くり返す精神疾患の原因になる「親との愛着関係」 大人になってから克服するには?
PHPオンライン衆知 / 2025年1月28日 11時50分
うつ病や不安症など精神疾患をくり返す場合、その背景には「幼少期の親子関係」が隠れているかもしれません。書籍『大人の愛着障害』より解説します。
※本稿は、村上伸治 (監修)『大人の愛着障害』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。
いつから「いまの自分」ができあがったのでしょう?
失敗して落ち込むことは誰にでもあります。でもそのたびに大きなダメージを受け、うつ病や不安症などの精神的問題が生じているなら、いつからいまの思考パターンができたのか、幼少期の記憶を思い出してください。自分を追い詰め、無理な"がんばり"を強いてきた理由を見つけていきましょう。
<A山A子さんのケースを参考にあなた自身をふり返ってみよう>
パニック症とうつ病で精神科にかかっていたA山A子さん。治療中に医師から幼少期のことを指摘され、幼少期からいままでのことをふり返ってみることに。あなたもA子さんの受け答えを参考に、自分自身についてふり返ってみよう。
――親御さんは厳しかったのですか?
【A子】あまり怒られた記憶はありません
●怒らせないように気をつけていた
両親から怒られた記憶はあまりありません。親からも周囲の大人からも「お手伝いをしてえらいね」とほめられることが多かったと思います。母は仕事や弟のことで大変そうだったので、怒らせないように気をつけていました。小学生のときはピアノを習っていて、ピアノを弾くと母は喜ぶので練習をがんばりました。
●ほめられるのは当たり前だった
学校の勉強はできるほうでした。よく委員に選ばれました。「面倒見がよく、勉強もできる子」だと見られていました。ほめられてもあまり嬉しいとは思いませんでした。いつもほめられていたので、当たり前のことでした。逆に「もっとがんばらなければいけない」と思っていました。
――小さいとき、どんな子どもでしたか?
【A子】しっかりした子だと言われてきました
● 「ちゃんとしてね」と言われていた
長女です。4歳のときに弟が生まれました。そのとき母から「もうお姉ちゃんなんだからね」「ちゃんとしてね」と言われたことを覚えています。母は学校の教師として働いており、つねに忙しくしていました。父も仕事が忙しく、夜遅く帰宅することがほとんどでした。両親とともに過ごす時間は週末くらいだったような気がします。実際はどうだったのかあまりよく思い出せません。
●親に頼るのはダメなのかなと思った
弟は少し手がかかる子で、母はさらに忙しくなりました。私も弟の面倒を見ないといけないのかなと思い、母のことを手伝いました。父は家事にあまり参加していなかったように思います。ちょっと遠い存在でした。困ったことがあっても、親に頼るのはダメなのかなと思っていました。
あなたはどうでしたか? 小さいときのあなたについて思い出してみましょう。
普通の家庭で育てられていても愛着の問題で悩む人は多い
虐待などの不適切な養育環境ではなく、まったく普通の家庭で育てられたにもかかわらず、愛着に問題を抱えている人が実は多くいます。
・些細な誤解で親子の距離が広がってしまった
虐待などはないのに愛着の問題が生じる例としてもっとも典型的なのは、神経発達症(発達障害)がみられる子どもの場合です。愛着関係は相互のやりとりで形成されます。ASD(自閉スペクトラム症)がある場合、他者に関心を向けるようになるのは小学生以降になることが多いです。愛着関係の基本が形成される3歳ころまでは、他者との情緒・相互的交流が育ちにくいため、親との愛着関係形成が困難になります。
また、発達の問題がなくても、些細な誤解がきっかけとなり親子関係にボタンのかけ違いが生じ、それが長期化し、親子の距離が広がってしまった可能性も考えられます。目立った衝突や葛藤がないため、親も子も自分たちのあいだにある溝を、なかなか自覚できません。
しかし原因はどうであれ、基本的安心感や自己肯定感が乏しく、それが子どもの頃からあったのであれば、どこかに愛着の問題(広義の愛着障害)が隠れていると考えるべきでしょう。
・くり返す精神疾患の背景になっている
うつや不安症などの精神疾患がくり返されるケースでは、表面化している症状だけを見るのではなく、根底にある身体の機能的な問題(発達の問題)と養育の問題(愛着の問題)にまで目を向ける必要があります。上図に示したように、精神疾患の根底には発達と愛着の問題が存在すると考えると理解しやすいでしょう。
とくに愛着は、物心のつかない、自我ができあがっていない時期に生じ、精神という建物の土台をつくります。ここに問題があると、土台の歪みが、やがて別の精神疾患などを引き起こします。
上層階や屋根が立派でも土台が弱ければ、その建物は傾いてしまいます。外にあらわれた疾患の背景にある愛着の問題に目を向け、自己理解を深めていくことは、精神疾患の根本的な治療にもつながるのです。
親との関係がわるくないなら親と小さい頃の話をしてみる
幼少期にしっかり愛着が形成できなかった場合も、その後の人間関係を通じて愛着を再形成していくことはじゅうぶん可能です。
・思春期までなら親との関係を再構築できる
思春期ぐらいまでなら、もう一度親とのあいだに愛着を形成することもできます。不登校や摂食症などなんらかの問題が生じ、それがきっかけで親子関係が修復されるケースもあります。
ある娘さんは摂食症になり、命に危険が及ぶほどまで重症化しました。闘病を通じて、「とにかくがんばりなさい」と励ますばかりだった親御さんが、「生きていてくれるだけでじゅうぶん」というように態度を変え、その後関係が改善しました。
ただ、年齢を重ねてしまうと親子関係の修復は困難です。そもそも親子の相性がよくない可能性もあり、やりなおそうとしてかえって悪化しがちです。どちらがわるいのではなく、お互いに苦しくなります。
・ひとりとの関係より、まんべんなく
大人になってからの愛着再形成は、むしろ親しい友だちやパートナーを対象としたほうがよいでしょう。ひとりに集中して愛着形成を手伝ってもらうと、相手の方への負担が大きくなりすぎるため、何人かにまんべんなく甘えるように伝えています。
たとえパートナーであっても、親代わりまではできないものです。最終的に相手の重荷になり、関係がはたんしかねません。
愛着に問題を抱えている人にとって、適度に人に甘えるというのはとても難しいことです。愛着再形成の過程で相手にすがり、過度に甘え、攻撃的になり、関係を壊してしまうことがあります。2~3歳の子どもがわがまま放題にふるまうのとはわけが違います。
すっかり成長し、すでに大人になってしまった人間の、ずっと秘めていた愛情要求が爆発するのです。いったん求め始めると際限がなくなるまで求める人もいます。相手が情緒不安定におちいり傷ついてしまうこともあります。専門家がこうした問題を扱う際は、パートナーの方に同席してもらうこともあります。親代わりの愛着形成はそれぐらい難しいものなのです。
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