知能が高い人が、人生で成功するとは限らない...本当に必要な“EQ”とは何か?
PHPオンライン衆知 / 2024年9月6日 12時0分
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン著、土屋 京子訳、講談社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
EQとは何か
EQという言葉は一般用語として定着してからずいぶん経っています。そのEQという概念を広めた本書は1995年に刊行されて以降、世界で500万部、日本でも90万部の販売部数を誇るといわれるロングセラーです。
EQはIQとの対比で用いられます。本書の前書きには、「IQの高い人が必ずしも成功せず平均的なIQの人が大成功したりする背景にはどのような要因が働いているのだろうか」という問いが書かれています。また著者は、「社会に出て成功するのに必要な能力はIQが2割、EQが8割」とも言われています。
ではそのEQとはどのようなものでしょうか。こころの知能指数とも表現されるEQを表す能力を列挙します。衝動をコントロールする、快楽を我慢できる、自分の気分をうまく整えられる、感情の乱れに思考力を阻害されない、他人に共感できる、希望を維持できる。どれも心が成熟した人が備えた能力ともいえそうです。
IQは経験や教育の力で大きく変えられない一方で、EQは重要な部分を子供のうちに教えれば後に向上させることが可能です。そして、EQは知能をはじめとするさまざまな能力をどこまで活用できるかを決めてしまうので、個々の能力の上位概念となる「メタ能力」とでも呼ぶべきものです。以降でもう少し、EQの理解について掘り下げてみましょう。
7種類の知性
ハーバード大学教育学部の心理学者ハワード・ガードナーによれば、人生に有用な知性は広範多岐にわたるといいます。大別すると7種類で、「言語的知性」「論理数学的知性」「空間的知性」「身体運動的知性」「音楽的知性」、そしてEQの領域となる「対人知性」「心内知性」で構成されています。
なお、IQの値はこの7種類の知性を予測できる指標とはならないこともわかっています。特にEQとのかかわりの強い「対人知性」は他人を理解し、まわりの人と協調して動くにはどうすればよいかを洞察する能力です。そして「心内知性」は、自分自身の内面に向けられる知性であり、自分の中にある感情を理解して、優れた行動指針を生み出す能力となります。
ここまでEQについて様々な特性を触れてきました。多くの場面でEQが発揮されることが想像できるはずです。家庭では、円満な夫婦関係を構築していくために、パートナーがどんなことを望んでいるかを想像することが大切になるでしょう。友人関係も同様の能力が求められることは明らかです。
仕事でも一人のIQ的知性で完結できることはほとんどありません。社内外の様々な人の協力を得ながら仕事を進めることがほとんどでしょう。営業では商談相手が考えていることが洞察できるか、リーダーであれば自分が何を目指しているのか、メンバーが何を考えているかを深く理解できる能力は極めて重要です。
私生活でも仕事でも活用される場面の多いEQは、人生をより豊かなものにするためにとても重要な役割を果たすのではないでしょうか。
組織のIQを高めるEQ
イエール大学の心理学者ロバート・スターンバーグと助手のウエンディ・ウィリアムズによると、複数の人間が協力し合って仕事を行う際に、グループIQが発揮されるといいます。グループIQという言葉は、言語能力、創造性、共感能力、技術力などの様々な能力や才能が集結することを指しています。
このグループIQの高さを決めるのは、メンバーのIQの平均値ではなく、EQの高さです。つまり、グループとしての能力や生産性は、個々の能力の高低ではなく、人間関係で決まるとも言い換えられます。
また、個人の能力が問われるイメージがある研究者の世界でも成果とEQに強い関係があります。世界的に著名なベル研究所の卓越した成果を残している上位10から15パーセントの花形研究員について調べたところ、他の研究員と比べて知能テストの結果にほとんど違いがなかったといいます。ところが、花形研究員は仕事上の人間関係が他の研究員と異なっていました。
花形研究員の周りには信頼関係で作られたネットワークがあり、緊急事態には頼りにできる仲間が多くいたそうです。このようなインフォーマル・ネットワークには、コミュニケーション、専門技術、人望のネットワークが含まれます。花形研究員たちの行動のように、EQの発達がグループIQにはなくてはならないもので、企業の競争力にも影響を大きく与えます。
現代においては人生の成功よりも幸福の追求
ここまで本書の内容からEQの役割について、IQとの対比を含めて紹介してきました。初版から30年ほど経っているので、時代背景のところが若干変わってはいますが、おそらく今でこそよりEQが求められているように感じます。
人生の成功というと、特に本書が出版された1990年代においては、出世などを通じた社会的な地位や、金銭的な裕福さがイメージされていたように思います。しかし2020年代になって、出世などの限られた人しか勝ち抜けない競争や、金銭的な裕福さのような上には上がいる領域の目標を立てる人は少なくなってきています。人生の成功をそれらとみなすと、結果的に挫折を味わうことになる人が多いからだと想像できます。
そして、今多くの人が求める幸福の追求や、自分らしさの追求においても、やはりEQは大切な要素になっていくでしょう。人という社会的動物の幸せに対しても、まず自分を深く理解したうえで構築される、周りの人との良質な人間関係が大事なことは間違いなさそうです。
最近トレンドとなっている、エンゲージメント、自律的組織、心理的安全性などの言葉は、EQの一部を組織として実装されたもののようでもあります。より抽象化してとらえれば、EQは現代の企業環境でも大いに活かせる概念なのです。
ロングセラーにも様々なものがありますが、本書のように現代に続く様々な理論の下地となった作品に触れ、時代の変遷によらないその概念の普遍性に思いをはせてみてはいかがでしょうか。読者の人生における、たしかな生きる指針がえられるはずです。
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