的アップ 5歳からの最新!キッズ・トレーニング』『速効! 5分で伸びる! 子どもの走り方トレーニング』『実はスゴイ四股 - いつまでも自力で歩ける体をつくる』など多数の著書がある。

<参考図書>『5歳からの最新! キッズ・トレーニング』

木村匡宏/KADOKAWA

子どもの発達研究所や弘前大学医学部と連携し、子どもの運動機会や能力を伸ばすIWAアカデミーの指導のもと「ゴールデンエイジ」とされる10歳前後を含む未就学児~小学生の子どもにむけて、家で簡単にできる&絶対に運動能力が伸びるコツと効果的で簡単なトレーニングを紹介。

脳を適度に刺激して集中力(学力)を上げることにも役立つ、科学的研究にもとづいたキッズのためのトレーニングが盛りだくさんの1冊。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)

写真提供:『5歳からの最新! キッズ・トレーニング』(木村匡宏/KADOKAWA)

photo by Shutterstock

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