書店員芸人・カモシダせぶんが小説家デビュー 元ネタになった「濱口優のもとで創作したコント」
PHPオンライン衆知 / 2024年12月19日 17時0分
"書店員芸人"として活躍中のカモシダせぶんさんが、このほど『探偵はパシられる』で小説家としてデビューされた。番長のパシリとして奔走する高校生の主人公が、探偵さながらの名推理を展開するこの連作ミステリーは、かつて、濱口優さんのもとで創作したコントが元ネタになっているのだそう。カモシダさんのデビューを記念して、おふたりに当時の思い出を語り合っていただいた。
※本稿は、『文蔵』2024年10月号の内容を一部抜粋・編集したものです。
おもろいヤツにはおもろい事件が起こる
――おふたりは同じ事務所の先輩後輩という関係になりますが、日頃から親しい間柄なのでしょうか。
【カモシダ】親しいなんて恐れ多くてとんでもないです! 僕から見れば濱口さんは雲の上の存在ですから。ただ、今から十年くらい前に濱口さんが「はまぐちコントサークル」という若手とユニットコントするライブをされていて、そこに若手が大勢集まっていたんです。僕もその一人でした。
【濱口】まだ新宿角座があった頃やね。新しい劇場ができるというので、せっかくだから何かやろうよと周囲に声をかけたら、40人くらい集まったのを覚えてる。
【カモシダ】松竹の芸人なら誰でもネタ(コント)を応募していいシステムだったので、まさしくサークルみたいな雰囲気でしたよね。
――カモシダさんもそこでせっせとコント作りに励んでいた、と。
【カモシダ】そうですね。というか、若手がみんなこぞってネタを提出していて、それを濱口さんや(松竹芸能の)社員の人が精査して、良さそうなものを集めて「ちょっと稽古してみようか」とやっていた感じです。
【濱口】ああ、そうやったね。一人一本とはかぎらないから、毎回80本くらいのネタに目を通してた気がする。そこから30本くらいに絞って、リハをやってさらに選抜していくんよな。
【カモシダ】重労働だったと思いますけど、僕からすると芸人仲間と一緒にやれる楽しさがありました。何より、濱口さんがいつも温かい空気を作ってくれるのでありがたかったですね。
――カモシダさんが「はまぐちコントサークル」への参加を決意したきっかけは何だったのでしょう?
【カモシダ】そもそも僕はめちゃイケ世代なので、濱口さんと何かご一緒できるのであれば、飛びつかない手はなかったんですよ。タイミング的にもコンビを解散した直後で、これからピンで何ができるかなと悩んでいた時期でしたから、集団コントの中で自分の色が見つかればいいなと思っていました。
【濱口】そういえば、その頃からもうパシリのネタをやってたよな(笑)。
【カモシダ】そうなんですよ! 最初に提出した台本が、まさにパシリネタでした。というか僕、学生時代は本当にパシリでしたからね。
【濱口】実話やったんや(笑)。俺の中でもあのへんから、「カモシダ=パシリ」という認識が生まれてるからね。あと、家が燃えたエピソードもあるか。
――それは何ですか?
【カモシダ】僕、火事で家が全焼したことがあるんです。それもまったく火の気のないところに、窓から射し込んだ日光が鏡に反射して発火する、収斂火災というすごく特殊な原因で......。
【濱口】要は虫眼鏡みたいなことやろ? この話を初めて聞いた時、そんなこと本当にあんねんなってすごくびっくりしたけど、「とりあえずお前は無事なんやな?」「じゃあ笑っていいんやな?」って確認したのを覚えてる。
【カモシダ】おまけに家の修繕費が全部で770万円かかったのに、保険が768万円しかおりなかった。僕、2万円赤字になってるんですよ(笑)。
【濱口】いやあ、何度聞いても笑ってしまうわ(笑)。やっぱおもろいヤツにおもろい事件が起こるもんなんやな。
「はまぐちコントサークル」から育った人気芸人たち
――デビュー作である『探偵はパシられる』は、番長とパシリの掛け合いで繰り広げられる、"日常の謎"ミステリーです。コントのネタとして作成した時から、こうした設定はあったのでしょうか。
【カモシダ】設定は似ていますけど、当時はミステリーではなくお笑いでしたからね。あるヤンキーのパシリが、別のヤンキーのパシリにもなっていて、ヤンキーが嫉妬する、みたいな内容でした。
そのヤンキー役を濱口さんにやっていただいたのですが、リハの時に「俺、濱口の名前でヤンキーやるのイヤだ」と言われたのがすごく印象深いです(笑)。
【濱口】ああ、言ったかも。我ながら怖いイメージとはかけ離れているから、本名のままで演じるのに違和感があったんやと思う。
――濱口さんとしては、このサークルを若手育成の場として捉えていたのですか?
