「旧耐震の建物だから危険」は早計 築古マンション購入時にチェックすべきこと
PHPオンライン衆知 / 2024年7月30日 0時0分
マンションの価格高騰が止まらず、都心のマンションを中心にバブル期超えの最高値を更新している。しかしその中でも、資産性を維持できる「選ばれるマンション」と資産性を落とす「選ばれないマンション」の物件格差がかつてないほど広がっているという。本稿では、築古マンションの購入時にチェックすべきポイントについて、書籍『マンションバブル41の落とし穴』より紹介する。
※本稿は、長嶋修著『マンションバブル41の落とし穴』(小学館)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
旧耐震基準で建てられたマンションは絶対避けた方が良い?
築年数が40年を超えるような築古マンションは敬遠する人が多いでしょう。その理由の筆頭として挙げられるのは、耐震基準です。
日本では、大きな地震が起こるたびに建築基準法の耐震基準が見直されてきました。もっとも大きく変わったのは1981年で、1981年5月31日までに適用されていた耐震基準は「旧耐震基準」、それ以降に適用されている基準は「新耐震基準」と呼ばれています。その後、2000年にも基準の見直しがあり、新耐震基準をさらに補強して、地盤調査の規定の充実などが盛り込まれました。これを「2000年基準」と呼びます。
1981年6月以降に建築確認を受けた建物から新耐震基準が適用されていますが、マンションの場合、建築確認を受けてから実際に完成するまでに1年以上かかるので、1982年の夏〜秋以降に建った物件であれば、新耐震基準を満たしている可能性が高いでしょう。
旧耐震基準の建物は、震度5程度までの中規模な地震に耐えられるように設計されています。よって、震度5強よりも大きい地震になると、致命的な損傷を受けるリスクがあります。一方、新耐震基準の建物は震度6〜7の大地震に耐えられるように設計されており、旧耐震の物件よりも大幅に強度が上がっています。
実際、1995年1月に発生した阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた建物の約9割は旧耐震のもので、新耐震の建物の被害は限定的でした。2024年1月の能登半島地震でも、耐震補強がされていない古い木造家屋の倒壊が目立ちましたし、7階建てのビルも倒壊していますが、このビルは1972年竣工の旧耐震の建物だったそうです。
これらの事実を踏まえると、最低でも新耐震以降の基準で建てられた物件のほうが安心ということになりますが、旧耐震基準の時代に建てられた物件のなかにも新耐震並み、もしくはそれ以上に頑丈に作られた建物はあります。また、旧耐震でも耐震補強工事を済ませており、新耐震並みに安全性能を高めているマンションもあるため、十把一絡げに「築古=旧耐震の建物だから危険」と認識するのは早計です。
一方、耐震診断を受けるには費用がかかるうえに、診断の結果で大規模な改修が必要となったとしても、修繕積立金が積み上がっていないケースも多いことから、診断自体受けていない旧耐震マンションも数多くあるのが実状です。
築古物件は都心部に近い好立地に位置するものも多いため、「新築は無理でも、築古の物件なら買えそう」というケースはよくありがちですが、検討する際には耐震診断を受け、耐震改修済みの物件であるか否かを確認しましょう。安いという理由だけで、旧耐震の耐震改修工事をしていない(する予定もない)物件を買うのはNGです。
なお、旧耐震のマンションは資産性が低いと判断されがちなので、住宅ローンを組んで買う場合、金融機関のローン審査を通過するのが難しくなります。以前は、住宅ローン控除も適用不可でしたが、「耐震基準適合証明書(新耐震基準に適合していることを証明する書類)」があれば、控除を受けられるようになりました。
ちなみに、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」は、金融機関の耐震評価基準とは異なる基準を採用しているため、旧耐震の物件を買うときでも借りられる場合がありますが、その際にも耐震基準適合証明書の提出は必要になります。
鉄筋コンクリート造の建物の寿命は100年とも言われるので、全面的に建て替えなくても適切に管理していれば、性能的には築100年経っても住み続けることは可能です。
「マンションの法定耐用年数は47年」と言われることもありますが、これは減価償却の計算に使われる数字なので、マンションの寿命というわけではありません。耐震改修工事をきちんとして、その他の設備も定期的に点検・修理しておけば、築古でも安全に住める状態をキープできます。あくまで管理次第です。
とはいえ、築100年以上経過しているマンションは日本に現存していません。日本では大正時代(1920年代)から「同潤会アパート」に代表される共同住宅の建設が始まり、1953年にはもっとも古い分譲マンションである「宮益坂ビルディング」が竣工しました。しかし、今挙げたアパート・マンションはすでに解体され、新しいマンションなどに建て替えられています。
それ以降に建てられ、現時点で築50〜60年経過しているマンションはたくさんありますが、そのなかにはいまだに管理が行き届いて高い資産性を有している物件もあれば、廃墟同然となっている物件も。その違いは、長年の管理の差によって生じています。
建物は築年数とともに価値が低下していく?
