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アナウンサーを25年続けて気づいた「聞き出し上手な人の一つの特徴」

PHPオンライン衆知 / 2024年9月5日 17時0分

相手の目線に立つコツ

テレビ朝日系の報道番組「報道ステーション」のメインキャスターを務め、現在はトヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズ」でキャスターとして活躍する富川悠太氏。

25年ものキャリアがある富川氏だが、元はと言えば人見知りで伝える力がなかったと振り返る。試行錯誤しながら取材を続けてきたご自身の経験は、著書『報道、トヨタで学んだ伝えるために大切なこと』にて綴られている。その中から、聞き上手な人に共通する「相手の視点に立つ」ことに関する一節を紹介する。

※本稿は、富川悠太著『報道、トヨタで学んだ伝えるために大切なこと』より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

相手の視点に立った聞き方

この人に聞かれると、ついつい何でも話してしまうという人が身近にいませんか?その聞き上手の人のコツは「話すときと同じく、自分の視点から離れて、相手の視点に立つ」ということです。

取材、インタビューなど、質問をして相手から情報を得たいとき、相手の視点に立つことができるとうまくいきます。いま、相手が聞いてほしいと思っていることは何だろう、言いたいと思っていることは何だろうと考えてみるのです。

うまくいかない取材やインタビューの例は、「自分の聞きたいことだけ聞く」というものです。いきなり質問をして、答えだけ聞けたら終了するなんて自分勝手もいいところ。それどころか、自分の聞きたい答えではなかったといって機嫌の悪くなる人は、いつまで経ってもよい情報を得られるようにはならないでしょう。

......なんてえらそうに言いましたが、私も以前は数多くの失敗をしていたのです。テレビ局に入社してからしばらく、苦痛で仕方なかったのは「街録(街頭録音)」です。「街録」とは、街で道行く人に声をかけ、インタビューしたものをVTRにすることです。

あるニュースに対する反応や、「夏休みはどこに行きますか?」「マイブームは何ですか?」などリアルな声を拾っていく、あれです。ニュース番組、情報番組の定番ですから、きっと見たことがありますよね。街で声をかけられたことのある人もいるでしょう。

先に触れましたが、私は昔から人見知りで、初対面の人に気軽に話しかけるようなことができません。毎回、緊張してしまうのです。

「すみません、『スーパーJチャンネル』という番組ですが、ちょっとお話いいですか?」

こう声をかけるのですが、ものすごく勇気が要ります。いやな顔をされたり断られたりしてシュンとすることがしょっちゅうでした。でも、これが仕事です。やらなければなりません。何とか自分を鼓舞して、必死に声をかけ続け、ようやく撮れた頃にはグッタリという日々でした。

この頃、私の意識の中心は「どうやって質問に答えてもらおう」というところにありました。インタビューに対する返答が欲しかったのです。つまり、自分主体だったわけです。道行く人がせっかく立ち止まってくれても、すぐに収録に必要な質問をしていました。だからうまくいかなかったし、苦手意識から抜けられませんでした。

しかし、あるときから「街録」が楽しみで仕方なくなりました。それは、相手の人が「どんな人なのか知りたい」という意識に変わったからです。

いきなり聞きたいことを聞くのではなく、「お子さんかわいいですね。何歳ですか?」「お買い物帰りですか?重そうですが、どんなものを買われたんですか?」などとその人に関する雑談から始めるようにしたのです。すると、たいていの方はにこやかに答えてくれます。自分自身に興味をもって話を聞いてくれる人のことは、嫌いになれないんですね。

「これこれのニュースについてどう思うか聞いているんですけど......」と本題に入ると、「ごめんなさい。よくわからないので答えられないです」と断られることはもちろんありますが、落ち込むことはなくなりました。むしろ、いろいろな人の考えが聞けて、勉強になる仕事だなぁと思うようになったのです。

最初の「すみませ〜ん」の声も明るく元気になって、立ち止まってもらいやすくなりました。「相手の視点に立ちたい」という意識をもてば、人見知りも乗り越えられるのだとわかりました。そのうえ、相手が積極的に話をしてくれるのですからいいことずくめです。

 

心に少しだけお邪魔をすれば、「ここだけの話」をしてくれる

リポーターや記者でなければ、なかなか他人の家に上がり込んで話を聞くことはないかもしれません。でも、「相手の心に上がり込む」ことならできるのではないでしょうか。

「相手の心に上がり込む」なんて失礼ではないか、と思う人もいるでしょう。相手の目線になることを意識して、役に立てることを探しているうちに、相手は心の扉を開いてくれるのです。そのときに、少しだけお邪魔するという気持ちでもいいと思います。

これができれば、相手は「ここだけの話」をしてくれます。「どうせ理解してもらえないから、一般的なことを言っておこう」ではなくて、「あなたにならわかってもらえそうだから、話します」という気持ちになってくれます。

2014年、強盗殺人などの容疑で死刑判決を受けていた元プロボクサーの袴田巌さんが釈放されるというニュースがありました。1966年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)にある味噌製造会社の専務の家が放火で全焼し、一家4人が亡くなった事件で袴田さんは逮捕され、裁判が続いていたのです(袴田事件)。