【濱口】いやいや、そんな立派な気持ちはなかったですよ。でも、当時の松竹ってなかなか下の世代が育たない時期だったので、この舞台で面白い若手がたくさんいることを知って安心してました。
【カモシダ】結果的には、あの舞台から育った芸人は多いですよ。
【濱口】そうよな。なすなかにしやヒコロヒー、みなみかわもいたもんな。
【カモシダ】「はまぐちコントサークル」で芸人としての自分の長所を見つけた人は多いと思います。
【濱口】そうだと嬉しいな。当時よく言っていたのは、「ここでウケたネタは、自分のコンビの仕事にどんどん持ち帰っていいからな」ということ。つまり、いろいろ試す場として使ってほしいと思ってた。
いつか「先生」と呼ばれる日を目指して...
――カモシダさんが小説家を目指そうと思ったきっかけは何ですか?
【カモシダ】こうして書店員芸人として活動していると、「自分でも何か書かないの?」と言われることがすごく多いんです。そこでコロナ禍で暇になった時に、いくつか短編を書いて新人賞に応募してみたのが、小説を書き始めたきっかけでした。
【濱口】へえ、偉いよな。コロナ禍の時期をちゃんと自分磨きに使ってるわけやから。
【カモシダ】単に暇だっただけですけどね(笑)。でも、仲良くさせていただいている小説家の岡崎琢磨先生から編集者の方を紹介いただいて。最初はさっきの火事の経験などをエッセイにしてみませんかというオファーだったんですけど、「実は小説も書いてます」とパシリ小説をお見せしたら、これが本になったというのがデビューの経緯になります。
【濱口】それがすごいよなあ。何でも書いとくもんやな。
【カモシダ】本当にパシリにこだわって書き続けてきたよかったですよ。僕、パシリコントのネタ、40本くらい持ってますからね。
【濱口】そんなにあるの?(笑)。自分が面白いと思ってた若手がこうして活躍していくのは、単純に嬉しいわ。
――実際に『探偵はパシられる』を読まれて、濱口さんはどのような感想をお持ちですか。
【濱口】純粋に引き込まれましたね。めっちゃ面白くて。それにコントの場合は、セットの都合などもあって細部をいろいろ削ぎ落として仕上げていくんですが、小説ではその必要がないから、「ああ、カモシダはこういう世界を表現したかったんやな」とあらためて感じましたね。
【カモシダ】たしかに、コントの時はメリケンサックひとつをとっても、いちいち用意しなければならなかったですからね。小道具関係は小説のほうが楽です。
【濱口】いやホント、あの頃は公演のたびに台本を80本近く読むというのは、時間的にも結構大変やったけど、きちんとひとつひとつのネタと向き合っておいてよかったわ。その中からこうして小説になる作品が出てくるわけやから。俺まで報われた思いがするよ。
【カモシダ】ありがとうございます。そうおっしゃっていただけてめちゃめちゃ嬉しいです!
【濱口】俺はもう、この作品の映画化まで期待してるよ。
【カモシダ】ええ! それはさすがにまだまだ......。
【濱口】そんなことないやろ。うち(松竹芸能)の松原タニシにしても、『事故物件怪談 恐い間取り』がしっかり映画になってるし。
【カモシダ】たしかに夢がありますね(笑)。幸い、小説のネタに使えそうな台本が40本ありますから、ここで終わらないように頑張ります。
【濱口】そんで映画になる時には俺を使ってよ。ちゃんと「先生」って呼ぶから(笑)。
【カモシダ】そんな恐れ多い......。でもすごく励みになります!
――小説家としてのカモシダさんの今後にも、大いに期待しています。
【濱口優】
1972年生まれ。大阪府出身。90年、有野晋哉とお笑いコンビ「よゐこ」を結成。数多くのバラエティ番組で活躍し、人気お笑いタレントとしての地位を確立。自身のYouTubeチャンネル「濱口優と秘密基地」を立ち上げ、趣味のキャンピングカーやバイク等の動画で活躍の場を広げている。
【カモシダせぶん】
1988年、神奈川県川崎市生まれ。松竹芸能タレントスクール東京校出身。2013年、「松竹お笑いビブリオバトル」で優勝。お笑いコンビ「デンドロビーム」のメンバー。現在、東京都内の書店で働く、現役の書店員芸人。Bibliobattle of the Year2023新人賞受賞。著書に『書店員芸人~僕と本屋と本とのホントの話~【売れてない芸人(金の卵)シリーズ】』(キンドル)がある。
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