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千葉ロッテ・吉井理人監督が語る、選手が「臆さずに意見を言える環境」を作る重要性

PHPオンライン衆知 / 2024年8月28日 11時50分

吉井理人
photo/小川孝行

WBCで投手コーチとして侍ジャパンと共闘し、千葉ロッテマリーンズで監督として就任初年度で前年5位のチームをAクラスにまで引き上げた吉井理人監督。

筑波大学大学院でコーチングを学んだ経験を持つ、球界きっての知将が「自ら伸びる強い組織=機嫌のいいチーム」づくりの秘訣とは? 今回は「機嫌のいいチームづくり」の土台となる「おくさずに意見を言える環境」の大切さについて、書籍『機嫌のいいチームをつくる』より紹介します。

※本稿は『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。

 

独りよがりなリーダーではチームは強くならない

2023年は1年目だったので、監督としての「やり方」はわからない。そのため、基礎は今まで学んできたコーチング理論を使ってみようと思った。

1年間、監督を経験して、監督とコーチはまったく別物と実感した。コーチング理論はコーチたちにしっかり学んでもらい、それをもとにコーチが選手に接するかたちが望ましい。私も、監督としてときには選手を呼んでコーチングをすることもあるが、ほとんどはコーチと選手のやり取りを見ていることになるだろう。

監督は、選手が主体性を学ぶための環境設定や、選手が主体性を獲得するための質の高いコーチングを担うコーチの育成環境を整えることが仕事になる。

監督は、自分ひとりではできない仕事だ。チーム力を高くし、常勝チームにするためには、選手を中心として、さまざまな人がサポートに携わらなければならない。その中心となるのが、中間管理職たるコーチなのだ。

私が前著『最高のコーチは、教えない。』で伝えたかったのは、コーチが選手の主体性を育むサポートができれば、選手は自ら勝手に成長していくということだ。監督は、その環境を手厚くサポートするだけでいい。

チーム力を高めるには、観点の異なるさまざまな意見が必要だ。監督ひとりの考えを推し進めるだけでは、チームにレジリエンス(しなやかな強さ)は生まれない。

私がピッチングコーチ時代は、監督に意見を言いすぎるぐらい言っていた。嫌がられているのはわかっていたが、だからといって意見を言うことはやめなかった。それは、選手のことを第一に考えていたからだ。選手にとってデメリットになることは、たとえ嫌われても言わずにはいられなかった。

しかし、私と同じように監督に意見を言うコーチはほとんどいなかった。監督が示した方針に基づき、監督から提示された役割を理解し、それを選手に向けて実践するのがコーチとしての仕事だと思っている人が多い。監督の考えに疑問を持っても、それは違うと言える人はいなかった。

私は、コーチが自分の考えをのみ込むことが選手やチームにとってむしろマイナスになると思っていた。もちろん、決めるのは監督だ。コーチが意見を言っても、採用されるかどうかはわからない。それでも、意見を言うところまではコーチの権利と義務だ。その権利と義務を放棄するのは、職務怠慢である。逆の立場になった今、コーチ自身が言いたいこと、言わなければならないと思ったことを言える環境を構築したい。

 

チームの思考を活性化させる

チームには、さまざまな分野に従事する人が集まる。専門分野では一流の仕事ができる人たちである。彼らの意見を監督が集約し、自分の考えに反映させるのは当然のことだろう。

しかし、それだけではまだ偏りは払しょくできない。それぞれの分野のプロフェッショナルが、ほかの領域についても考えることで、新たな意見が生まれる。その斬新な考えを監督が取り入れ、熟考することで、新しい何かが生まれる可能性がある。

だが、多くの人は、ほかの領域に対して、その領域の専門家と同じようなレベルで知識や経験を持たない。だから、専門分野以外の領域に踏み込むことを躊躇する。反対に、自らの専門分野を侵犯されることも、極端に嫌がる。その結果、自分の専門領域以外のことについて思考を巡らすことがなくなっていく。

これでは、新たな意見は生まれない。監督がやるべきことは、知識や思考のレベルの違いがあったとしても、臆さずに意見を言える環境を構築することである。チームを強くするために、専門家と専門外の人が意見を戦わせるようになれば、チームの思考が活性化するだけでなく、さまざまな選択肢が増え、選手にとってのメリットが生まれる。

