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日本人が持つ「うまみ」の味覚が、“海外のSUSHI”との格差を生んでいる

PHPオンライン衆知 / 2024年8月2日 11時50分

海外の寿司事情

寿司職人の小川洋利さんは、日本のすし文化を全世界に広めるため、世界50カ国以上にわたって、すし指導員として外国人シェフに調理指導をされています。本稿では、小川さんが海外の寿司店で目撃した驚きの実態について、、書籍『寿司サムライが行く! トップ寿司職人が世界を回り歩いて見てきた』からご紹介します。

※本稿は、小川洋利著『寿司サムライが行く! トップ寿司職人が世界を回り歩いて見てきた』(キーステージ21)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

高カロリー万歳、低カロリー犯罪!「寿司=ヘルシー」の勘違い

私は仕事でいろいろな国へ行くのでその都度、各国の寿司店に出向き寿司を食べにいきます。その国によって寿司のスタイルや食材、店のデザインなどはさまざまで、とても興味深く勉強になります。

そこで私が一番思うことは、海外の寿司はとても高カロリーだということです。隣で寿司を食べているふくよかなお客様に「お寿司は好きですか?」と聞いてみると「大好き! だって、とてもヘルシーだしダイエットにもよいじゃない」と。

エビとサーモン、マヨネーズ、アボカドを裏巻きにし、さらにパン粉で揚げ切って盛りつけたあと、得体の知れないソースとダメ押しに天カスをふりかけた脂ギトギトの寿司を食べながら......。私はその寿司を見ながら言葉を失い、うなずくことしかできませんでした。

このようなスタイルの寿司を多くの国で目にします。海外の寿司の特徴として、創造性がありソース文化でもあるので、未知なる味を作ります。調理方法、調味料、いろいろな技法を用いて料理する志向があります。

逆に日本の寿司は、食材のうまみを味わい、いかにその食材を引き立て、表現するかを考えます。また、日本には春、夏、秋、冬と四季があります。一番おいしくなる時期、そのときに入った「旬」を楽しみます。日本の寿司は基本的に醤油をつけて食べます。海外に行くと醤油以外に甘いソースや、いかにも辛そうなソース、香辛料が出てきたりします。

仕事で海外の寿司店から、調理指導の依頼で調理場に入ってみると、寿司を握るすぐ近くに揚げ場が設置してあったり、いろいろな香辛料やソースを作っていたりと、日本の寿司店では考えられない光景を目にします。

聞いてみると「魚には味がないから、味にパンチを効かせるために、いろいろな調理をしたり、ソースを作っているんだ」と言われ困惑したときもありました。寿司を作る側がこのような高カロリーのSUSHIを提供し、それを食べているお客様がヘルシーと思い込んで太っていくのだから......。

 

魚は味がない!?

どこの国に行っても、海外の人たちは、寿司に醤油やソースをガッツリとつけて食べています。話を聞いてみると、「魚には味がない」という。日本人は、五味という5つの味覚をもっています。甘い、しょっぱい、すっぱい、苦い、そして「うまみ」の5つ。

「うまみ」というのは日本人が発明した言葉で、世界中で使われています。「うまみ」とはアミノ酸の一種で、グルタミン酸とイノシン酸とグアニル酸という成分によってできており、主に代表的なのが、こんぶ(グルタミン酸)、かつおぶし(イノシン酸)、干ししいたけ(グアニル酸)に含まれている日本の三大だしです。日本料理は、この3つでだしをとって作られています。

海外の人たちはこの「うまみ」を感じない。だから、海外の寿司は、ソースを作ることに重点が置かれたのでしょう。こうして、海外では、日本食や寿司の一つの基本が失われてしまう。寿司を味わう一般の人にも、さらに作る側の料理人にも「うまみ」という味覚がないので、海外の料理人たちの仕事にも味がなくなってしまう。

 

寿司にはパンチが必要? それよりも魂込めて作ってくださいという願い

前にも書いたように、寿司職人として外国の人の多くはうまみがわからない。「うまみ」よりも「甘い」「辛い」といったはっきりした味を求めがちです。

「魚には味がないじゃん!」なんて言い出して、こしょうをふったり、とうがらしを混ぜたり、マヨネーズをかけたりするのをよく見かけます。どうしてもソースに凝ったり、揚句のはてには、シャリにソースを混ぜたりしてパンチを求めてしまう。