建物の資産価値は、時間の経過とともに下がっていくのが普通です。木造の戸建住宅は築20年以上建つと、価値がほとんどゼロになると言われています。まだまだ住むことができる住宅の価値をゼロとしていること自体、課題ではありますが、築古の戸建住宅の売買価格のほとんどは、土地の価格で売却されています。
一方、マンションはまた事情が違います。管理状態が良い好立地物件であれば、築年数が多少古い物件でも新築時より値上がりしています。
このような物件を購入できれば、何年後、あるいは何十年後かに売却する際、元の買値より高く売ることもできるでしょう。仮に5000万円で買った物件を20年後に7000万円で売却できたとしたら、諸経費などは差し引かれるものの十二分に利益を得られますし、その物件に住んでいた20年分の住宅費を無料にできたことにもなります。
それでは、どんな物件なら値上がり、もしくは価格の維持を見込めるのでしょうか。キーワードとなるのが「管理力」です。最近では管理力に目を向ける買い手が少しずつ増えており、管理計画認定制度やマンション管理適正評価制度を活用して、管理力を対外的にアピールできているマンションは、資産性が高まりやすくなっています。
その好例が神奈川県川崎市のパークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーです。パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーは2009年竣工。タワマン密集地であるこのエリアにおいて比較的早期に建った物件です。
パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーの管理組合は「100年安心計画」を掲げ、100年間にかかる修繕支出を網羅した長期修繕計画を策定しています。後々負担になりがちな機械式駐車場のメンテナンス問題にも早めに対応。ほかにも金融商品への投資や駐車場の外部貸しといった収益事業を手掛け、管理組合が「稼ぐ」ことに注力しています。
管理計画認定制度の認定を取っていますし、マンション管理適正評価制度では最高評価にあたる5つ星に輝いています。さくら事務所では中古マンションの管理力をプロが厳しく審査した物件を掲載するマンション取引サイト「BORDER5」を運営していますが、BORDER5にも管理良好マンションとしてセレクトされています。
こちらの管理組合は広報活動にも積極的で、管理組合がマンションのオリジナルサイトを立ち上げ、継続的に運用するスキームも構築し、自分たちのマンションでどのような管理が行われているかを、こまめに情報開示しています。
管理費・修繕積立金がどれくらい貯まっているか、この先の修繕計画の見通しや履歴など、マンションの管理の状態を記載する資料を「管理に係る重要事項調査報告書」と言います。不動産仲介業者は中古マンションの売買にあたって、この報告書を管理会社から取り寄せますが、パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーでは管理に係る重要事項調査報告書も独自に作成しています。
管理に係る重要事項調査報告書は基本的に統一フォーマットがあり、そのなかに数字などを書き込んで作成していくので、どんなに良い取り組みをしていて管理に自信があったとしても、統一フォーマット上では違いをアピールするのが難しくなります。
しかし管理組合でオリジナルの報告書を作成すれば、時系列で自分たちの行ってきた取り組みを列挙し、魅力を存分に伝えることができます。不動産仲介業者も、物件のセールスポイントをつかんで販売サイトの説明文を書きやすくなるでしょう。こうした努力がほかの物件との差別化につながり、早く、高く売れることに直結していくのです。
実際、竣工から15年経ちますが、2024年時点で新築分譲時より価格が約5割増しになっていますし、同エリアの築浅のタワマンにも負けない価格帯を維持しています。
もっと築古の物件でも、価値を維持、場合によって上昇させているケースもあります。東京・渋谷区広尾の広尾ガーデンヒルズは、竣工1987年で築40年近くにもなりますが、いまだに分譲時を超える価格で取引されています。
こちらのマンションもオリジナルのサイトを運営し、SNSを駆使しながらマンションの魅力を発信し続けています。昔から芸能人などが住んでいてステータス性がありますが、それ以上に住みやすさが知れ渡り、人気を底支えしているのでしょう。管理に自信があり、広報発信力もあるマンションは、相場より1〜2割高く売れる可能性があるのです。
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