ホストクラブに通いつめる理由とは? 恋愛に“タイパ”を求める女性たち
PHPオンライン衆知 / 2024年3月11日 11時50分
昨今、利用者が増えているマッチングアプリと、若い女性客が増加しているホストクラブ。両者にはどのような違いと共通点があるのか。家族社会学の第一人者である山田昌弘氏と、自身もホストクラブに熱心に通う現役大学生ライターの佐々木チワワ氏が、「今どきの恋愛のリアル」について語り合う。
※本稿は、『Voice』(2024年3月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
聞き手:編集部(中西史也)
マッチングアプリはタイパが悪い?
――今回は、家族社会学の第一人者であり、編著書『「今どきの若者」のリアル』(PHP新書)で「マッチングアプリと恋愛コスパ主義」について論じた山田昌弘さんと、ライターとして歌舞伎町の現場を取材し、自らも熱心にホストクラブに通う佐々木チワワさんに、マッチングアプリとホストクラブを中心とした「今どきの恋愛のリアル」について議論いただければと思います。
【佐々木】私はX(旧Twitter)のプロフィール欄にも書いているように、歌舞伎町で「真実の愛」を探しているので、ぜひお話ししたいテーマです。いま(対談が行なわれたのは2024年1月)大学の卒論を執筆しているのですが絶賛苦戦中で、山田先生にいろいろと相談したいくらいです......(笑)。
【山田】おや、そうでしたか。
――そもそもチワワさんは、マッチングアプリを利用したことはありますか。
【佐々木】はい、私はTinder(ティンダー)を使っていました。位置情報をもとに近くにいる登録者のプロフィールが表示され、マッチすればメッセージをして会うことができるアプリです。
私はあるとき親と喧嘩して「もうあなたにご飯はつくらない」と言われたので、Tinderを使ってお金をもっている人とマッチして、親よりも良い飯を食べてやろうと擦れていた時代がありました(笑)。
【山田】それはたくましい(笑)。
【佐々木】ただ、私にとってアプリはタイパ(タイムパフォーマンス)が悪いと思って、いまはほとんど触っていません。
【山田】いまの若い世代はむしろ、コスパ(コストパフォーマンス)やタイパを重視してマッチングアプリを利用しているように見えます。もともと知らない人でもマッチさえすれば、最低限のメッセージで簡単に会うことができるわけですから。なぜアプリはタイパが悪いと感じたのですか?
【佐々木】マッチしてから連絡をするのすらハードルが高いというか、億劫なんですよね。かといってメッセージを重ねずに早々に会うと、相手がどういう人かも、会って楽しいかもわかりません。
私にとっては、よくわからない人と一時間会うくらいなら、ホストクラブに行って一時間で数万円を払うほうがよっぽど有意義です。アプリは金銭的なコスパは良いかもしれないけれど、自分好みのイケメンを選んで一定の時間で接待してくれるホストのほうがタイパで上回っていると感じます。
【山田】マッチングアプリのなかでも、Tinderは利用者の年齢層が若く、手軽に会って遊ぶ人が多いですね。真剣な出会いや結婚をめざす人は、Pairs(ペアーズ)など別のアプリを使うのでしょう。
【佐々木】私はアプリ自体使わなくなってしまったので、「真実の愛」どころか、恋愛自体から遠ざかっているかもしれません......(笑)。
ただ、私の周りを見ていて気になるのは、アプリを使って「とりあえず付き合った」という子が多いことです。もちろん付き合ってから相手のことを徐々に知っていく場合もあると思いますが、「彼氏」「彼女」というステータスを得ようとしている気がするんです。
私は、特段好きでもない「彼氏」に労力を費やすくらいなら、互いの関係性に名前がなくてもホストクラブにお金と時間をかけたいですね。
ホストの「アイドル化」
――ホストクラブの利用客は、かつては女性社長や成功した事業家の妻といった富裕層が中心でしたが、現在は20代など若い世代が増えていると言います。なぜ若い女性がホストクラブにハマるのでしょうか。
【佐々木】いちばんの理由は、店に行ってお金さえ払えば必ず会えて、手厚いもてなしで承認欲求を満たしてくれるからでしょうか。マッチングアプリでの恋愛や彼氏・彼女の関係のように、「なんで会えないの」と思う必要はない。
ホストクラブは、精神的に不安定な子が比較的多い若い年代にとって非常に優しいシステムになっているんです。
