劣等感だらけの「不幸な人生」を変える1つのシンプルな考え方
PHPオンライン衆知 / 2024年5月28日 17時0分
人生が苦しく、自分は不幸だと感じている人がいます。どうせ幸せになれないと、人生を諦めてしまっている人もいるかもしれません。しかし加藤諦三さんは「不幸を受け入れる」ことこそ、人生を変える鍵になると語ります。「不幸」の本質に迫り、自分自身を見つめ直す重要性について紹介します。
※本稿は加藤諦三著『無理をして生きてきた人』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
失敗は、単なる経験に過ぎない
「失敗は単なる経験」である。決して不幸の原因ではない。みんな、子供の心に焼き付いている。「起きてしまった」ということは受け入れる、つまり不幸を受け入れることである。不幸を受け入れれば過去から解放される。
「不幸を受け入れる」とはシーベリーの言葉である。本稿ではこの言葉の素晴らしさを考えたかった。不幸を受け入れるというと誇張された言葉のようであるが、人類の知恵が詰まったような言葉である。
病気で幸せな人もいるし、健康で不幸な人もいる。貧しくて幸せな人もいるし、お金持ちで不幸な人もいる。離婚して幸せな人もいるし、結婚していて不幸な人もいる。
離婚して不幸な人はつい「私は離婚したから不幸」と思いがちである。しかし離婚して不幸な人は、結婚していても不幸な人である。ことは単純で、不幸な人が離婚をしただけである。離婚して不幸な人は、視野が狭いから不幸なだけで、離婚と不幸は関係ない。失恋して不幸な人も同じことである。失恋と不幸は関係ない。不幸な人が失恋しただけである。
嫌な仕事で不幸だという人は、不幸な人が嫌な仕事をしているだけである。不幸の原因は嫌な仕事ではなく、自分が自分を見つけられていないからである。不幸の原因は自己不在に過ぎない。仕事が忙しいから幸せではないという人は、定年になっても不幸。不幸な人が忙しくしているだけである。
幸せでないのは、自分の意志で人生を選び取っていないからである。忙しい人は暇になっても忙しい。適正な目的を見つけられていないからである。
自分の人生は失敗の連続であったと劣等感を持ち、不幸な人がいる。しかし違う。不幸な人が失敗しただけである。失敗の連続によって不幸なのではない。人からよく思われたい、人によい印象を与えたいという依存欲求で不幸なのである。さらにものを見る視点の数が少ないから不幸なだけである。
不幸な人が大学に落ちただけ
不幸な人はつい「現実が厳しい」から不幸だと思ってしまう。不幸の本当の原因である自分の心を見ない。そのほうが心理的に楽だからである。いま「現実が厳しい」と「現実」に括弧をつけたのは、不幸を嘆いている人にとって現実は、本当は厳しくないからである。
大学に不合格になって不幸な人は、浪人したから不幸と思っている。しかし不幸な人が不合格になっただけである。不合格の人の不幸の原因は孤独であり、家族への帰属意識がないことであり、人間関係が悪いことである。帰属意識を持っていれば、劣等意識は重大なハンディキャップではない(註1)。
つまり、大学に落ちようが失恋しようが、○○家の人間だという帰属意識があれば、「あなたは、あなたなんだから」変わらず愛される。しかし、帰属意識を持っていないということは、「あなたは、あなただから愛される」という体験がないということである。
Because you are youとの対比を考える。最大の事実は自分。それをどう認識するかである。理想と比較して自分を解釈するから不幸になる。
自分は今までの人生でどういう人と付き合ってきたか? 悩んでいる人の反省の重大さである。それは認識された感情と、実際の感情の違いに気がつくことである。
(註1)Karen Horney, Neurosis and Human Growth, W.W.NORTON & COMPANY, 1950, p.21
現実に正面から立ち向かう
人から自分の人間としての価値を否定されて落ち込んだといっても、必ずしも今、聞いた言葉で落ち込んでいるとは限らない。
過去に自分の価値を否定されてひどく傷ついた、絶望した。そして、その人との関係が自分の中で解決していない。その未解決な課題が、もしかすると今、目の前にいる人にトランスフォームしているのかもしれない。だからこんなに落ち込んでいるのかもしれない。
今、目の前にいる人からひどいことを言われた。そのひどい言葉で、立ち上がれないほど傷つき、怒っている。しかしひどい言葉だと思っているが、もしかするとその言葉はそれほど怒り傷つくことではないかもしれない。自分の心の中の「記憶に凍結された不快感」とか、トランスフォームなどさまざまな心の働きで、そうなっているだけなのかもしれない。
とにかく幸せになるために大切なのは今、目の前の現実に正面から立ち向かうことである。苦労がないことが、必ずしも幸せなことではない。現実の苦しみがないことが幸せではない。
冬の寒い朝、道路工事で、道路に座って食事をしている人達がいた。夏の真昼、トラックで縄を投げあって荷物を縛っていた。苦しいけれど、触れ合っている。戦争と平和を考える。戦争が始まってうつ病が減る。幸せと個人の資源とは弱い関係しかない(註2)。
アメリカの社会学者デイヴィッド・リースマンの『何のための豊かさ(註3)』は、現実の苦しみの問題を重要視しすぎた。
人間には心の苦しみがある。何のための豊かさか、豊かになっているのに人間はそんなに幸せになっていない。いったい何のための豊かさかという本を書いたけれど、現実の豊かさは要するにお金があって、食べるものに困らないことをいう。
人が心が満たされるか満たされないか、幸せかどうかは、現実の豊かさとは関係がない。それなのに、現実の苦しみの問題を重要視しすぎた。
ドイツの哲学者で経済学者カール・マルクスも、現実の苦しみを重要視しすぎた。しかし、現実の苦しみがなくなっても、お母さんが子供の独占欲を満たさないまま成長した人は、60歳になっても70歳になっても不幸。吐き出せない憎しみで潰れた人はたくさんいる。
(註2)Michel Argyle, The Psychology of Happiness, Methuen & Co.LTD London & New York, 1987.p.124
(註3)David Riesman, Abundance for what?, Doubleday Book Club, 1964
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