もちろん、素人が専門家に直接意見をするのは避けたほうがいい場合もある。そのときは監督が間に入って意見を集約し、チームの戦略や戦術に反映させればいい。

これを実現するために私が実行したのが、「シーズン前の全体ミーティング」である。チームの課題について、領域の垣根を取り払って意見を出し合って方針を決めていった。

 

チームを一度壊さないと新しいものは生まれない

このミーティングを開くときに参考にしたのが『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP)という本である。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授が書かれたもので、物事をつくり上げていくためには、データと経験をうまくミックスさせて新しい思考を生み出さなければならないと説いている。

この本を知り合いの医師の方にいただき、読んでみて共感を覚えた。さまざまな人の意見が聞けて、みんなで課題について話し合えれば、斬新で効果的な意見が出てくるかもしれない。野球をやったことがない栄養士の女性に、2022年のチームの反省点や課題について聞いたら、野球経験者にとって新たな気づきがあるかもしれない。

そもそも、同じことを繰り返していてもチームは同じようにしか進まない。私は、監督就任とともにチームを壊してやろうと思った。チームを一度壊さない限り、新しいものは生まれない。常勝チームに生まれ変わるきっかけがつかめないと思ったからだ。

ただ、いきなり壊しにかかるのはあまりにも乱暴すぎる。そこで、まずは従来関わったことがなかった人の意見を聞き、そこから方針を決めようと考えた。むろん、監督の強権と独断でやろうと思えばできる。しかしそれでは、ただ壊しているだけになってしまう。生産的な壊し方をするには、さまざまな人のさまざまな意見を聞き、そこから新しい考えを引き出していくのが効果的だと理解していた。

言うまでもなく、監督である私の考えもある。監督として、これまでの人と違う色を出したいという思いもある。何かを残したいという欲望もある。ピッチングコーチ時代もそう思うことがあった。

だが、それでは選手がハッピーにならないことに気づいた。だからこそ、選手のため、チームのためになり、なおかつ新しいことを見つけたい。そのひとつの方法が、さまざまな人の意見を聞き、みんなで話し合って決めていくやり方である。

もちろん、私が考えていたものと違う方向に行ってしまうこともある。その場合は、みんなで決めたからといって鵜呑みにする必要もない。もう一度自分で考え、それでも納得できなければ、再びみんなに提案する。

「いろいろ考えたけれど、私はこう思う。どうかな?」

それでもみんなの意見と自分の意見が異なれば、自分の方向を変えるかもしれない。あるいは、自分の考えで最終決断するかもしれない。

重要なのは、さまざまな人の頭を通じて、意見を揉んでいくことだ。ひとりの頭で揉むより、大勢の人の頭で揉んだほうが、意見は成熟していく。偏りもなくなる。監督ひとりの考えは、多くの人の知恵を集めた意見にはとてもかなわない。

 

「とにかく、ピッチャーをひとりにしないでほしい」

スタッフ部門だけでなく、選手間でも意見を言い合える環境もつくりたい。ピッチングコーチ時代、内野手にこうお願いしていた。

「ピッチャーの様子がおかしいと気づいたら、マウンドに行ってあげてほしい」

言うべきことがあれば言い、声をかけなくてもいい。

「とにかく、ピッチャーをひとりにしないでほしい」

試合進行の遅延を避けるため、キャッチャーが試合を中断してマウンドに行ける回数は決まっている。困っているとき、雰囲気や流れが悪いときは、少しでも時間を取ってくれるとピッチャーの心理負担は変わる。その役割を、キャッチャー以外にも担ってほしいという狙いがあった。

勝利という目的のために、選手個々ができることを持ち寄る。そのためには、勝利という目的のために最適な行動を、主体的に考えて編み出さなければならない。そのとき、違う意見がぶつかり合うこともある。その衝突は、目的に向かって主体的に考えている証である。

そのような経験を繰り返していくと、野手が投手の置かれた状況や気持ちを理解するようになっていく。最終的には、監督が何も指示しなくても、ファースト、セカンド、ショート、サードがマウンドに行き、最適な声がけができるようになっていく。

衝突することが最適であれば、喧嘩をすればいい。優しく声をかけて落ち着かせるのが最適であれば、それをやればいい。

何が最適か。それを一人ひとりが主体的に考え、実際に行動できるようになってほしい。その域に到達するまでは、監督が選手を導く必要がある。

 

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