【山田】マッチングアプリは基本的には互いに「選ぶ側」でも「選ばれる側」でもあるわけですから、メッセージ段階でも会ってからも双方に一定の努力が求められます。その点ホストクラブはその場に行けば必ずもてなしてもらえるから、金銭的なコストの程度はありますが、たしかにタイパが良いと言えるかもしれません。
【佐々木】ホストもマッチングアプリも結局、時間とお金を重ねて「関係性」を構築していくと思うのですが、相互性があると喪失への恐怖はつねに抱えますよね。
そんななか「推し」文化の広がりとともにホストが「アイドル化」していたり、通う目的はさまざま。店に行けばいつでも受け入れてくれる安心感から女性客がホストクラブを「居場所」と呼ぶことがある一方で、キャバクラで男性客がそう捉えることはあまりない。
それにキャバクラでお客さんと店外で会う「同伴」では基本的に男性客がすべてお金を支払いますが、ホストが店外で女性客と会う「アフター」で支払うのはじつはホスト側です。
【山田】そうなのですか。
【佐々木】はい。女の子を歩かせないようにタクシーを使い、料理ごとにワインを変えるペアリングの知識もあって支払いまでしてくれる。女性にとって、ホストが同年代の一般の男性と比べてキラキラして見えるんです。
【山田】なるほど、いまだに「男性が女性を大切にするべき」というジェンダー規範は根強いのでしょう。女性客には、ホスト(男性)がお金や労力において自分(女性)に尽くしてくれることで好かれているという感覚がある。
もちろん利用客は店舗でホストクラブに金銭を支払うわけですが、キャバクラの同伴とは違って、ホストのよりプライベートに近いアフターではあくまでも女性側が金銭的にも尽くされている構図なわけですね。
【佐々木】おっしゃるように、ジェンダー規範はかつてよりは薄れているとはいえ、いまの若い世代にもけっこう残っていると思います。
「ルッキズム×資本主義」が広がる界隈
【山田】私が懸念しているのは、ホストクラブというシステムの「持続可能性」です。昨今、利用料金をホストが立て替える売掛金(ツケ)によって女性客が金銭的に困窮する問題が報じられています。
キャバクラや性風俗産業では売掛金は基本的にはなく、男性客からお金を長期的に落としてもらうために、支払い可能な金額設定になっています。ホストクラブが運営の持続可能性についてどう考えているかは気がかりです。
【佐々木】ここでも客側の男女差が表れてくるように思います。現実として男性に比べて女性のほうが、外見や身体を使って簡単に金銭を得られるという構造がある。
ホストクラブで使うお金を稼ぐために、パパ活(女性が男性と食事やデートをする対価として金銭を受け取る活動)や立ちんぼ(路上に立ちながら通行人の男性に買春をもちかける行為)に走る女性も珍しくありません。
【山田】なるほど。
【佐々木】ホスト側は悪質なケースを除けば、たとえば女性客から「私は月に30万円しかあなたに使えないよ」と言われれば、「じゃあ俺はここまでしかサービスを提供できない」とある種の線引きをほのめかします。
ホストクラブは「いかにお金を落としてくれるか」によって利用客への待遇に差がつく世界で、それはサービス業として当然とも言えるはずです。
私は、そのときにむしろ女性客側が「もっとサービスしてもらいたい」と欲して、性風俗やパパ活に走るケースが多い気がしていて。
もちろんホスト側が直接的ではなくとも、女性客に多額のお金を使わせるように誘導している側面は否めませんが、女性客側がどこまでのサービスを求めるのか次第という「自己責任論」的な考えに共感してしまうのが正直なところです。
【山田】利用客がどれほどのお金を落としてくれるのか、キャバ嬢は相手の職業を見ているはずです。その意味ではホストクラブもキャバクラも、相手の金銭的なポテンシャルを測っているのは同じではないですか。
【佐々木】やはり女性客のほうが「ルックス」が重視されているのではないでしょうか。ホストは女性客の容姿を見て、「この子がもし風俗で働けばこれくらい稼げる」と瞬時に判別します。
キャバ嬢が男性客の身なりや金払いから相手の金銭的余裕を見定めることはあっても、そこに外見の要素はあまり介在しないはずです。ホストクラブはホスト側も客側も、ルッキズムと資本主義が密接に結びつく世界だと言えそうです。
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