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着物姿が美しく見えるのは、日本人の体型に理由があった

PHPオンライン衆知 / 2023年10月23日 11時50分

着物を着た女性

昔に比べてめっきり着る機会が少なくなってしまった着物。着付けが難しいという印象もあって敬遠されがちですが、実際に着物を着ている人を側で見ると、その立ち居振る舞いの上品さにはっとしたことがある方も多いと思います。なぜ着物を着ている人は美しく見えるのでしょうか?

神社・お酒・歌舞伎・相撲など日本文化の様々なルーツがあるとされる山陰地方(鳥取・島根)で呉服店「和想館」を経営。「君よ知るや着物の国」(幻冬舎刊)著者で、着物と日本文化の専門家、池田訓之氏が解説します。

 

着物は日本人の体型に合うように作られている

「着物を着て久しぶりに友人に会うと、雰囲気や動きが洋服の時と別人のようだと驚かれる」、呉服店にいらっしゃったお客様からそういった話をこれまでに何度も聞いたことがあります。これはたまたまではなく、着物には着るだけでその人を美しく上品に見せる不思議な力があるのです。

まず第一に、着物は日本人の骨格や体型に合うように作られています。どこの国にも民族衣装というものがありますが、日本人にとっての民族衣装は着物です。ですから着物を着た日本人が美しく見えるのは当然といえば当然かもしれません。

具体的に説明すると、日本人の多くは肩幅、ウエスト、ヒップがまっすぐな長方形型(寸胴体型)の体型に当てはまります。

着物は「直線裁ち」といって、長さ約12mの反物を袖、胴体、衿と衽に順に長方形に裁断していき、つなぎ合わせて筒状の形に作り上げるため、日本人のような長方形型の体型だときれいにはまり、着物姿がきまって見えるのです。時代とともに日本人の体型も少しずつ変わってきていますが、それでも多くの方が着物と相性のよい長方形型になると思います。

私はロンドンでもお店を開いた経験があり、欧米の方にも着物を販売してきましたが、欧米の方と日本人は明らかに骨格が違います。

欧米の方は胸板が厚く、腰も張っていて、通常の着物の反物では巾が足りない方もいらっしゃいました。そんな凹凸のはっきりした方をくびれ型とか逆三角形型というので、日本人でそこまでくびれの差が激しい方はまずいらっしゃいません。

また年齢とともにくびれが目立たなくなり、より長方形型になっていくのは、誰にでも訪れる自然な変化。着物は年輪を重ねた姿を美しさへと引き立ててくれます。年を重ねるごとに着物姿がますます輝いて見えるという例も少なくありません。

もしこれまでに一度も着物を着たことがなく、「自分は着物が似合わない」と思っている方がいたら、騙されたと思って一度着物を試着してみてください。想像以上の我が身の美しさに思わず笑顔になってしまうと思います。私はこれまでにそのような場面を何度も見てきました。

 

動きが制限されることで所作が美しく見える

着物をきた時の美しい所作

着物は決して動きにくいということではありませんが、洋服に比べると可動域がやや狭く、それが所作を美しく見せているという面もあるかと思います。

例えば着物の裾は袷(あわせ)になっているため、大股で歩くと着物の隙間から足が見えてしまいます。そのため、足が見えないように歩幅を小さく歩くように自然と意識が働きます。着物だと履物は下駄や草履になるので、なおさら歩幅が小さく、動きがゆっくりになり、歩く姿が美しく見えるのです。

また着物は袖が長く垂れ下がった形をしており、食事の際にはテーブルの上の食器などに引っ掛かりやすくなっています。袖が物に当たらないように意識すると、手の動きが曲線的になり、上品な印象になります。

他にも着物の袷がはだけないように裾を押さえてそっと腰を落とす姿など、着物ならではの動きには所作が美しく見える動きがたくさんあります。

洋服だと椅子に座る際に足が開いてだらしなく見えてしまうことがありますが、着物の場合は足元まで着物でくるまれているため、膝が揃った美しい座り姿を自然にキープすることができます。

また畳の生活から椅子の生活が当たり前になったことで、正座が苦手という方が増えていると思いますが、着物であればぎゅっと締められた帯によって腰骨が立ち、背骨が支えられるので、いくらか正座が楽になります。

 

 

着物を着ることで内面まで美しくなる

着物を着ている人は所作だけでなく、内面も落ち着いて上品に見えないでしょうか?

