おしゃべりな人ほどガードが堅い? 相手の“本音を引き出す”技術
PHPオンライン衆知 / 2024年6月13日 11時50分
コミュニケーションの難しさを感じている人は多い。目上の人や得意先などと、どのように円滑に話が進められるのか日々悩んでいるビジネスパーソンもいることだろう。コミュニケーションのプロであるインタビュアーはどんなスキルを持っているのか、なにを大事にしているのか。年間100本以上の連載を持つ取材のプロ、ラーメンライターの井手隊長が語る。
※本稿は、井手隊長著『できる人が知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム)より一部抜粋・編集したものです。
会話の主導権を握られないために
世の中には「とにかくしゃべりまくる」という人が結構います。
私が取材する相手でいうと、ラーメン店主にはあまりいないのですが、経営者やビジネス書の著者などに、マシンガントークの方が割と多い傾向にあります。
こういう方はしゃべるのが得意なので、ひとつの質問に対してどんどんしゃべってくれます。
自分語りが得意で、自己分析もしっかりとできており、アピールポイントもしっかりと事前に整理されているので、どんどん答えが出てくるのです。
このパターンは一見、短い時間で十分な撮れ高があり、理想的な取材になると思いがちですが、じつはそれとはまったく逆です。
もっと言うと、事前に自分が最大限アピールできる内容を、しっかり固めてきているので、完全な「宣伝広告」にもなり得てしまいます。
たくさんしゃべってくれることは、もちろんありがたいのですが、取材が相手の自己アピールの場かというと、それはまた違うのです。
これは、下手すると聞き手としての質も問われるので、このパターンが来た場合は注意しましょう。
相手がしゃべりまくる人の場合、完全に主導権を握られてしまいがちです。
しゃべる側が気持ちよくしゃべれる環境を作ることは、一般的には理想なのですが、しゃべりまくる人の場合は、一概にそれがベストとは言えないでしょう。
相手の「鎧」をいかに脱いでもらうか
しゃべりまくる人は、自分をアピールするための、そして自分の弱みをガッチリ包み込むための最強の「鎧」を身につけています。
四方八方から攻撃されても、絶対にやられない「鎧」です。
この「鎧」を崩せるかどうかが、聞き手の腕の見せどころです。
相手を無意味に攻撃しろ、ということではありません。想定内の攻撃しかしないのではなく、相手が意図しない戦い方をすべきだということです。
しゃべりまくる人が相手の場合、その内容は、ほとんどほかのメディアを調べれば書いてあります。
事前準備をしておけば、すぐに「これは、ほかで読んだことのある内容だな」と気づくはずです。
そういう「ほかにも書いてある」内容はノーカウントとして、この取材でしか聞けない内容にこだわりましょう。
相手がしゃべりまくる人であればあるほど、その場での対策、軌道修正が大事です。
軌道修正をとにかく繰り返して、オリジナルな撮れ高にこだわりましょう。
たくさんいる聞き手の一人、その他大勢になってはいけません。
相手に「この人に取材してもらってよかった」と思ってもらうためには「鎧」を脱いでもらうことが必要なのです。
マイストーリーを語られるだけでは聞く意味がない
しゃべりまくる人の大きな特徴は「自分語り」をすることです。
自分語りをする人は、こちらの質問の内容にかかわらず、幼少期から時系列で「自叙伝」を話し始めます。
自分はこんな家庭に生まれ、幼少期はこんな暮らしをしていて、学生時代はこう過ごし、その後、こんな苦労をしたものの、その苦労を乗り越えて今がある…。
このような、時系列のダイナミックなストーリーを語ることが非常に多いです。
今の自分だけを語るよりも、過去の苦労などを交えて話すほうが、自分の人生を圧倒的にドラマチックに描くことができます。
それを勝ちパターンの「マイストーリー」として準備しているのです。
しかし、この「マイストーリー」こそ、ホームページやほかのメディアに確実に載っているような話で、誰でも知り得る内容なのです。
これでは、まったく取材の意味はありません。
マイストーリーを語れるようになるというのは、話し手としてのひとつの技術ではあります。
それに対して、どうこうは思いません。私も取材を受けるときは、マイストーリー的な話し方をすることもあります。
ですが、マイストーリーというのは、ハッキリ言って「できすぎた話」なのです。それをそのまま載せるのはホームページで十分でしょう。
取材においては、マイストーリー以外の軸を作るべきだと思います。
とっておきの質問はその場でぶつける
マイストーリーの中にある事柄は、基本的には「オモテ」の話です。
過去の苦労話などがマイストーリーにちりばめられていることも結構あり、それは一見「ウラ」の話に見えますが、じつは「オモテ」の話を引き立たせるためのスパイスでしかありません。
人は、この「オモテ」ばかりのできすぎた話を求めていません。
大きな国道だけではなく、たまには裏道に入ってみましょう。そこにおもしろさが見えてくるものです。
マイストーリーの外に何があるのか。ここに足を踏みいれることが聞き手としての役割です。
そのためにも事前準備をしっかりし、マイストーリーは頭に叩き込んだ上で、その先に何を聞くのかいくつか質問を練っておきましょう。
ちなみに、こういったとっておきの質問は、先方に事前に「質問事項」として投げてはいけません。
その場で突発的に答えてもらうことが大事で、私はそこに取材の価値があると考えています。
繰り返しますが、マイストーリーを完全に否定するわけではありません。
マイストーリーというオモテの国道の隅にある裏道を通ってみると、意外とそこにお宝が潜んでいるという話です。
自分語りの多い人を取材するときは、宝探しをしているつもりでいろんな裏道を通ってみましょう。
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