世界で活躍する研究者が行っていた「パフォーマンスを最高レベルに高める」習慣
PHPオンライン衆知 / 2024年10月18日 11時40分
優秀で仕事がデキる人は、他の人と一体どこが違うのでしょうか? 本稿では、書籍『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』より、脳科学者の中野信子さんが出会った"世界の頭のいい人"が、仕事で高いパフォーマンスを発揮するために実践していたことについて紹介します。
※本稿は、中野信子著『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)の一部を再編集したものです。
一緒に話しているだけでこっちまで賢くなった気になる
フランスの研究所時代の同僚のFさんは、若手の中ではかなりの注目を集めている研究者です。3ヶ月に一本という信じられないスピードで論文を発表し続け、31歳の若さで自分の研究室を持ったほどです。現在は、母国オランダでも屈指の研究施設で、准教授として活躍しています。
研究施設に入るにあたり、彼は5つもの研究所から「ポストを用意するから来てほしい」というオファーを受けました。どこか一つを選ばなければならないので、「断るって、本当に神経を使うよね......」なんていう贅沢な悩みまで口にしたほどです。こちらは研究所での任期のことで悩んでいたというのに! 私にも神経を使ってほしい......。
それはさておき、Fさんはパリ出身でもないのにパリのことをよく知っています。いろいろと面白いお店や、マイナーな美術館やギャラリーなんかに案内してくれたりもしました。映画や音楽にも、ものすごく詳しい人でした。好奇心が本当に旺盛なんです。
さらに重要なポイントとして挙げたいのが、Fさんには研究室のムードをポジティブにする雰囲気があったという点です。彼と話をしていると、何だか自分の頭まで明晰になったような感じがして、気分がとても晴れ晴れとしてきて、やる気が出るのです。
さて、このFさん、どうしてこんなにデキる奴なんでしょうか。研究が大好きだからでしょうか? そもそも、Fさんの頭のつくりが違うのでしょうか?
自分ができることとできないことを知ろう
確かにFさんは、頭のいい人です。でも、私たちがいたのはフランスでもトップレベルの研究所でしたから、Fさん以外にも頭のいい人はたくさんいたのです。というよりむしろ皆、その国を代表するような頭のいい人たちでした。その中でもFさんが際立っていたのは、一体なぜなのでしょう?
Fさんが他の人と違っていたポイントは、自分の実力を客観的に評価できることでした。いわゆる優秀な人というのは、周囲からすぐに褒められます。それで自信過剰になったり、逆に「安心してはいけない」と思うあまりに焦って、ストイックになりすぎてしまいがちなのです。
そんな中でFさんは、自分の能力を、冷厳なまでに正確に把握していたのでした。オランダ人らしい合理主義の賜物ともいえるかもしれません。
「自分に何ができるのか」はさておき、「自分に何ができないのか」をきちんと見積もることは、意外に難しいもの。それは、皆さんにも経験があるのではないかなと思います。
Fさんの、自己に対するそうしたクリアなまなざしは、友人として見ていてもとても気持ちのいいものでした。同僚たちは皆、そう感じていたと思います。またそれが、Fさんの人柄の魅力でもあったのです。
自信をつけることでマイナス部分も受け入れられる
彼の、自分自身のマイナス部分を受け止める力は、仕事をこなす技術とはまったく関係のない「人間としての自信」に由来しています。ゆるぎない自己肯定の基盤を持っているからこそ、自分のマイナス部分も悠然と受け止め、分析することができます。
そして彼は、そこからいくらでも成長していくことができたのです。ということで、自己分析を始める前に、自分のプラス部分とマイナス部分を正確に把握するための、「人間としての自信」を築いていくことを提案したいと思います。
自信を築くためによく効く方法を紹介しましょう。まずは、自分の最も嫌いな部分、それも思い出したくもないような後悔している出来事を、どんどん挙げていきます。
次に、それらを徹底的にポジティブに捉え直していくのです。この方法は、臨床心理における認知行動療法でよく使われる「系統的脱感作」に近いものです。精神的にしんどい作業かもしれません。
でも、この作業によって、プラスがゆるぎないものになったら、あなたはもうどんなことにも動じません。時間はかかるかもしれませんが、この先いくらでも飛躍していける、成長の基盤を手に入れたも同然なのです。
自分を追い込むことで成果を残してきた
図1.ヤーキーズ・ドッドソンの法則
ドイツ人のEさんは、神経内科の優秀な医師。研究に対する意欲が高く、臨床もこなしながら、研究者としてのキャリアを積み上げていっている女性です。出る必要のない学会でプレゼンをする機会を作ってみたり、なんだかんだと研究会に出かけていったりして、アスリートのように自分を追い込みながら仕事をするスタイルをとっていて、そこでいつも人並み以上の成果を出していました。
自分にプレッシャーをかけるのが好きな性格なのかもしれません。ここで、「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」という心理学の基本法則を紹介したいと思います。
「覚醒レベル」と「学習パフォーマンス」の間に逆U字曲線型の関係があることを明らかにした法則です(図1を参照)。心理学者のヤーキーズとドッドソンが、ネズミを使った実験で発見しました。
この法則が示しているのは、極端にストレスがなさすぎる場合や、逆にものすごいプレッシャーがかかり、ストレスにさらされている場合には、記憶や知覚のパフォーマンスが低下してしまうこと。
逆に、適度なストレスが学習パフォーマンスを最高レベルに高めてくれるのです。この法則はネズミだけでなく、人間にも当てはまります。一時的な感情によるストレスと、知覚や記憶のパフォーマンスとの間には、このような関係が成り立つと考えられています。
適度なストレスは必要なもの
Eさんはこの「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」を知っていて、あえて適度なストレスを自分に与えていたのでしょう。ドイツ人らしく、ただ生真面目に振る舞っているように見えますが、研究成果を残したり発表したりするために、あえて自分を適度に追い込んでいたのだろうと思います。自分のパフォーマンスをコントロールするのが上手なのだともいえるでしょう。
ある程度のプレッシャーにさらされたほうが効率よく、適確に仕事ができる、というのは誰しも経験があることだろうと思います。例えば、明日までに論文を書いてしまわなければならない、プレゼンテーションの資料を完成させなければならないなど。その前日や夜にものすごい集中力で仕事が進むということは、よくある話ではないでしょうか。
ストレスは人間に必要なもの。ある程度のストレスはあなたのパフォーマンスを最大限に高めてくれるものなのです。
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