現代人は仕事や家事などで時間に追われ、表情も険しく、せかせかしているとよく言われますが、着物を着た人は表情も柔らかく、気持ちに余裕があり、ゆったりした印象があります。それは着物が外見だけでなく内面にもよい影響を与えているからです。

私は仕事柄ほぼ毎日着物を着ていますが、着物を着るたびに気持ちがしゃきっとします。京言葉で、上品かつ気品があり、明るくて華やかなさまを「はんなり」と言いますが、着物は着た人をまさに「はんなり」とした印象にさせてくれるのです。

着物は肌着、襦袢、着物に帯と、一つ一つをその日のコンデイションに合わせて身に着け、紐で結んで着付けをしていきますが、この結ぶという行為には、陰と陽の世界をつないでその中の体を守るという意味があります。

つまり着物を着るということは、自分の体の声を聞き、衣服とともに心を整えていくということでもあります。

着物や帯の多くには桜、梅、椿など草花をはじめとする美しい柄が描かれていますが、柄によって着るのにふさわしい季節が決まっています。

そのため、着物を着ることで自然と季節に意識が向くようになります。花びらだけを現した柄などは、草花というよりも一つの抽象的なデザインなので季節を選びません。

一方で幹から枝そして花と写実的に描かれている柄は、ある季節に咲き誇る草花を再現しているので時期を選びます。人は後ろを振り返るよりも、少し前を向いている方が心地よさを感じるので、季節感のある柄は、少し季節を先取りで着るのが良いとされています。

例えば、椿の花は花びらがはらはらと散ることなく、花の形を留めたままポトリと落ちます。それで「落ちても身をくずさず」という女性の生き様を現しています。

また、厳冬の中、濃い緑色の枝、そして色の深い赤や白の花を供え、生命力に満ち満ちているので、悪を寄せつけない神聖な花という意味もあります。そんな椿を写実的に描かれている柄の着物は、極寒に向かう前の11月から年の暮れごろに着るのがよいと言われています。

このように、着物を着ることで普段の生活では忘れてしまいがちな自然の変化に気付くことができ、心にゆとりが生まれ、非常に穏やかな気持ちになることができるのです。

 

着物で自分のための時間を過ごす

着物

着物は日本人の体型を美しく見せ、立ち居振る舞いや一つ一つの所作を上品に見せてくれます。また着物に向き合うことで気持ちが穏やかになり、はんなりとした印象を与えてくれます。

本人は特に頑張っていないのに、着るだけでその人を美しく見せてくれる着物は、本当に魔法のような衣服だと思います。

だからこそ「日本人の大多数が普段は着物を着ない」という今の状況は、あまりに寂しく感じてしまいます。日本人のための民族衣装なのに、着物を着ないなんてもったいないと思いませんか?

たまにはせわしい日常を忘れて、家族や友人を誘って、着物ではんなりとゆっくりお出かけしてみるのもよいのではないでしょうか。

【池田訓之(いけだ・のりゆき)】
株式会社和想 代表取締役社長
1962年京都に生まれる。1985年同志社大学法学部卒業。インド独立の父である弁護士マハトマ・ガンジーに憧れ、大学卒業後、弁護士を目指して10年間司法試験にチャレンジするも夢かなわず。33歳の時、家業の呉服店を継いだ友人から声をかけられたのをきっかけに、全く縁のなかった着物の道へ。着物と向き合うなかで、着物業界のガンジーになることを決意する。10年間勤務した後、2005年鳥取市にて独立、株式会社和想(屋号 和想館 https://store.wasoukan.com/)を設立。現在は鳥取・島根にて5店舗の和想館&Cafe186を展開。メディア出演や講演会を通じて、日本の「和の心」の伝道をライフワークとして続けている。著書に「君よ知るや着物の国」(幻冬舎)。https://www.amazon.co.jp/dp/4344941314

 

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