「幼児期の体罰が社会的協調性を発達させ得る」と脳科学者

NEWSポストセブン / 2012年7月27日 7時0分

 幕末の志士たちに大きな影響を与えた吉田松陰。10才で兵学書『武教全書』を藩主の前で講義するなど、知能指数(IQ)が高かったといわれている。そんな吉田松陰について、『ホンマでっか!?TV』でお馴染みの脳科学者・澤口俊之氏が、脳科学的観点から分析する。

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 松陰は、長州藩士・杉百合之助の次男として誕生し、6才のとき、叔父で兵学師範である吉田大助の養子となりました。その後、養父が他界したため、同じく叔父の玉木文之進が創立した松下村塾で教育を受けました。そこで受けた教育は、彼の実母が「いっそ死んでしまったほうがこの子は幸せ」と嘆くほど厳しく、し烈を極めたといいます。体罰の嵐ともいえる幼児教育だったそうですが、この逸話がいまでも語り継がれているのは、その「し烈な幼児教育」が特筆すべきことであり、当時でも珍しかったことを示唆しています。

 さて、知能の遺伝的影響は、幼少期では比較的小さいことがわかっています。つまりその時期は、高い知能を遺伝的に持っていない子供でも、適切な方法で教育を受ければ、知能を向上させることが充分に可能だということです。

 ですから、叔父・玉木文之進による幼少期のし烈な教育で松陰の脳が多くの刺激を受け、知能が幼いうちに向上したことは想像に難くありません。ただし、これだけなら、単に「頭のいい人物」にすぎません。

 もっと注目したいのは、実は、「体罰を伴った教育」という点です。脳には「痛み神経回路」という回路があり、「体の痛みが心の痛みになり、共感・社会的協調性につながる」仕組みがあります。そのため、幼児期の体罰が痛み神経回路を介して社会的協調性や共感性などを発達させ得ることは充分に想定できることです。もちろん、いきすぎた体罰は児童虐待となり、脳を萎縮させることがあるほど酷い所業です。

 ところが、体の痛みなくして心の痛みの回路は発達せず、心の痛みなくして協調性や同情・共感の回路も発達しません。幼児期には「社会的関係における体の痛み」をそれなりに体験したほうがいいのです。昔は子供同士のけんかなどでそれを体験しましたが、いまの子供はそれも充分にできる環境にありません。その影響については別の機会に改めてお話ししたいと思います。

 虐待に近い過酷な教育を受けたのに脳の発達に悪影響がなかった松陰は、体罰を伴った厳しい幼児教育に耐えられる性質を遺伝的(MAOA遺伝子型という)に持っていた可能性があります。それでし烈な幼児教育に耐えられたうえ、痛み神経回路が発達したのではないでしょうか。

 かくして吉田松陰の社会的協調性が発達し、「特殊脳」ではないのに、歴史に残る人物としていまに語り継がれる存在になったのだと思います。

※女性セブン2012年8月9日号



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