競争力の高い企業の特徴とは? 共通している「組織運営の在り方」
PHPオンライン衆知 / 2024年11月1日 12時0分
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『ミンツバーグの組織論 7つの類型と力学、そしてその先へ』(ヘンリー・ミンツバーグ著、池村千秋訳、ダイヤモンド社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
組織とは何か
組織とは何でしょうか。その定義は様々です。組織は共通の目的があり、集団であるという2つを満たすものと言われています。そして、組織を生き物と見立てることが多いように、組織ほどにその最適なあり方を示すことが難しい対象はありません。
組織の発達段階を示すような考察もあるものの、トップダウンで求心力のあるベンチャー企業もありますし、素晴らしいハーモニーを奏でている大企業もあって、そのどちらが望ましい組織かと断言することはできません。環境や戦略によって最適な組織は変わりますし、組織のありように従い最適な戦略が移ろうものでもあります。
本書にはレストランの例が出てきます。ファストフード店、高級レストラン、ケータリング専門店といった様々な形態があって、そのどれが最高のレストランかを特定することはできません。組織はまさにそのようなものだと言えます。
そのような取り扱うことが難しい組織論の中でも、本書は最も体系的かつ実用的な一冊だと思います。まず、組織や人の特徴を表す3つの要素を紹介します。
アート・クラフト・サイエンス
戦略形成や組織で重要なことの多くは、アート、クラフト、サイエンスの3要素の関係で説明できる、というのは著者の有名な主張ですので、もしかしたら様々な本や記事でご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
データや再現性を重んじるサイエンス志向、直観と観察を大切にするアート志向、経験や行動を重視するクラフト志向の3つをどのようなバランスで持っているかは、人や組織を顕著に表す特性とされています。
皆さんの組織は何を重んじているでしょうか。ポジショニング戦略を重視する組織はサイエンス傾向が強く、新しいことを野心的に実験する会社はアートとクラフト傾向が強いようではあります。ただ、そのどれが自社に最適なのかの結論を出すのは、もう少し深く考えていく必要がありそうです。次からは本書の中核にある4つの組織形態について触れていきます。
4つの組織形態
まずパーソナル型組織です。その中心にいる、すべての責任を持つ最高位者が絶大な影響力を持つことが特徴です。組織が小さいときや、企業再生・改革等のトップダウン時にこの形式がとられることが多いといいます。ビジョンをもった人に導かれれば活力に満ちた組織になる一方で、その人への依存度が高いという特性があります。
次はプログラム型組織で、ピラミッド型の階層と、秩序、コントロール、システムなどを重視していることが特徴となります。最低限のトレーニングで業務を実行できるように、各部署で行われる業務をできるだけシンプルで反復性の高いものに調整します。成熟した組織でこの形態をとることが多く、効率性を高められる利点と、イノベーションが難しい難点があります。
第三の形態はプロフェッショナル型組織です。病院や学校やコンサルティングファームの多くが該当します。高度なスキルを持った人たちが集まっていることが特徴で、号令がなくとも高度な調整が行われ、専門職の自律性を尊重します。一方で、管理体制の変化への抵抗が強く、数値評価することも難しいという問題があります。この種の組織は「メリトクラシー」と呼ばれる能力主義で統制されます。
そして第四の形態は、プロジェクト型組織です。テクノロジー関連の研究機関、前衛的な作品をつくる映画制作会社などの組織で見られる形です。起業家精神をもった組織内のエキスパートたちが協働し、高度なイノベーションを追求します。複雑性が高く、変化も激しいため、チームワークが重視されます。なお、曖昧な状況を好まない人には適していない、定型の業務を実行することには長けていないという問題があります。
4つの組織形態と4つの力
パーソナル型は圧倒的な個人に率いられるためアートとクラフトが強く、プログラム型は再現性を求めサイエンスが強いことは想像しやすいでしょう。プロフェッショナル型は主にサイエンスとクラフトを重視し、プロジェクト型はアート・クラフト・サイエンスをいずれも発揮する傾向があるといいます。
本書の中には、4つの組織形態で作用する「4つの力」が紹介されています。各組織形態の核心をついていることが印象的です。パーソナル型組織は「統合」、プログラム型組織は「効率」、プロフェッショナル型組織は「熟達」、プロジェクト型組織は「協働」の力が大きな役割を果たしています。
上記の整理は説明不要なほどに、きれいに組織の姿を表しているのではないでしょうか。論理的な納得感が高く、私たちが4つの組織形態を俯瞰することを促してくれます。
生き物と組織
本書では他にも3つの組織形態と力が紹介されていますが、主要な組織形態は今までに触れた4つと扱われているため、ここでは割愛します。上記で各組織の特徴や長所・短所について押さえてきました。
さて、ここであなたの所属する組織は4つのうちのどれだと思うでしょうか。同じ会社でも違う形態を内包していることもありますし、フェーズによって変化することもあるでしょう。つまり、どれか一つと言い切れる組織はむしろまれかもしれません。実際は、それらの形態を状況によって選ぶ、ハイブリッド型になっているのです。
このハイブリッド型においてその時々に重視する組織形態を変えていく柔軟性が、組織の力そのものだと私は思います。プログラム型からプロジェクト型の要素を強める瞬間、プロフェッショナル型から危機に際してパーソナル型に転換する瞬間などに、組織が持つ文化や人材の質が問われ、成果を大きく変えていくことになるのです。
組織の解像度
冒頭に触れたように組織は変化し続ける生き物のようなものです。そして、その組織に対する解像度を上げようとすると、究極的には個人個人に行きつき、その個人ですらコンディションによって状況が変わり続けます。
今、自分がフォーカスすべき組織の規模や状態によって、そのどこまでを観察して対処していくかのスケールを変えていくべきです。究極的には見るべき時に個人個人の状態までに解像度を上げていけるかが、組織の運営上の精度を左右します。だからこそ、優れたマネジメントにはリベラルアーツの知見を深めることや、自身の経験を振り返ることなどを通じて、人そのものや組織の動きに対する洞察力を高めていくことが求められるのです。
人はすべて、周りの人に誇れるような美しく優れたところもあれば、誰にも打ち明けたことがないような醜いところもあります。優れた組織は成果に向けて、構成する一人ひとりがもつ優れたところ持ち寄りたくなるような空気があり、それが優れた文化と呼ばれるものでもあるように思います。
あなたの組織は今どのような状態でしょうか。今の組織をより優れたものにするために、本書は体系的な知見が得られる最も頼りになるだろう一冊です。ぜひ本書に目を通していただき、卓越した組織を率いるか、サポートするか、ご自身ならではの活かし方を考えてみて下さい。
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