“古本者”がマイナー精神で綴るエッセイ【川本三郎氏書評】

NEWSポストセブン / 2019年5月26日 7時0分

『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』/高橋輝次・著

【書評】『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』/高橋輝次・著/皓星社/2000円+税
【評者】川本三郎(評論家)

 永井荷風『ボク(サンズイに墨)東綺譚』に好きなくだりがある。「わたくし」が、にぎやかな浅草を歩いたあと、裏通りに入り、夜まで店を開けている古本屋を訪れる。老いた主人から明治十年代の雑誌を見せられ、思わず心なごみ、「この時分の雑誌をよむと、生命が延るような気がするね」と言う。古本好きの心をよく語っている。

 これまで数々の古本随筆を出されている高橋輝次さんは、まさに古書店に「古き良さ」を求めている古本者。「古いものは美しい」という信念のもとに、現代の人気作家やサブカルチュアには目もくれず、「わたくし」と同じように古いものに心の糧を求めて古本屋を歩く。

 高橋さんは関西在住。出版社も東京一極集中になってゆく現代にあって、それに抗うように大阪や京都、神戸などの古本屋を歩いて、地元の文学者たちの埋もれた本を見つけ出してゆく。まさに「こつこつ」と歩く。テーマがはっきりしている。関西に住んだ作家や詩人たちの書を集めること。その徹底ぶりには感嘆する。地味に、詩人たちの同人誌を集め、紹介してゆく。

 関西詩壇の重鎮だった杉山平一をはじめ、舟山逸子、紫野京子ら中央では、さほど知られていない詩人たちの詩集を古本屋で見つけ評価する。「古本者」の使命はその発見にあると思い定めている。中央中心、人気作家中心の古本エッセイが多いなか、本書のマイナー精神は素晴しい。

 個人的には、映画評論家としても尊敬していた杉山平一、編集者時代に面識があった黒瀬勝巳(若くして自死した)、あるいは、その詩と散文を愛読している舟山逸子の名が何度も出てくるのが嬉しい。

 古本エッセイには、オレはこんなすごい本を見つけたという自慢話に辟易させられることが多いが、本書にはそれもない。あわてず騒がず乏しい予算のなかで、いい本を見つけてゆく。高橋氏は美術好きでもある。美術展の図録には、掘出し物が多いとは教えられた。

※週刊ポスト2019年5月31日号

雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング