大人相手に物事を説明するとき「事前に確認しておきたい」1つのポイント
PHPオンライン衆知 / 2025年1月15日 11時50分
「大人に教える大人」という職業は少ないといえます。
ビジネススクールの先生、カルチャースクールの講師、企業研修講師といった方々でしょうか。大人が学ぶ場には、年齢も背景もバラバラ、多様な価値観を持つ人たちが集まります。年齢や背景が違えば、知識や経験の差も出てきます。
つまり、人の数だけ教え方があるということです。そんな「現場での仕事の教え方」について、おさえるべきポイントを見ていきましょう。
新人や後輩を教える立場になった先輩社員に対して、豊富な研修実績を持つ関根雅泰さんの書籍『改訂新版 オトナ相手の教え方』より上手な教え方が循環していく方法を紹介します。
※本稿は、関根雅泰著『改訂新版 オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)を一部抜粋・編集したものです。
「教える」とは3つの手助けである
教えることの本質として、「相手の立場に立つ」については前の記事で説明しました。
ここでは、もう一つの本質「学習の手助け」についてお話しします。
教えるとは「学習」の手助けであり、大人が学ぶのを横からそっと手助けするのが「教える」ということです。
では、大人が学ぶってどういうことなのでしょうか。知識や使える技術が増えること、考え方が変わること、色々ありそうです。仮に「学習=○○」としたら、何が入るでしょうか。学習=成長、経験、実践、苦痛などが考えられます。
今回の一連の記事では、大人相手に教える場合、学習=「獲得」「参加」「変化」と定義します。
まず、「学習=獲得」とは、教える相手が知識、技術、態度といったものを「獲得」できれば、学んだと評価されるということです。
一般的に、教えるという時にイメージされるのが、この「獲得」を手助けする教え方です。知識が少ない、技術が足りない、望ましい態度が不足している相手に教えることで、その不足分の獲得を手助けするのです。
2つ目の「学習=参加」を分かりやすく喩えると、中途採用者が新しく別の会社に入る時でしょうか。中途採用者が新しい会社に入ると、前の会社とは違う雰囲気ややり方に戸惑うことがあります。
もちろん、中途採用者だけでなく、新卒社員、アルバイト、パート、契約社員など、新しい環境に入っていく必要がある人たちには、この「参加」が求められます。
よくあるのが「前のやり方にこだわる」「新しいやり方を受け入れようとしない」状態で、そのためになかなかその場になじめない人たちもいます。
そういう人たちも含め、職場や会社に参加できるよう手助けすることも、教えることなのです。
3つ目の「学習=変化」というのは、心理学の観点から見た学習の定義です。教わった人が何らかの変化を起こせば、その人は「学んだ」と評価されるということです。では、どんな「変化」があるのでしょうか。
教わったことで、その人が今までとは違った行動を取るようになったとすれば、それは皆さんが上手く教えることができたということです。
私自身はこの「変化」を手助けすることが、大人相手に教える時に一番難しいことだと思っています。
ポイントは「理解」「小分け」「確認」
上手な教え方になるために、押さえておきたいポイントとしては3つあります。
①コップの大きさ
②小分けにして入れる
③理解度の確認
で、ここではコップに水を入れる行為を例にして説明していきます。
〈①コップの大きさ〉
相手に説明する前に、まずは相手の「コップの大きさ」をはかることが重要です。
いきなり説明に入るのではなく、「これから~について説明したいんだけど」「~についてはどのくらい知ってる?」など質問するということです。
この「コップの大きさ」は、知識・技術のレベル(度合)だけではなく、その時の相手の状態、特に気持ちや意欲の面もはかる目的があります。
〈②小分けにして入れる〉
「コップに入るだけの量を、小分けにして入れる」イメージで教えるのです。つまり「あれもこれも詰め込まない」「持っている情報を全部伝えない」ということです。
仮に、持っている情報が10 あったとしても、相手のコップの大きさによっては、3までしか説明しない、残りの4~ 10 は後で説明する、といった感じです。
先述した「獲得を手助けする」という観点で考えると、注ぎ込まれた水がコップの中に収まらなければ、「教えた(伝わった)」とは言えません。
教わる側に理解してもらうためには、情報を「分ける」ことが重要です。パンを相手が食べやすい大きさにちぎってあげるというイメージでしょうか。「分けると分かる」のです。
また、「小分け」にして説明する際、中身に「Why(なぜ)」を入れることも意識してみてください。やってもらいたい何かを説明し、実際仕事として行動してもらう際に「Why(なぜ)」やるのか、その理由や目的も説明してほしいのです。
どの行動にも理由があると考え、その理由を答えられるようにしておきましょう。
〈③理解度の確認〉
私たちが伝えた情報が、どれだけ相手のコップに入ったのかを確認します。会社で教えていて苦労することの1つが、この「相手の理解度」です。
理解度の確認をする方法は、「言葉にしてもらう」「文字にしてもらう」「行動してもらう」の3つです。
私たちが確認すべきは、YesかNoではなくて、「どのくらい伝わったのか」ということです。「1から10 まで説明して、全部とは言わないけど、どのくらい伝わった? 1から3ぐらいまでは伝わったかな?」ということを知るのが「理解度の確認」です。
「息を吸って吐くように」教える
「説明を聞く」という行為は、教わる側にしてみれば、情報を「吸う」ような行為で、スーッと息を吸い込むといった感じでしょうか。ただ、人間ですから、ずっと息を吸い続けることはできません。息をハーッと吐くことも必要になります。ハーッと吐いた後であれば、スーッと吸いやすくなりますよね。
つまり、息で喩えると、私たちの説明を「吸わせたい(聞かせたい)」ならば、まずは相手に「吐かせる(言わせる)」ことが必要なのです。
「上手な説明の仕方」で考えれば、コップの大きさをはかり(吐かせる)、分けて分かりやすく説明し(吸わせる)、理解度を確認する(吐かせる)ということです。
一方的に説明して、ずっと吸わせているような状態は、特に大人相手に教える際には避けるべき行為です。
大人に納得して説明を受け入れてもらえるように、本人なりの考えを言わせます(吐かせる)。その上で、私たちの説明を聞かせて(吸わせて)、最後に理解度や本人のやり方を聞く(吐かせる)というのが、大人相手の説明には必要なのです。
この一連の流れがスムーズに循環していることが、教える側と教えられる側の理想的な関係性を育むのです。
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