「脳の学習効果」が仇に?! 思考実験で解き明かす、投資家が陥りやすい罠
PHPオンライン衆知 / 2024年7月24日 11時50分
日々、膨れ上がる情報の波を前に過ごしている私たちだが、情報に振り回されないために必要なのは、やはり「自分の頭で考える力」ではないだろうか。そんな力を鍛える最適な方法として注目されるのが、実際の実験を行わずに頭の中で問題を考える「思考実験」である。思考実験は、いわば考えるゲームのようなもの。楽しみながら取り組めて、思考力も身につけられる現代人の強い味方だ。ここでは、企業研修で思考実験を積極的に行う笠間リョウ氏の著作より、脳の思考グセに自覚的になれる問題を2つ紹介する。
※本稿は、笠間リョウ著『頭がいい人の論理的思考が身につく!大人の思考実験』(総合法令出版)より一部抜粋・編集したものです。
ギャンブラーが考えた確率計算のミス
これは「ギャンブラーの誤謬」といわれる思考実験です。
あるギャンブラーがカジノでルーレットを楽しんでいます。赤か黒か、どちらかの色に賭けるシンプルなものです。ギャンブラーは、そのカジノに長年通っていますが、その日は見たこともないことが起きていました。なんと9回連続で黒が出たのです。ギャンブラーはこの奇跡に興奮しました。
そして、いよいよ10回目です。さすがに赤が出ないのは不自然だと思い、赤に賭けようとしました。9回連続で黒が出る確率は512分の1です。つまり、約0.2%しかありません。
ギャンブラーの確率計算よると、次は99%以上の確率で赤が出る可能性があると彼は考えました。しかし、ここまでの奇跡を考えると、次も黒が出るかもしれないと悩んでしまっても、おかしくありません。
10回目のルーレットは黒と赤、どちらが出る確率が高いのでしょうか?
実はこの話は、実際に起きたこととして知られています。1913年にモナコのモンテカルロカジノでのルーレットのゲームで26回連続で、球が黒に入りました。このときに多くのギャンブラーが赤に賭けたのですが、結果は黒で、大金を失った人たちがたくさん出てしまいました。
ここまで連続して同じ結果が出ていると、次は異なる結果になるのではないかと考えてしまうものです。科学的でないことに因果関係を見いだしてしまうのです。
脳の学習によってつくられた行動パターンを消す
しかし、確率を冷静に考えてみましょう。ルーレットを回して、赤と黒の出る確率は、それぞれ2分の1です。ちなみに、9回連続で黒が出る確率は、2の9乗で512分の1です。
そう考えると、かなり珍しい現象が起きているように見えるかもしれません。しかし、ギャンブラーが予測した9回連続で黒が出る確率の約0.2%という数字は、あくまでも9回連続で黒が出る確率であり、次に黒が出る確率ではありません。
次に黒が出る確率も、赤が出る確率と同じように2分の1なのです。過去の結果は、未来に影響することがないのです。
つまり、512分の1の確率で黒が9回連続して出たことと、10回目のルーレットの確率とは何の関係もないということが答えになります。
確率は、短期的に見ると、つまり、ルーレットを行う回数が少ないと、本来の確率である2分の1からかけ離れた結果が出て、荒れることがあります。
これは、研究でも明らかになっており、「少数の法則」と呼ばれています。こうした科学的法則を無視した過度な期待が、ギャンブラーの誤 謬を引き起こすというわけです。こうした「少数の法則」はギャンブルに限らず、私たちがデータを読み解くときにもよく犯してしまう間違いの1つです。
では、このようなギャンブラーの誤謬を止めるためには、どうすればいいのでしょうか?
脳の学習によってつくられた行動パターンを一度、消してみるということが必要です。過去の成功パターンに基づいた同じ行動を繰り返すのではなく、一度、立ち止まって、自分の行動を俯瞰して検証してみるのです。そうするだけでも、こうした迷信行動から逃れるきっかけを見いだすことができます。
過去を都合よく解釈してしまうギャンブラーの誤謬は、未来に同じことが続くという不正確な因果関係によって、もたらされます。
これとは逆に自分勝手に因果関係をつくることによって、判断を誤ってしまう「逆ギャンブラーの誤謬」という実験もあります。
悲劇を生んだ「コンコルドの誤り」
次の思考実験は、人間の心理と深く関係するものです。
株式投資などで損をし続けているのに、いつか値上がりするはずと考えて、ずっと持ち続け、売る機会を逃して、株が塩漬けになってしまっています。
目先の損を取り戻そうとして、損をし続けてしまう脳のクセを発動させないようにするためには、一体、私たちはどうすればいいのでしょうか?
このまま株が上がるまで持っていた方がいいのでしょうか?
それとも、すぐに売った方がいいのでしょうか?
もちろん、答えは「なるべく早く損切りをする」ということです。
実際に損をすると、損を取り戻そうという自分の考えに傾きがちですが、一時的な損をこうむることになっても、早めに損を確定したほうが、損を膨らませずに済むということです。
損が損を呼ぶ思い込み感情が揺さぶられるときに冷静な判断を欠いてしまうというときがあります。私たちの脳は、損失を利得よりも重く評価する性質、「損失回避性」という特徴を持っています。このために、何か行動をしたときに「損を取り戻そう」という意識が働きやすいのです。
「コンコルドの誤り」または、「コンコルド効果」というのは、イギリスとフランスが共同事業でつくった超音速旅客機コンコルドの名前にちなんでつけられたものです。
コンコルド事業は1969年にスタートしましたが、採算が合わずに1976年に機体の製造が続けられなくなりました。
ところが、イギリスとフランス両国はこれまでの投資が無駄になると考えて、経営難の状態を知りつつ、2003年まで事業を継続し、墜落事故を起こしてやっと事業をやめたのです。
また、「このコンコルドの誤り」を脳の学習効果の1つだととらえる考え方もあります。
たとえば、一生懸命働いた後に飲むビールはとてもおいしいと感じる人が少なくないでしょう。これは、努力をしてつらい思いをしたほうが、得られる報酬が大きいと脳が考えているからなのです。
つまり、損をすればするほど、得られる報酬が大きいと思ってしまうということです。より苦労をしたほうが、得られる報酬が大きいということに因果関係を見てしまうのです。
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