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日本の管理職は「多忙すぎる雑用係」 昇進するほど市場価値が低下するジレンマ

PHPオンライン衆知 / 2024年10月7日 12時0分

大賀康史

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。

今回、紹介するのは『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(小林祐児、集英社インターナショナル)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。

 

年々難しくなる管理職の仕事

罰ゲーム化する管理職

本書のタイトルとなっている『罰ゲーム化する管理職』という言葉はインパクトがあるものの、まったく違和感がありません。今、多くの企業の管理職が、自身に求められることの多さとその見返りの少なさに戸惑っているように思います。

特に管理職になり始めのときに、今までとの仕事のギャップに苦労します。マネジャーや課長の仕事は多岐にわたり、その全てを完璧にこなす人はごく一部、いえ、ほぼいないと言えるでしょう。

なぜこんなにも管理職は大変になったのでしょうか。この数十年の間に起った様々な変化を思い出してみましょう。

本書によると、管理職の仕事を難しくした要素として、経済の長期停滞、人手不足、コーポレート・ガバナンス重視、組織のフラット化、ダイバーシティ重視、ハラスメント対策強化、労働時間管理圧力、テレワーク、などが取り上げられています。

もちろんどれも大切なことではあります。ただ、これらへの対処にそれぞれ少しずつ負担がかかることから、結果として管理職にしわ寄せが相当きているようです。

最近出版されるビジネス書の中でも特に、組織運営や人材育成に関わる本は存在感を示しています。本に救いを求める人が増えるほどに、現代の管理職は過去と比べて難易度が上がったようでもあります。では、罰ゲームとも感じられる管理職とはどんなものか、本書の内容に触れていきたいと思います。

 

日本における管理職の市場価値

日本では正社員として入社さえしてしまえば、自らの意思とは関係なく、ほとんどの人が「未来の幹部層候補」として扱われます。つまり、入社と同時に管理職昇進を待つ長いウェイティングリストに並び、手を挙げなくても管理職やその登用試験を打診されていきます。そして、家庭の事情で時短勤務を選ぶ際などに昇進を断ることが、昇進しないという意思の表明だと考えられます。これをオプトアウト方式と著者は呼んでいます。

一方で、海外先進諸国の昇進は原則的にオプトイン方式だと言われます。入社の段階でハイレベルな教育を受けていることが管理職候補の条件となっていて、近年その傾向が強まっているといいます。欧米の大手企業の役員以上の幹部は、ほとんどが修士号か博士号を持っている人で占められています。

なお、ジョブ・ローテーションによって様々なポストを経験するため、日本の管理職は広報・経理・営業などの専門性の高さを示すものではなく、社会階層の高さを示すものとなっています。この専門性の高さを示さない、多忙すぎる雑用係に堕ちた日本の管理職は、企業を横断した転職市場マーケットで明確な強みが打ち出せずにいます。そして、「管理職になると、市場価値が低下する」という逆説的な事態となります。

それだけの代償を払った管理職は、大手企業を中心に敷かれている「役職定年」によって不幸な結末を迎えます。年齢という実力とは関係のない基準でおろされる結果、「あまりに理不尽で、やる気がまったく出なくなった」「会社っていったい何だったのか」というように、ショックの大きい状況に追い込まれるのです。

 

罰ゲーム化の修正法① フォロワーシップ・アプローチ

罰ゲーム化に対して、本書で挙げられている4つの対処法のうち、2つを取り上げます。まず、フォロワーシップ・アプローチです。これは管理職の部下である「メンバー層」へのトレーニングを増やす、というアプローチを指しています。つまり、階層型研修でどうしても手薄となりがちな、非管理職である中堅以上のメンバー層への訓練を拡充することを意図しています。

近年は人材の再活性化や再配置を目的としてなされるDX研修がリスキリングの中核として扱われています。しかし、デジタル技術の習得に偏りすぎてもいます。この文脈で主に注力すべきなのは、ITスキルのようなオペレーショナルなスキルではなく、対人関係やコミュニケーション、部下育成といった「ピープル・マネジメント」の領域についてです。

一般的に管理職のみを対象にした研修では、仕事のキャッチボールの投げ手だけの訓練になっていて、その受け手であるフォロワーシップが育っていません。そして、管理職であるリーダーに万能性を求め、リーダーは疲弊していきます。それを避けるためにも、主にコミュニケーション課題を克服する研修を広く行うことで、組織を再度活性化していくのです。

 

罰ゲーム化の修正法② キャリア・アプローチ

もう一つは、キャリア・アプローチです。日本では幹部層候補を探していく際に、正社員全体を同様に扱い育てていくことが主流です。まるで水田で稲を均等に育てることに似ています。日本のキャリアは主に32歳から35歳で主任級、38歳前後で課長級、45歳以降に部長級という年齢別のキャリアコースが用意されています。いわば「年輪型」の秩序になっています。

一方で、欧米企業の多くでは、選抜された社員以外を幹部候補として見ることはなく、育っていく過程で少数の優れた実、いわば「高級メロン」を育てるような選抜スタイルだといいます。

著者は日本でもそのような次世代リーダー候補の絞り込みを早期に行い、少数向けの特別な育成やトレーニングを実施することを薦めています。また、それ以外の管理職は、広いジョブ・ローテーションをやめ、一定の専門領域を深めるトレーニングに注力すべきだとも言われています。

平等な出世機会・研修・報酬が日本企業で伝統的に重視されている中で、本格的に新たな方針に移すと様々なハレーションの発生が想像されます。それでも過度な平等主義をやめることで、むしろ多くの社員に対して、明確な専門性を持たせて転職市場でもつぶしが効くキャリアを与えられるでしょう。

 

管理職は罰ゲームなのか

管理職は本当に罰ゲームなのでしょうか。著者は、管理職になることは、自らの仕事人生を「贈与する者」として位置づけなおすことだと言われています。まさに、管理職になったからこそ到達できる境地なように感じます。

難易度の高い管理職という仕事に対して、誰しも初めはとまどうことと思います。その後社会人として輝かしいキャリアを築いた人でも、マネジャーに初めてなった年は気負いすぎて空回りしていた人は多くいます。

ただ、もし管理職への道が打診されたのだとしたら、誰かが適性を感じているはずですし、一度前向きにとらえてみてはいかがでしょうか。当初は罰ゲームだと思えたことでも、しばらくするとコツをつかんで今まで以上のやりがいを感じるときも訪れるでしょう。

そのような苦労とやりがいが混在する管理職という仕事は、誰もが幸せになると確約されたものではありません。そのため、なるかどうかに関わらず、管理職についてのより深い理解が将来を見通すためにとても重要です。本書のタイトル『罰ゲーム化する管理職』という言葉にはっとした方は、ぜひ一度目を通し、管理職というキャリアに向き合ってみてはいかがでしょうか。

 

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