「イーロン・マスクを超える男」サム・アルトマンとは何者か? ChatGPT開発の舞台裏
PHPオンライン衆知 / 2024年12月4日 12時0分
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン』(小林 雅一著、朝日新聞出版)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
GPT‐4の衝撃とOpenAI
2023年3月14日、GPT‐4が一般向けに公開されました。私はGPT‐4が利用できるChatGPT Plusに登録をして、いくつかの指示を出してみました。多くの人と同じだと思いますが、私もGPT-4のあまりの優秀さに衝撃を受けました。もしかしたら、シンギュラリティはすでに超えつつあるのかもしれないな、と。
その頃私が運営しているサービスでは、動画を本格的に展開する準備を進めていました。コンサルタントに聞いてみるように、いくつかの質問をChatGPTにしてみました。どうすればYouTubeチャンネルの登録者数が伸びるのか、というように。すると、調べるのが難しく、できても手間がかかる質問に対して、高い精度で回答が得られたのです。
本格的なAIの時代がすぐに来ると思い、日本ディープラーニング協会が提供されているAIの開発者資格を取得し、社員にはAIのマネジメント資格の取得を推奨するため、全額補助制度を導入しました。
ITがあらゆる産業で活用されているように、これからはAIが全産業で活用される日が来る未来はすぐ来る気がしています。今までわからないことがあればまずはGoogleで調べていましたが、これからはChatGPTなどのAIに尋ねることが増えていくのでしょう。
ChatGPTやその基盤となるLLMのGPT‐4のような革新的なサービスを作り出したOpenAIとはいったいどんな会社なのでしょうか。そして、そのCEOであるサム・アルトマンとはどのような人物なのでしょうか。本書の内容に触れたいと思います。
サム・アルトマンの半生とGPT‐4の誕生
アルトマンは1985年4月に米国中西部のシカゴのユダヤ系家庭で、長男として生まれました。両親は弁護士と皮膚科医で大変教育熱心な家庭だったそうです。アルトマンが17歳の時、宗教的な理由からの偏見にさらされる中、全校生徒の前で自分がゲイであることをカミングアウトしました。
少年時代にコンピュータをもったときから、アルトマンはいつの日かコンピュータが自分で考えるようになるだろうと直感していたそうです。スタンフォード大学でコンピュータ科学を専攻するのですが、AIの講義を受けたのはまだAIの冬と言われる低迷期で、全然使い物にならない、という感想を持ちました。
2年生で大学を中退し、同僚と「ループト(Loopt)」という会社を立ち上げ、友人同士がどこで何をしているかを互いにシェアするアプリの展開を目指していました。ガラケー向けのアプリだったため、iPhoneのブームによりあっという間に時代に取り残される気配を感じ、この会社を4300万ドルで売却。アルトマン個人は500万ドルを手にしたといいます。
そして2015年にアルトマンは汎用人工知能であるAGIの開発に乗り出します。すでに著名だったイーロン・マスクが資金を拠出し、アルトマンを創業者として非営利の研究団体の「OpenAI」が立ち上がりました。世界的なAIの技術者を取り込みながらも、AIの世界で圧倒的な優勢を築いているGoogleに勝てるのか、という疑問の声もあったものの、やってやれないことはないだろうという結論になったそうです。
凄いAIを作ろうとしている有志団体のような雰囲気だったOpenAIは、グーグルの研究チームが発表したトランスフォーマーと呼ばれる技術に興味を持ち、それを突破口に目覚ましい展開を始めます。このとき、グーグル関係者の中でも、この技術の本当の価値をわかっている人はいなかったといいます。
AIの開発を進めるのに年間20億ドル以上の資金が必要だと考えられたため、巨額の資金調達が必要となりました。そして母体となる非営利団体のOpenAIの下に株式会社OpenAIを設立しました。その際、イーロン・マスクはOpenAIを自分の会社にしたいと主張したため、アルトマン等と決裂し、結果としてイーロン・マスクはOpenAIから離れることになりました。
その後、OpenAIはマイクロソフトの資金を得て開発を加速し、初期段階から他のAIをしのぐ性能をたたきだすGPTの開発に成功します。そして、脳のシナプスのような役割と言われるパラメータ数やデータ量・計算量を増やすことでAIの性能が進化し続ける法則を発見し、その法則を元に段階的なバージョンアップを重ね、とうとうGPT‐4の開発に成功したのです。その間にはアルトマンに対するクーデターなどの紆余曲折がありましたが、詳しい展開は本書を参照いただければと思います。
AIと著作権
現時点でもAIにはいくつか問題を抱えています。そのうちの代表的なものは著作権に関わることです。もちろん著作権は創作者の利益を守るものであるとともに、創作を促すものであるため、人類の発展のために大切な権利だと考えられています。
著作権法の中では、フェアユースという考え方があります。例えば教育や研究目的の利用はフェアユースの範囲内と考えられています。AIによる学習がフェアユースの範囲なのか、また、AIが制作したものが元々の作品の利益を侵食しているかどうかも争点になりえます。
例えばアルトマンは、「(ChatGPTのような)生成AIが各種テキストなどのコンテンツを学習するのは、ちょうど我々人間が書物や新聞などを読んで学ぶのと同じことだ」と述べたそうです。一方で、各種クリエーターやニューヨークタイムズなどは「生成AIの学習はフェアユースではない」と考え、提訴をしています。
AIと著作権の問題は立場によっても捉え方が異なっています。特にAIが誰かの作品を無断で学習することが著作権侵害なのかどうかが、著作権者の利益とAIの進化のどちらが有利になるかを分けるポイントになっていくでしょう。
これからのAIの進化
AIの進化を導いたトロント大学のヒントン名誉教授は、気候変動を解決するように依頼されたAIが、気候変動の原因は人間と考え、人類を排除しなければならないと考えそれを実行に移す可能性について警鐘を鳴らしています。
このようにAIが人間の能力を超えるスーパーインテリジェンスとなった際には、私たちの人権をAIがどうとらえていくのか不確実だと言えます。
ケヴィン・ケリーがその著書『テクニウム』で語ったのは、テクノロジーの進化は生命システムのようであり、進化そのものを永続的に存在し成長させていくもので、止めることは不可能だろうということでした。また、テクノロジーのもたらす結果を予防することはできないため、自律共生できるように努力した方がよいとも主張されています。
民主主義と資本主義が強固なイデオロギーとなっている現代では、科学を退化させることはほぼ不可能で、我々はいつか人類を超えるような知性を目にすることになる可能性が高そうです。それがいつなのかはわかりません。もしかしたら人類の知性は今私たちが考えている以上に深淵なもので、AIに超えられるのはずっと先かもしれませんし、もうすでに超えられ始めているのかもしれません。
OpenAIは人の生活を革新するのか、危険にさらすのか、明らかになるのはもう少し先になります。ただ、OpenAIの手によらなくても、AIの発展はきっとどこかの会社が導いていくことになるでしょう。その未来がどんな人々や組織によって切り開かれていくのかは、本書を読めばより想像しやすくなるでしょう。AIの発展に興味がある方はぜひ押さえておきたい一冊です。
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