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一流のマネジャーほど“内省”している...リーダーシップを鍛えるプロセス

PHPオンライン衆知 / 2024年8月14日 12時0分

大賀康史

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。

今回、紹介するのは『リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する』(中原淳、金井壽宏著、光文社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。

 

マネジャー活躍の魔法の杖はなく、その成長が組織を支える

リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する

まるですべての課題をマネジャーが解決するかのように語る人は多くいます。「メンバーをモチベートできないのはマネジャーのせい」「業績目標が達成できないのはマネジャーのコミットメント不足」「退職者が多いのは、マネジャーの厳しい指導のせい」といったように、マネジャーに対する批判は尽きることがありません。

イノベーションを生み出す主体としてもマネジャーへの期待は高まるばかりです。さらに、多様な人材の活用やハラスメントの抑制などといった、過去の管理職が経験してこなかった新たな経営課題も加わり、マネジャーの仕事はより難しくなっています。

トップマネジメントによる強烈なリーダーシップをとりにくい日本の組織では、ミドルマネジャーはより重要な役割を担います。その対策という名のもと、反射的にマネジャー育成に向けた予算確保と研修会社への丸投げをするだけでは、真のミドルマネジメントの強化には心もとないと言わざるをえません。そのような状況を改善するためには、人材育成への深い洞察を経た育成方針が求められます。

本書は人材育成や組織開発の領域の第一人者である2人の著者により、2009年に出版されたロングセラーです。現代の人材育成の潮流の基盤を知るために、まず参照したい作品と言えるでしょう。

 

成長に寄与する内省支援

人々がもつ成長実感の因子分析から、「業務能力の向上」「他部門理解の促進」「部門間調整力の向上」「視野の拡大」「自己理解の促進」「タフネスの向上」の6つが重要だと認められたといいます。

これらの6つの要素がどのような関わりから得られているかを調査したところ、6つすべてに対して内省支援が大きな影響を持っていることがわかっています。なお、内省支援の影響の大きさは、業務支援や精神的支援との比較で論じられています。

それらの成長実感やモラールの改善に寄与する関わり先は、同じ職場内の人に加えて「社外」が有効とされています。一人前になった後では、「自分はひとりで学んで一人前になった」と考えてしまいがちですが、実際は他者に助けられながら成長していることが示唆されます。そして業務上の具体的な内容よりも、自身の体験を振り返る内省を支援されたときに成長が得られやすいとされています。

ここでも度々登場している内省(リフレクション)の意味を確認しましょう。『リフレクション』の著者である熊平美香氏によると、「成功しても、失敗しても、いずれにしても、経験したからこそ知っていることがある、経験を知恵に変えることができる」という信念に基づくものとされています。

変えられない過去の反省と責任追及をする「反省」とは異なり、本来のありたい姿に近づくために何をすればよいかを明らかにするのが「内省(リフレクション)」です。そのリフレクションはより多面的になされることが望ましいため、他者による支援が有効なのです。

 

経験学習モデルとオフ・ザ・ジョブの内省

経験から独自の知見を紡ぎだす理論として、デイヴィッド・コルブが提唱した経験学習モデルがあります。その考え方は、実際に現場で体験する「経験」、その経験をリフレクションする「省察」、得られた学びをより応用範囲の広い形に抽象化する「概念化」、その概念を新たな場面で応用する「実践」、そしてそれが次の「経験」へと学びが連鎖していくものです。

よく経験か知識かという二者択一で議論がなされがちですが、その双方が重要であることは改めて認識しておくべきかもしれません。米国のロミンガー社によれば、リーダーシップが発揮されるまでの学習の要素としては、体験が7割、上司や顧客などからの薫陶が2割、研修やセミナーなどによる学習が1割を占めるとされています。割合の正確性はわかりませんが、おおむねこのようなウエイトであることは理解しておくと良さそうです。

私はこの記述から、ほとんどのビジネスパーソンは圧倒的に長い時間を業務に費やしているので、他者からの薫陶や自分でできる学習やセミナーの受講などに、もっと時間を費やしてよいと感じます。働き方が柔軟化して、人とのリアルの場、そしてリアルタイムでの関わりが薄くなりやすいので、積極的に他者から学べる仕組みを取り入れていくことが望ましいでしょう。

 

修羅場経験を補完する越境学習

人材育成のコンテクストでよく語られるのが、修羅場経験の重要性です。たしかに人はより追い込まれた状況で腹がすわり、一皮むけた自分に目覚めることが多いようには思います。では修羅場を経験しない人は学べないのかというとそのようなことはありません。

バブル崩壊後の長期にわたる経済の低空飛行を経て、今のビジネスパーソンは終わりのない修羅場にいるとも考えられます。そして、より学習しやすい場として、普段の職場から離れた場所での「越境学習」が修羅場経験を補完するという考え方に、希望が見いだせます。

AIの世界でも、学習していない領域のデータによるモデルの学習効果は大きいとされています。また、ある程度すると学習が飽和し、同じデータで学習しすぎるとそのデータに過度にフィットさせてしまう過学習となり、むしろ新しいデータに適さなくなる、つまり性能が悪化するところも、人の学習との類似性が見出せます。新しい環境における学びを増やすために、組織を超えた学びを促す越境学習は望ましい動きと言えるでしょう。

 

人材開発という言葉をとらえなおす

本書の著者の金井氏によるあとがきに、言葉をより適切にする試みがあります。「人材開発」は「人材発達」あるいは「人材発達支援」に、「キャリア開発」は「キャリア発達」あるいは「キャリア発達支援」に、「リーダーシップ開発」は「リーダーシップ育成」に言葉を書き換えた方がよいと言われています。

人という尊い存在に影響を与えようという試みは傲慢さと紙一重です。「人を育てる」という他動詞で見るよりは、本来「人が育つ」という自動詞のものであり、周りができることはそれを支援することだという謙虚さを忘れないようにしたいものです。

近年より難易度が上がった事業成長という目標は、人の成長と組み合わせられれば、きっとより実現性が上がります。組織で働く以上、業務遂行においても人材育成においても中核となるマネジャーは重要な存在です。ただその中核の存在を育てることは難しく、それゆえにどの会社でも課題を抱えています。

著名な2人の研究者が相互に高め合いながら議論を展開していく本書は、本質的な内容が込められていて、しかも読みやすく仕上げられています。優れたマネジャーが育つ組織にしたいと願う人や、より高みを目指したいマネジャーこそ読んでおきたい一冊です。

 

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