林家彦いち 落語という形式をテーマに唯一無二の独創性発揮

NEWSポストセブン / 2019年10月3日 16時0分

イラスト/三遊亭兼好

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、落語家生活30周年記念の落語会を開いた林家彦いちの、唯一無二の独創性についてお届けする。

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 8月26・27日の2日間、林家彦いちが落語家生活30周年記念の落語会を銀座の博品館劇場で開いた。題して「噺家になって30回目の夏なので、銀座で、祝ってもらいます。」。僕は初日に出掛けた。ゲストは春風亭昇太、三遊亭白鳥、そして「熱血スタンダップコメディ」の清水宏。清水と彦いちは20代から一緒にネタを創り、見せ合ってきた仲だ。

 一番手の清水は客席後方から登場、観客全員にスタンディングオベーションを要求した後は、海外での入国審査で体験した爆笑エピソードをハイテンションで語り倒した。

 続いて白鳥が演じたのは『最後のフライト』。悪い大人になった小学校時代の教え子を先生が叱りに来る噺で、通常はA首相が主人公だが、今日は一日限定の「落語協会会長・林家彦いち」ヴァージョンだ。

 彦いちの1席目は、お盆に里帰りした姉と実家の妹が亡き父を偲んで互いに「……という話はどう?」とまことしやかな作り話を披露し合う場面で始まる新作落語『という』。

 そんな娘たちを「父さんは薬局に行ってるだけじゃないの!」と一喝した母が携帯に掛かってきた電話に出ると、父が交通事故に遭い女性が付き添っているとの連絡……「という話はどう?」とこれまた作り話。父が現われ「お前たちが俺を肴に話してるのは嬉しいよ」と満足そう。

 場面は変わり赤羽から徒歩20分のアパートの一室。独居老人が壁に貼った生ビールの宣伝ポスターに「最高の家族だろ?」とブツブツ話しかけている。やがて寝込んだ老人を見つめていたポスターの中のビキニ姿の美女が動き出す……「という落語はどうでしょう」でサゲ。

 昇太が演じたのは怪談が苦手な男が怪談を教わって友人を脅かそうとする『マサコ』。夏の鉄板ネタだ。何度聴いても新鮮に笑えるのは昇太の抜群の話術があればこそ。

 昇太・白鳥・清水の「彦いちを語る」鼎談を挟み、彦いちのトリネタは『私と僕』。ある店で常連客の老人に新作のアイディアを聞いてもらっていた現在50歳の彦いちが、あるきっかけで20年前にタイムスリップしてしまい、30歳の自分に出会う。そこからは50歳の彦いちと30歳の彦いちの会話で物語が進んでいく……と、いきなり「という落語なんです」と冒頭のシチュエーションへ。だが50歳の彦いちは、その老人が20年後の自分だと知る……。

 彦いちが披露した2席はどちらも「落語という形式」がテーマの「メタ落語」。彦いちという演者の持つ唯一無二の独創性を改めて認識させてくれる、見事な2席だった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年10月11日号

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