食に対する考え方は国によって違えども、本当に大事なのは、お客様によろこんでいただくこと。包丁をしっかり研ぐとか、細菌が繁殖しないように衛生、安全に気をつけるとか、そういった基本をしっかり守れているかだと私は思っています。

海外の人々が来日するにあたって楽しみにしていることは、1位に挙げているのが「食文化」、2位がアニメなどの文化。日本に来て、本物の日本食を食べても、自分の国に帰ると本物を食べられる店がない。お客のレベルに、お店、職人の知識、技術がついてこれていないのが現状です。

 

安全なようで危険、手袋で作る寿司 

寿司職人の手袋の着用については、今とても問題になっています。例えば、アメリカは州によって法律が違いますが、ロサンゼルスにせよ、ニューヨークにせよ、素手で寿司を握ってはいけないのです。手袋の着用が法律で義務づけられています。アメリカがそういうことをやりはじめたので、海外でも手袋の着用を義務づける国がだんだん増えてきました。

現在、問題になっているのが、手袋の着用による食中毒です。これが面白いもので、日本の寿司店は素手で握っていますが、食中毒がほとんどない。

手袋の着用による食中毒の原因は何かというと、まず一つは、手に臭いがつかなくなるから。現地の人々は魚の臭いで鮮度を判断する意識があまりないのです。

そもそもなんのために手袋をつけるかというと、自分を守るためです。例えば誰かがけがをしたときに、治療するのに医者は素手でやらないでしょう。あれは自分の感染を守っているのです。歯医者でも、手袋をつけて口の中に手を入れる。

そもそも手袋というもの自体が、寒さから身を守ったり、危険なものから自分を守るためにつける。魚の生臭さって、寿司店で一日握っているとなかなかとれません。いくら洗ってもとれなくて、電車に乗ってると嫌な顔をされるくらいです。ですので、自分の手を魚の臭いから守りたい人も手袋を使うのでしょう。でも、そういう感覚で寿司店で手袋を使われると、危ないのです。

あとは、素手だったら魚に直接触ると、あれ、これぬるっとして危ないなというのがわかります。でも、手袋をつけて間接的に触ってもぬめりなどがわかりません。そして、菌がついた手袋でほかの魚を触っていくうちに、繁殖していく。これが2つ目の原因です。

それから、手袋をつけると、手にシャリがくっつかない。普通、素手だと素人の人が握るとベタベタになりますが、手袋だとくっつかないから、手を洗わないでずっと作業ができちゃう。そうすると、いろいろなものを触ったあとに、ご飯がくっつかないから、そのままずっと作業を続けて、そのまま魚を触って菌が増えてしまう。素手がベタベタすると、気持ち悪くてすぐ洗いますけどね。これも一つの原因。

魚の菌は真水には弱いけど、手についていている細菌や台所にもよくいる細菌は、実は水が大好物です。水分とか湿度とか、10度~65度の温度を好む菌なのです。

今、問題になってるのは、家庭だと台所のスポンジからの感染による食中毒が危ないといわれています。実際はトイレの便座より菌が多いといわれています。水分があるものは天日干しをして乾かすことで、全部死滅させることができます。

一番の問題は水です。日本の寿司店で見たことがあると思いますが、寿司店は必ず、手酢をつけてまぶしながらポンポンたたいて握ります。手酢というのは水とお酢を1:1で割ったもの。お酢はPH2.0から3.0 と強い酸性なので、バクテリアを殺してくれる働きがあります。だから、寿司店は常に、手を殺菌しながら寿司を握っているのに、海外の人たちはそれを水でやっているから、菌がどんどん繁殖してしまいます。

最近では若い方が「オレ素手で握った寿司食えない」と言っているのをよく耳にします。日本の大手の会社では手袋をつけていても定期的に消毒をしていますが、海外ではそこまでやらない店もあります。

ただ手袋をつければよいと思っていて、実際にはそのまま普通にお金のやりとりも、手袋をつけたままやっている人たちもいます。見た目は安全なように見えますが、使い方や目的を間違ってしまうと、とても危険になってしまいます。

 

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