袴田さんは無実を主張し続け、逮捕から48年の時を経て、釈放されるに至りました。いったいどんな気持ちでしょうか。捜査機関が証拠をねつ造するなどして逮捕され、死刑の恐怖もありながら裁判で戦い続けて50年近くも経っているのです。

いくら想像しようとしても、同じ立場に立つことはできません。でも、いまの袴田さんにできるだけ寄り添って「役に立てることはないだろうか」と考えることはできます。

袴田さんを信じてずっと支えてきたお姉さんの秀子さんが、静岡から東京拘置所に接見に行く日、秀子さんが東京へ行く新幹線の中で、私はインタビューさせていただきました。ちょうどお昼の時間だったのでお弁当を買って、食べてもらってからインタビューに答えていただけるよう準備しました。

そして、東京駅に着いてからの予定を聞きました。役に立てることはないか知りたかったからです。秀子さんは、東京駅から東京拘置所までどうやって行くかまだわからないと言います。私は車を手配しま
した。袴田さんに接見後、議員会館へ行って陳情する予定もあるそうなので、「一日貸し切りで私たちの車を使ってくださいね」と伝えました。

秀子さんが東京拘置所の袴田さんに接見している間、私は駐車場の車の中で待っていました。車を使ってもらうために待っていたのです。私は会社の車を用意してもらうよう頼み、その車が到着するまで待っているという状態でした。

突然、袴田さんの弁護士さんから電話がありました。

「富川さん、いますぐ車を拘置所につけられますか?実は、たったいま仮出所できることになりました。袴田さんと秀子さんが一緒にホテルまで移動したいのですが」

驚きました。予想していなかった展開です。

「まだ代車が到着していないんです。私とカメラマンの二人が乗っているいまの車でもかまいませんか?」

そして、私が乗っている車に、約50年ぶりに釈放された袴田さんが乗って一緒に移動することになったのです。塀の外に出た袴田さんが、車に乗り込み移動する様子はあらゆる局で報道されましたが、その車には私が乗っていたというわけです。周りからフラッシュが焚たかれる中、私は映らないように後部座席に体をかがめて隠れていました。

袴田さんと秀子さんの宿泊先を探して押さえ、お連れしたのですが、途中、袴田さんが車酔いをしてしまったり、トイレに行きたくなったりしたとき、私がエスコートするかたちになりました。

「内側から戸を閉めて鍵をかけてください。私は外で待っていますからね」「ここに手をかざすと、水が流れるんですよ」などと言いながらついていました(拘置所のトイレには扉がついていないので、扉を閉めて用を足すという感覚がなかったのだと思われます)。

私たちの車は、記者たちに追いかけられていました。ヘリもバイクも追いかけてくる中、袴田さんが少しでもほっとできるように、私にできることを探してやるのみです。私は報道する側の人間ですが、袴田さんの気持ちを考えたら、いまは少しそっとしてあげてほしいと思ってしまいます。

「ケーキが食べたい」という袴田さんに、ケーキも用意しました。もう遅い時間で、あちこち電話しても見つからなかったため、「いまはコンビニのケーキっておいしいんですよ」と言って、コンビニで買いました。

ホテルに伝えると、ホテルでもケーキを用意してくれたので、その日のホテルのテーブルは華やかになりました。

テレビ朝日に「袴田さんをホテルにお連れしました」と報告すると、「ホテルでの様子を撮れないか」と言われました。「仮出所後、初めて布団で寝るところを撮ってほしい」と。私は、さすがにそれは......と思いつつも、袴田さんと秀子さんに聞いてみました。すると、「富川さんだけならいいですよ」。私だけが部屋に入り、デジカメで撮影することを許してくれました。

私はスクープを狙っていたわけではないのですが、結果的に独占取材、スクープとなったのです。これも、相手の目線になって、そのとき役に立てることを探しているうちに、相手の心に上がり込むことができた例だと思います。

 

相手の目線になるには

相手の目線になるというのは、言うのは簡単ですが、実際にやるのは難しいものです。ただ、私がそうだったように、「相手の目線になろう」「相手の立場に立とう」という意識をもつだけで変化します。実際にできているかどうかは置いておいて、まずはその意識が大事です。

たとえば、登校中の児童たちが車との接触事故で怪我をした情報が飛び込んできたとします。現場に行き、実際にその通学路を歩き、手を広げてその道の狭さを伝えながら歩きます。その地域に住む人たちの生活の中に入り込んで感じて伝えることが大切です。そうすると行政の取り組みの問題点も出てきて、ガードレールが設置されることもあるわけです。

自分と相手の立場が大きく違っていて、相手の目線になるのがとくに難しい場合はどうしたらいいでしょうか。その場合は、相手の立場を想像するためにできることを探します。相手と同じ行動をとる、相手と同じ環境に身を置くなど、話を聞く以外にもできることがないか探してみてください。

たとえば、男性が妊婦さんの目線になるのは難しいですよね。そこで、よく両親学級などで、これからお父さんになる男性がお腹周りに7kgほどの重りをつけて妊婦体験をします。もちろん、この体験だけで妊婦さんの目線になれるわけではないですが、体験前と比べれば大きく違うはずです。

そのほか、本を読むのもいいと思います。相手の方が本を書かれていればもちろんそれを読みます。そうでなくても、立場の似た人の本を探して読めば、相手の目線になりやすくなります。

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