新作発表の又吉直樹氏、食えない生活を呪い笑ってしまった過去

NEWSポストセブン / 2019年10月26日 16時0分

又吉直樹氏が新作『人間』を語る

【著者に訊け】又吉直樹氏/『人間』/1400円+税/毎日新聞出版

「僕は基本、人間のやることは何でも『おもろい』と思って書いてるんですけど、同じことを見てもそれを『イタすぎる』、『最悪や』言う人もおるし、悲劇か喜劇かは、人が決めることだと思ってます」

 又吉直樹氏の初長編小説『人間』は、美術系の専門学校を卒業後、絵と文筆業で生計を立てる〈永山〉が、38歳の誕生日に届いたあるメールを機に、かつて〈ハウス〉と呼ばれる共同住宅で過ごした日々を20年ぶりに回想する形で始まる。

 美大生や芸術家の卵など、各々の表現を求めて足掻くハウスの住人たちは、日々創作し、議論し、互いを傷つけることも多かった。例えば芸人志望の〈奥〉は言う。〈才能ある奴なんて一人もいないのかもな〉〈なにかしらの存在であると自分自身を騙した人と、それ以外かもしれへんやん。正直、その可能性に賭けてるとこあんねん〉

 才能。その曖昧で絶対的な響きこそが、厄介なのだ。

「僕自身、なりたくて芸人になったのに、食えない生活を呪ってみたりもして、自分でも笑ってしまったことがあるんです。『何してんねん、オレ』って(笑い)。確かに今は器用で賢い大学出身の後輩も増えた。でも芸人になろうっていう人の半数以上は、他のことが何もできひん人やと思うし、『ほな辞めろや』って言われても困るんですよ。『ほな死ね』と同義の言葉やから。

 その“誰のせいにもしにくいしんどさ”が僕には面白いんです。面白いには、痛いとか苦しいとか愚かとか、負の要素も含まれている感じはします」

 18歳で大阪から上京し、縁あってそのアートの巣窟に住むことになった永山は、当時の住人仲間〈仲野太一〉がネット上でとんでもないことになっていると、元住人の〈森本〉から唐突なメールを受け取る。〈≪ナカノタイチ 犬のクソ≫で検索したらでてくるとおもいます!〉〈僕は一周まわって笑いました〉と。

 だが、検索するより先に、永山の脳裏には〈おまえは絶対になにも成し遂げられない〉と彼に断言した仲野の賢(さか)しらな横顔が浮かんでしまう。そして絵本作家を夢見る〈めぐみ〉との悲惨すぎる恋の結末や、永山の初著書『凡人A』に因んだある事件など、苦い記憶ばかりが蘇るのだ。

「ハウス自体は創作ですが、上京直後に周りが妙に大人に見えて気後れする感じは、僕自身の実感でもあります。『火花』や『劇場』の時は客観性を考えて登場人物と自分の距離をあえて離したのですが、結局、読者には“コレ又吉のことやろ”と思われる(笑い)。

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