1億円の借金、売れない漫画...「ドラゴン桜」作者が見せた大逆転劇とその舞台裏
PHPオンライン衆知 / 2024年3月26日 13時30分
『ドラゴン桜』や『アルキメデスの大戦』などのヒット作を生み出した三田紀房さん。今でこそベストセラー漫画家として知られる三田さんですが、30歳になるまで漫画家になることは考えていなかったといいます。夢がなかった少年時代、巨大な借金を背負うことになった20代、漫画を描いても売れなかった30代...そんな三田さんが成し遂げた大逆転劇の背景には何があったのでしょうか。
三田さんの半生を綴った『ボクは漫画家もどき イケてない男の人生大逆転劇』(講談社)が発売されました。講談社にて行われた出版記念の記者会見では、ご自身の波乱万丈な漫画家人生について存分に語られました。
父の死、そして1億円の負債を抱えることに...
三田さんは父親の死をきっかけに、実家の洋品店を継ぐことを決心します。ところが、実は経営状況は苦しく、1億円の借金があることが明らかに。突然巨額の負債を背負った三田さんは借金返済のために苦悩する日々を送ることになります。
「父が亡くなるときにどれぐらいの借金があるか言ってくれれば良かったのですが、やはり子どもには隠していたんですね。亡くなった後になって、親戚からも"お前のおやじに貸してんるだ"と後々言われて判明する借金も多くありました」
洋品店の売り上げと返済額が釣り合わず、自己破産の準備も少しずつしていたという三田さん。しかしここで転機が訪れます。たまたま目についた小学館『ビッグコミック』の新人賞に応募することにしたのです。
「商店を経営していると、問屋の支払いができないという状況が一番メンタルをやられるんです。その日々が毎日続くんですよ。そんな時にふと新人賞に応募しました。当時は、一発マンガで大ヒットを出して、借金をぜんぶ返済してやろうという気持ちではありませんでした。マンガを描くことで"自分の中に別の世界をもう一つ作りたい、自分だけの時間をもちたい"というのが一番の本音でした」
『ビッグコミック』の新人賞は逃したものの、二作目で講談社が主催する「ちばてつや賞」に応募したところ、見事入賞。ここから三田さんの漫画家としてのキャリアはとんとん拍子に進んでいきます。
「編集の方に何か書いて送ってくださいと言われたので送ったら、2,3日で連絡がきて、月刊誌に載せますと言われ、原稿料が振り込まれました。雑誌に載ってお金がもらえる生活になるのは早かったです。
でも、そこでもっと頑張ろうというタイプではなかったので、その後半年ぐらいは、朝、仕事に行く妻を見送ったら、こたつでゴロゴロする生活を続けていました」
そんな生活を続けて、ようやく焦りを感じ始めた折に、小学館の編集者から連載の依頼が舞い込みます。そして東京への移住も決心。30代で岩手県から、東京へと拠点を移します。
東京へ移住、しかしマンガを描いても1円にもならない
ところが、そこから売れるまでには時間がかかったという三田さん。原稿料はアシスタントの給料に消えてしまい、マンガを描いても1円にもならない状況に陥ってしまったそう。経済的には決してラクではない状況だったものの、三田さんは悲観はしていなかったと当時を振り返ります。
「借金で苦しんでいた時代が10年ぐらいあったので、お金が入ってくる状態であれば、いづれはいいことがあるだろうと思って、マンガを描き続けていました」
しかし、『クロカン』の連載途中に"ただ描くだけではなく、1位を狙わないと生き残れない"と編集部に発破をかけられることに...。三田さんは、一念発起して、売れるマンガを徹底的に研究し始めます。
「現実を突きつけられました。読者アンケートで4番手、5番手にはいないと連載を続けられない。どうやったら順位をキープできるのか...。最初は1位なんて無理だと思っていたのですが、編集者に会うたびに1位を狙いましょうと言われて、これは目指す姿勢をみせないとだめだと思いました。
そこで考えたのが、1位のマンガのように描くということ。1位のマンガはなぜ1位なのかを研究し、その理由を自分のマンガにも反映させていきました」
"エンタメをかかないと大衆は支持してくれない"。その事実を悟った三田さんは、「エンタメとは何か」ということを突き詰めて研究していたといいます。
40代で訪れた2つの転機...週刊連載2本に挑戦
そして漫画家としてのキャリアが軌道に乗り始めます。なんと『クロカン』の連載中に、さらに別の出版社からも声がかかったのです。
「『クロカン』連載中に突然、講談社の編集者から電話がきて、月刊の『ヤンマガ』で描いてくれないかと言われました。週刊連載は、体力・気力・根気すべてをつぎ込まないと続かないものです。人的リソースをすべて注ぎ込む大変過酷な作業でしたが、月刊誌の月1本を増やすぐらいならなんとかなると思いました」
そこで月刊誌での連載を開始。ところが、さらに、週刊『ヤングマガジン』本誌でも連載をやらないかという提案を持ち掛けられます。話を聞いた時は、どう考えても無理だと思ったという三田さん。しかし、その無謀とも思える依頼を引き受けることになります。
「『クロカン』が終わってから描きますとか、ちょっと待ってと言うと、『ヤンマガ』の週刊誌で書くというチャンスはもう来ないだろうという考えがふっとよぎったんです。どうやって連載を2本描くかということは一旦置いておいて、とりあえず書きます! と言っちゃいました」
相当に過酷な選択ではあったものの、三田さんは当時を振り返ると"よくあの時連載を引き受けたなと褒めてあげたい"と笑顔で振り返ります。
そして、ドラゴン桜が生まれた
ある時、『モーニング』の編集者から連絡があり、新たな連載の提案をされた三田さん。その時は三田さん、馴染みの編集者、そして新入社員の編集者の3名で話し合いが行われたといいます。次の作品をどんなものにするか、思考をめぐらしながら話し合いがなされたそうです。
「最初は高校教師ものをやろうと言われました。どういう訳か色んな雑誌から、高校教師ものの依頼がありました。しかし、そのたびに高校教師ものがウケない理由をいくつか挙げて、俺は絶対やらないと断っていました」
ただそこで、"勉強ができない子を1年で東大に入れるマンガならウケるかもね"と三田さんは思いつきで発言。馴染みの編集者からもそれは面白そうだと賛同を得た直後、新人編集者からは難色を示されてしまったといいます。
「実は、新入社員の子は灘校から東大に入学していた子だったんです。彼は"クラスの大半が東大に行く。東大なんて簡単なんすよ。だから面白くない"と言ったんです。東大なんて簡単だ、という言葉は逆転の発想を生みました。彼の言葉がなかったら『ドラゴン桜』はなかったですね。彼には感謝したいと思っています」
『ドラゴン桜』はこれまでとは少し違った作品だったと三田さんは明かします。その理由は、作品によって、読者とのコミュニケーションが生まれたことだそう。
「『ドラゴン桜』の作中には、実際に入試で出ている問題を色々いれました。解こうとする人がいるだろうという目論見でいれたんですが、夜中の2,3時に問題を解いたから答えを教えろと編集部に電話をしてくる人がいる、と連載中に編集部からよく報告をうけていました。
一方通行ではなくて、発信したものがリターンとして返ってくる。『ドラゴン桜』は双方向のコミュニケーションがとれるマンガなんだなと思いました。ちょっと変わったマンガだったけど、読者にそういった楽しみを提供できたのは嬉しいです」
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